トキ
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この項目では、鳥類の種としての狭義のトキについて説明しています。グループとしての広義のトキについては「トキ亜科」を、その他の用法については「トキ (曖昧さ回避)」をご覧ください。

トキ
中国産トキ(陝西省西安にて撮影)
保全状況評価[1][2][3]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
ワシントン条約附属書I
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
:鳥綱 Aves
:ペリカン目 Pelecaniformes
:トキ科 Threskiornithidae
亜科:トキ亜科 Threskiornithinae
:トキ属
Nipponia Reichenbach, 1853
:トキ N. nippon

学名
Nipponia nippon (Temminck, 1835)[4][5][6]
和名
トキ[4][5][6]
英名
Asian crested ibis[3]
Crested ibis[3][6]
Japanese crested ibis[3][4]

トキ(朱鷺、鴇、桃花鳥、紅鶴、鴾、学名 : Nipponia nippon)は、ペリカン目トキ科トキ属に分類される鳥類。本種のみでトキ属を構成する。

かつては世界でわずか数羽になるまで減少し絶滅の危機に瀕しており、日本では環境省レッドリストで「野生絶滅」の状態にあった。しかし日中両国の保護によって、2000年代以降は個体数が回復していった。2019年時点の個体数は、中国が2,600羽[7]、日本が600羽[8]、韓国が363羽[9]

学名は Nipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)で、日本の国鳥ではないものの、しばしば「日本を象徴する鳥」などと呼ばれることもある。新潟県の「県の鳥」[10]、同県佐渡市[注釈 1]石川県輪島市[注釈 2]の「市の鳥」である。
分布とその推移最後の日本産トキ「キン」の剥製(佐渡トキ保護センター蔵)

現在、中国、日本、韓国の3か国で飼育されているほか、3か国とも放鳥された野生個体がいる。
本来の分布
日本

1735年頃に発行された『諸国産物帳』によれば、北海道南部、東北、北陸、中国地方に分布していた[13]明治以降(1860年代後半以降)、20世紀初頭までに種個体群が壊滅し、1920?30年代以降は急速に希少化した[13]

このような状況にあっても、1922年(大正11年)の『日本鳥類目録』(初版、日本鳥学会編)では、北海道(函館)、本州(宮古、西多摩、横浜、美濃、越後)、伊豆七島、四国(徳島)、九州、沖縄、台湾、朝鮮に分布されると記述されている[13]。20年後の1942年(昭和17年)刊行の『日本鳥類目録』第三版では、初版での分布地に加え、佐渡島、隠岐島に生息するとされた[14]

江戸時代の文献との差異及び、日本においては留鳥だったが、ユーラシア大陸東部では広域の渡りが行われていた[15]ことから、太平洋沿岸?九州・沖縄地方へは渡り鳥として飛来していた可能性がある[16]

人工繁殖による種の再導入(英語版)以前における本州最後の生息地は石川県能登半島であり、日本最後の生息地は新潟県佐渡島(現佐渡市)であった。2003年(平成15年)に最後の日本産トキ「キン」が死亡したことにより、現在、繁殖しているのは中国産の子孫である(種としては同一、後述)。
ユーラシア大陸東部

日本国外では極東ロシアアムール川ウスリー川流域)、朝鮮半島、中華人民共和国(北は吉林省、南は福建省、西は甘粛省まで)と東アジアの広い範囲にわたって生息しており、18世紀?19世紀前半まではごくありふれた鳥であった。

しかし、いずれの国でも乱獲や開発によって19世紀から20世紀にかけて激減し、朝鮮半島では1978年板門店、ロシアでは1981年のウスリー川を最後に観察されていない。
種の再導入後の分布

野生では中華人民共和国(陝西省など)に997羽(2010年12月時点)[17] が生息している。

日本の佐渡島においても、2008年(平成20年)以降、人工繁殖のトキが放鳥されており、累計300羽を超えている(後述)。野生でも繁殖が確認され、2020年(令和2年)9月24日時点で、推定458羽が生息している[18]

飼育下では、中国に620羽(2010年12月時点)[17]、韓国に13羽(2011年7月時点)がいる。日本では、2021年(令和3年)2月15日現在、175羽がおり[19]、佐渡市の佐渡トキ保護センターを主に、分散飼育されている(後述)。
現在の生息地
現在のトキの生息地


中国

陝西省

洋県西郷県城固県寧陝県周至県など



日本

新潟県佐渡市など[注釈 3]


韓国

慶尚南道昌寧郡 牛浦沼


トキが飼育されている施設
陝西省西安、:zh:??生態区にて(2013年撮影)

中国(2015年現在[22]

北京動物園トキ飼育センター

陝西トキ救護センター(洋県)

