トムテ(スウェーデン語: Tomte, ノルウェー語: Nisse, フィンランド語: Tonttu)は、北欧の民間伝承に登場する妖精である。小さな子供くらいの大きさで赤い帽子をかぶり、農家の守護神とされている。優しい性格で農家に繁栄をもたらすが、一方で気難しく、大事に扱われなければその家は捨て去ってしまう。また、いたずらをされた場合には仕返しをする。北欧圏では、クリスマス(ユール)にはトムテに粥(ポリッジ)を供える習慣がある[1]。この習慣はヴァイキングの時代からあるが、当時は豊穣の神フレイへの捧げものであったとされる[1]。
キリスト教化された後は、トムテは悪魔と同一視されていたが、後にアメリカのクリスマスの影響を受け、スウェーデン版のサンタクロース、ユールトムテとみなされるようになった。ユールトムテはトナカイやヤギの引くソリでやって来て、子供たちにプレゼントを配る。
トムテの外見と性格干し草を盗んで家を逃げ出すトムテ
トムテは垂れ下がった灰色のあごひげをはやし、指は4本である。また、耳は尖っており、暗闇では目から光を放つとも考えられている[2]。背丈は小さな子供くらいで、灰色か濃紺のぼろぼろの服をまとい、鮮やかな赤の帽子を見せびからかすようにかぶっている[3]。トムテは、元々はスカンディナヴィアの民間伝承から生まれたものである[2]。農家の食糧貯蔵庫や納屋を住処にしており、農夫やその家族が幸福に暮らせるようにしている[4]。
農家や農場とのきずなは強く、人々が眠りについている夜、ひそかに自分の仕事をする[4]。トムテの仕事は農場の家畜、とりわけ馬の世話である。トムテは非常に働き者であるのだが、干渉されることを嫌う。清潔で古い農家には、トムテが住んでいるといわれる[3]。トムテの本来の意味は「農場の男」で、農場の敷地や農家を意味する「トムト」[注釈 1]に由来している[3]。見た目は小さいが力強く、何でも仕事をこなすことができる。古代のトムテはもっと小さく繊細で、そのため気性が激しかったとされるが、性格は優しく温厚で、農夫には大変ありがたい存在である[2]。しかし、トムテがいるのが当たり前だと思ってはならない。いつも機嫌を取って、大事に扱わないと厄介なことになる[4]。もしトムテを怒らせると、多くの干し草を盗んでその農家を出て行ったり、仕返しに人間の耳を殴ったりする。家畜を大事に扱わない農夫もトムテの怒りを買い、青あざができるまで殴られる[2]。なかなか気難しい性格でもあり、ご褒美を与えないと、仕事をしなくなる[4]。
トムテが怒るとどういう行動に出るかは、一部の子供向けの本でも紹介されている。トムテを騙されやすい人間だと思っていたずらをすると、この妖精の全く違う面を見ることになる[2][注釈 2]。
ユールとトムテユールの粥をもらうトムテ
クリスマス・イヴには、トムテも家族同様に御馳走を食べられるよう、テーブルの上には食物を残して置く習慣がある。それを忘れると不幸が訪れるという。御馳走にあずかることができたトムテは、その家や農場に繁栄をもたらし、逆にあずかれなかったトムテは、隣家から食べ物を盗むという伝説もある[4]。現代はトムテは子供たちにプレゼントを贈るが[2]、キリスト教化される前のトムテは、プレゼントを上げるのではなくもらう方だった。トムテの仕事への見返りとして、ユール[注釈 3]に報酬として[3]バターを落とした一椀のユールグロット[3](ミルクで煮込んだライスポリッジ[4])を与えられ、納屋にこの粥を置いたり[3]、戸口の上り段や戸外に出しておいた。