トライデント_(ミサイル)
[Wikipedia|▼Menu]
トライデント II D5ミサイルの外見と断面

トライデント(Trident)は、複数個別誘導再突入体(MIRV)付き潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)。アメリカ海軍では艦隊弾道ミサイル(FBM: Fleet Balistic Missile)と呼ばれ、核弾頭を装備し、原子力推進弾道ミサイル潜水艦から発射される。当初の一次契約者かつ開発者はロッキード・マーティン・スペース・システムズ社である。

トライデントはアメリカ海軍で現役の14隻のオハイオ級原子力潜水艦にアメリカ製核弾頭付きで、イギリス海軍では4隻のヴァンガード級原子力潜水艦にイギリス製の核弾頭付きで搭載されている。
概要

潜水艦からの発射は海面下で行われる。ミサイルは、17本のチタニウム合金製容器に分割された容器内の炸薬に点火させて、発射管から射出される。爆風のエネルギーは水タンクに導かれ、瞬間的に水を沸騰させて蒸気を発生させる。これによる圧力上昇はミサイルを発射管から射出し、海面へ到達しかつ離脱するに足るだけの運動量を与えることができる。ミサイルは発射管内で窒素によって加圧されており、ミサイルに損傷や荷重を加えたり、不安定化させる海水の浸入を防止している。ミサイルに海面を突破させるため、いくつかの安全メカニズムが備えられており、ミサイルを発射前に非活性化するか、ミサイルを発射の追加フェーズに導く。発射に際して活性化される内蔵運動センサーは、ミサイルが海面を飛び出す前に加速度の減少を検知すると、第1段エンジンに点火する。発射時には、入れ子式に伸縮し空気抵抗を減少させるエアロスパイクが展開され、ブースト段階が始まる。発射から2分以内に第3段モーターが点火され、この時点でミサイルは秒速6000メートル(秒速2万フィート)、すなわち時速2万1600キロメートル(時速1万3600マイル)以上の速度で飛翔している。

ミサイルは、発射後ほんの数分で低高度軌道に到達する。発射母体である潜水艦の航法システムの誤差や装置の較正の不完全さのために飛行中に発生する誘導システムの誤差から慣性航法装置に生じる位置および速度誤差は、天測システムによって修正される。ひとたび天測が完了すると、ミサイルのバス部分は、MIRVを個々の目標へ向けて送り出すようにいくつもの速度ベクトルを実現するように機動する。GPSが何度かテスト時に用いられたが、実戦では使用に堪えないと考えられている。ミサイルの誘導システムはチャールズ・スターク・ドレイパー研究所が開発し、ドレイパーとゼネラル・ダイナミクス・アドヴァンスト・インフォメーション・システムズ(General Dynamics Advanced Information Systems)の共同施設でメンテナンスされている。火器管制システムの開発とメンテナンスは、ゼネラル・ダイナミクス・アドヴァンスト・インフォメーション・システムズによって行われている。

トライデントには、C4(UGM-96A トライデント I)、および、D5(UGM-133A トライデント II)の2つのバリエーションがある。しかし、この2つのミサイルの間には直接的な関係は存在しない。C4はかつて射程延長型ポセイドン (EXPO、Extended Range Poseidon)と呼ばれ、ポセイドン C3 ミサイルの改良版でしかない。しかし、トライデント II (D5) は(C4にも適用されている技術がいくつかあるものの)完全に新規に設計された。C4およびD5という命名は、1960年代ポラリス(A1からA3)とそれに引き続く1971年のポセイドン(C3)の「ファミリー」にトライデントを加えるためのものである。C4・D5 ともに3段固体ロケット推進の慣性誘導ミサイルであり、兵器システムの精度の向上のために天測を用いている。
開発トライデント I ミサイルとその再突入体

トライデント I(トライデントC4)は1979年に配備され、1990年代から2000年代の最初の10年にかけて姿を消した。トライデント Iの目的はポセイドン C3と同等の性能を達成し、潜水艦の生存性を向上するために射程を延長することだった。トライデント II(トライデントD5)の目的は精度を向上させることで、最初に1990年に配備され、2027年まで30年の潜水艦の寿命に合わせて稼動するよう計画された。