陝西楼観台トキ飼育センター

陝西寧陝県トキ野生復帰センター

河南省董寨自然保護区トキ飼育センター

浙江省徳清県トキ飼育繁殖基地

陝西省銅川トキ野生復帰センター

陝西省千陽トキ野生復帰センター


日本(2021年(令和3年)現在[19]
佐渡トキ保護センターの飼育展示個体、メスのさくら。



佐渡トキ保護センター

佐渡トキ野生復帰ステーション

多摩動物公園

いしかわ動物園 ※展示公開あり

出雲市トキ分散飼育センター

長岡市トキ分散飼育センター

佐渡市トキふれあいプラザ ※展示公開あり


韓国

牛浦トキ復元センター


形態

全長70 - 80センチメートル[5]。翼開長は約130センチメートル。顔は赤い皮膚が裸出する[4][5]。嘴は黒く、先端は赤い[4][5]。後頭には房状に羽毛(冠羽)が伸長する[4]。全身は白っぽいが、春から夏にかけての翼の下面は朱色がかった濃いピンク色をしており、日本ではこれを「朱鷺色」という。脚も頭と同様に朱色で、虹彩は橙色。幼鳥は全身灰色で、頭部が黄色である。

繁殖期は頸部の皮膚が内分泌により黒くなり、ここから剥がれ落ちた皮膚を上半身に塗り付けるため黒灰色になる[4][5]。水浴びなどの後にその擦り付けを行うため、水浴び直後は特に濃く、ほとんど黒に近い。

サギ類が飛翔時に首を折り曲げるのに対し、トキは首を伸ばしたまま飛ぶ。また、クロトキなどとは異なり、飛翔時に脚の先が尾羽から出ない。
独特な羽色の変化『啓蒙禽譜』(作者不詳、1830 - 1840年代頃)より。非繁殖期の白い姿とは別に、繁殖期の姿を「脊黒トキ」の名で描いている。

トキは繁殖期の前、1月下旬頃から粉末状の物質を分泌し、これを水浴びの後などに体に擦りつけ、自ら「繁殖羽」の黒色に着色する。着色は2月下旬から3月中旬頃に完了するが、こすり付ける行動は8月に入る頃まで続けられる。それをやめると、羽の色も次第に元の白色に戻る。このようなトキの羽色の変色方法は極めて珍しく、これまでに確認されていた羽色変化(換羽、磨耗、退色、脂肪分による着色など)のいずれとも異なる。この原理が解明されるのは20世紀も後半に入ってからのことであり、詳細については未だに分かっていないことも多い。

トキの羽色には白色のものと灰色のものがあること自体は、古くから知られていた。江戸時代後期の『啓蒙禽譜』では、「トキ」の横に「脊黒トキ」の名で繁殖期の背面が黒い姿を描いている。1835年テミンクによって学名が付されたが、その後1872年にデビットによって中国で見られた灰色のトキが別種の "Ibis sinensis" と命名されている。デビットはその5年後の1877年に、M・E・オウスタレとの共著の中で、オウスタレの見解に従って「灰色型」のトキは変種であるとし、"Ibis nippon var. sinensis" と改めたが、いずれにせよ19世紀後半から20世紀半ばまでは「白色型」と「灰色型」が存在するという見方が主流であった。1920年にはハータートにより、中国秦嶺や朝鮮半島、日本のトキが「白色型」で、ロシアのウスリー地方のトキが「灰色型」との学説が提唱され、ラ・タウチェ、黒田長礼、水野馨、山階芳麿なども同様の報告を出した。トキの羽色が変わるという説は、佐藤春雄が1957年に発表した仮説、内田康夫の1970年の研究などが発表されるに至って、ようやく学会から認められるようになった。実は1891年にM・ベレゾフスキーによって繁殖羽の変色であるという説が既に発表されていたが、それまでは注目されることもなかったようである。
分類テミンクシュレーゲルの『日本動物誌』に描かれているトキ。下に薄く "IBIS NIPPON" と記されている。

過去には繁殖期の灰色の個体が別種・変種とみなされたこともあったが、現在では亜種などはなく、日本・中国・朝鮮半島・ロシアのいずれのトキも完全に同一の種と考えられている。日本にいたトキと中国のトキのミトコンドリアDNAの差は 0.06% 程度であり、亜種と言えるほどではなく個体間の変異程度にとどまる[23][24]。トキのミトコンドリアDNAには今のところ5つの系統が確認されており[25]、日本で最後まで生き残っていたキン、ミドリ、アオ、アカ、フク、ノリはタイプ1[25][26]、中国で生き残っていたトキの子孫である友友、洋洋、美美はタイプ2である[26]。しかし日本にも以前はタイプ2の(現在飼育・放鳥されているものと同系統の)個体がいたこと、さらに別の系統の存在も判明している[26]

学名「ニッポニア・ニッポン」 "Nipponia nippon " の属名と種小名は共にローマ字表記の「日本」に由来するが、最初からそのように命名されたわけではない。シーボルト1828年オランダへ送った標本により、テミンク1835年 "Ibis nippon " と命名し、シュレーゲルも論文執筆の際にはそれを用いた。


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