ポラリス売却協定1963年1982年にトライデント売却のため修正)のもとで、トライデントはイギリスにも供給された。イギリス首相マーガレット・サッチャー1980年7月10日、アメリカ大統領ジミー・カーターに対し、トライデント I ミサイルの供給を認可するよう要請する書簡を送った。しかしながら、1982年、サッチャーはアメリカ大統領ロナルド・レーガンに対して、アメリカ海軍が導入を推進していたトライデント II システムを英国が入手できるよう要請し、1982年3月に合意に達した[1]。この合意の下、英国は研究開発に5パーセントの負担を負った[2]
D5寿命延長プログラム

2002年、アメリカ海軍はD5ミサイルおよびその搭載艦の寿命を2040年まで延長する計画を発表した[3]。このD5寿命延長プログラム(D5 Life Extension Program, D5LEP)は現在進行中である。このプログラムの主要な狙いは、商用オフザシェルフ(COTS)を用いることにより、最小のコストで寿命の尽きた部品を交換することである。2007年、ロッキード・マーティンは8億4800万ドルでこのプログラムおよび関連作業を実施する契約を獲得した。この契約にはミサイルの再突入システムのアップグレードが含まれている[4]。同日に、ドレイパー研究所(Draper Labs)は3億1800万ドルで誘導システムをアップグレードする契約を獲得した[4]。このとき、イギリス首相トニー・ブレアは、決定に先立って議会で十分に議論されるべきだとしたと述べたとされる[5]。ブレアは、2006年12月4日にトライデント・システム置換のための計画の概略を明らかにし、イギリス海軍次期弾道ミサイル潜水艦プログラム(英語版)により新たな弾道ミサイル潜水艦を建造して現存するトライデント・ミサイルを搭載させるとともに、D5寿命延長プログラムに加わりミサイルを一新するものとした[6]。このプログラムの総コストは2011年には395億4600万ドルに達し、ミサイル1基につき7000万ドルのコストを要している[7]
トライデントI

UGM-96 トライデント I (C4)
ケープ・カナベラルからのトライデント I 初発射(1977年1月18日)
機能潜水艦発射弾道ミサイル
製造ロッキード・マーティン・スペース・システムズ
大きさ
全高10.2メートル (33 ft)
直径1.8メートル (71 in)
質量33,142キログラム (73,066 lb)
段数3
打ち上げ実績
状態退役
射場ケープカナベラル空軍基地 LC-25
オハイオ級原子力潜水艦
ジェームズ・マディソン級原子力潜水艦
ベンジャミン・フランクリン級原子力潜水艦
総打ち上げ回数168[8]
成功161
失敗7
初打ち上げ1977-01-18[8]
最終打ち上げ2001-12-18[8]

トライデントI(またはトライデントC4)はポセイドンC3の後継として開発された。制式名称UGM-96A。
開発の経緯

ポセイドンC3はSLBMとしてはじめて個別誘導の多弾頭 (MIRV) を実用化したが、その代わり射程は要求を満たすものではなかったためトライデントC4は射程延長を最重要項目とし、1971年頃より開発が開始された。初の試射は1977年、部隊配備は1979年から開始された。
性能と特徴

トライデントC4は射程延長が最重要ではあったが、ラファイエット級などのポセイドンC3を使用している戦略ミサイル原潜への搭載が考慮されていたため、弾体の大型化による射程延伸を図ることはできなかった。

そのため燃料搭載量を増加して射程延伸を図ることになり、対策として弾頭数をポセイドンC3の14発からC4では8発に削減した。代わりに弾頭をポセイドンC3で搭載していた核出力50 ktのW68から核出力100 ktのW76に変更することにより威力を確保している。

またポセイドンC3では1段目と2段目が燃え尽きる寸前、所定の速度に達した時点でガスを前方に噴出し、速度の増加を防いでいた。これはロケットモーターの微妙な推力の違いによる、速度のばらつきを抑えるための処置であったが、トライデントC4では完全に燃え尽きるまで使用することとした。ロケット自体もポセイドンC3から1段増やし3段(制御用を含めると4段)とした。

こうした改良により燃料搭載量を増やし、1500km程度の射程延伸をすることができた。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:38 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef