デイノニクス
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デイノニクス
デイノニクス全身骨格
地質時代
中生代前期白亜紀アプチアン期中期 - アルビアン前期
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
:爬虫綱 Reptilia
亜綱:双弓亜綱 Diapsida
下綱:主竜形下綱 Archosauromorpha
上目:恐竜上目 Dinosauria
:竜盤目 Saurischia
:ドロマエオサウルス科 Dromaeosauridae
階級なし:真ドロマエオサウルス類 Eudromaeosauria
:デイノニクス属 Deinonychus

学名
Deinonychus antirrhopus
Ostrom, 1969

デイノニクス(Deinonychus)は、前期白亜紀アプチアン期中期からアルビアン期前期、約1億1,500万 - 1億800万年前)の北アメリカに生息した竜盤目ドロマエオサウルス科の代表的な肉食恐竜。本種の命名に伴う論争が恐竜ルネッサンスとして世界的な変革を促した。
概要人間との大きさ比較

発掘された化石から全長3.5メートル前後、体重100キログラム前後とされている。二足歩行で尾は細くしなやかな作りであった。15センチメートルに及ぶ後肢の第2指の大きな鋭い鉤爪(シックルクロウ)が特徴。半月状の手根骨を持っているため前肢の手首の可動範囲が他の恐竜よりも広かった。恐竜の中では大きな脳を持ち、高い知能をそなえていた可能性がある。また集団で発掘されることが多いことから、群れを作り行動する凶暴な捕食者であったと考えられている。骨格から敏捷に動き回っていたと推測されている。本種に襲われたと見られる植物食恐竜テノントサウルスの化石が発掘されていることから[1]、時には自分より大きな獲物にも襲いかかったと考えられている[2]。発達した第2指の鉤爪は肢骨と健の働きによりネコ科のように爪を出し入れできた。かつて鉤爪は構造から考えると肉を切り裂くことは難しく、主に刺突用の武器だとされてきた。だが最近では鉤爪(シックルクロウ)の断面が調べ直され、さらに角質構造の再確認が行われた結果、シックルクロウは獲物へ裂傷を与える役割があった可能性が高い[3]

1964年に古生物学者ジョン・オストロムにより発見された。オストロムはこのような活発な動きをするには恐竜が温血動物でないと無理だと考え、恐竜温血説を唱えるきっかけとなった。これが恐竜ルネサンスのきっかけとなる。その後の羽毛恐竜の発見に伴い、最近では本種にも羽毛を生やした復元が一般的となっている。発見時に大型鳥脚類のテノントサウルスと一緒に掘り出された。この事からデイノニクスは社会性を持ち、協力して集団攻撃を行っていた可能性がある。しかし集団攻撃後には不可解な点もあるため[4]、狩りと同時に共食い/競争排除が起きていた可能性が指摘されている[5]

またデイノニクスに限らず、ドロマエオサウルス類はその脳の大きさから、一般的な恐竜よりも知能が高かったと推測されるが、脳の大部分が高い身体能力の制御の為であり、知能とは無関係であるとする説もある。

日本語では「ディノニクス」と表記される場合があるが、原語(古代ギリシャ語)、英語、ローマ字読みのいずれにおいてもそのように発音することはないため、仮名つづりの類似による誤記である。
古生物学Life restoration

成熟した個体の化石を元に、デイノニクスの体格が導き出された。本種の全長は約3.5メートル、頭蓋長は約40センチメートル、体高は約90センチメートル、体重は約100キログラムと推定されている[6]。この数値は最大級のユタラプトル[7]には及ばずとも、ドロマエオサウルス類の中では大型の部類に入る事を意味する[8]
頭部

発見当初オストロムは本種の頭骨がバラけ気味であったため、アロサウルスを参考に三角形で幅広の頭部を復元した。これは発表時のバッカーのイラストに使われた復元である。しかし三次元的でひずみ/欠損の少ない化石が後に発見され[9]、実際にはオストロムの推測より口蓋が丸みを帯び、鼻先はより狭まっている事が判明した。これは恐竜博2019で展示されたレプリカの形である。頬骨が広く広がっていたおかげで本種は立体視が得意であった。これは逃げる獲物を捕捉する際に非常に役立つ[10]。デイノニクスとヴェロキラプトルの頭蓋骨を比較すると、大きな差異が認められる。例えば内鼻孔の状態が全く違っていた。一方でドロマエオサウルスと比較した場合、頑丈な頭蓋骨がよく似ていた[11]。空洞の配置/数は獣脚類の基本的に則っている。頭蓋骨と下顎の両方に空洞(穴)があり、頭部の重量を軽減する効果があった。眼科と鼻孔の中間に開いた前眼窩窓の開口部は、他の穴に比べて特に大きい[9]
顎/歯

顎に並ぶナイフ状の短い歯は、ほとんどが同じ長さで生えそろっていた。これは肉食性の獣脚類としては珍しい[12]

デイノニクスは2005年に咬合力(噛む力)の推定値が生体力学的に算出された。その研究によると本種の咬合力はアリゲーターの咬合力の15%しかなかったとされた[13]。アリゲーターの咬合力を6000Nと仮定すると[14]、デイノニクスは約900Nの咬合力を持っていた事になる。この数値はシェパードのような大型犬と近い。

ところが別の研究者によって全く異なる数値が導き出されている。こちらの研究では、テノントサウルスの化石に残された本種の噛み傷を手がかりに、彼らの咬合力を直接導き出した。結果は4100N?8200Nで、結果は前述の生体力学による数値よりもはるかに強力であった。この数値はアリゲーターやハイエナの記録に匹敵している。また、成熟したデイノニクスが大型生物の骨にすら明確な傷を残していた事からも、本種の潜在的な咬合力の高さがうかがえる[15]

しかし研究者は本種が骨を頻繁にかじっていた訳でないとしている。研究者のジグナックの推測によれば、本種の顎は直接的な摂食よりも、ライバルとの戦闘/防御や狩りの際に獲物を拘束するといった役割が強いと考えられている。また本種が獲物を解体する時には、骨や硬い部位(かま)を避けて柔らかい内臓などを切り取って食べていた可能性が高いと考えられている[15][16]
前肢

デイノニクスの前肢には3本の鋭い鉤爪が生えていた。前肢は第一指が最も短く、第二指が最も長かった。第三指は全体的に細く湾曲気味である。これらは獲物や外敵との戦闘や、木登りの補助に使われたと考えられている[17]

半月状の手根骨を持っているため前肢の手首の可動範囲が広く、他の恐竜(例アクロカントサウルス)よりも自由に動かせた[18]。こうした手首は現在の鳥類と共通している。なお前腕の鉤爪を狩りに使ったメガラプトル類の腕も同様に可動範囲が広かった[19][20]

多くの近縁種の前腕に羽毛で構成された翼、もしくは翼の痕跡が残されていた事を踏まえると、デイノニクスを含むドロマエオサウルス類には、そろって前肢に複雑な羽毛による翼が備わっていたと考えられている。
後脚コペンハーゲンの博物館にて展示されているデイノニクスの足の鉤爪の模型

後ろ脚の発達した第2指の鉤爪は大きさと形状が特殊であった[21][22]。この爪は専門用語でシックルクロウと呼ばれている。シックルクロウは肢骨と健の働きにより、ネコ科動物の爪のように出し入れが自由自在であった。これによりデイノニクスはシックルクロウを収めたまま大地を駆け回る事が可能で[23]、爪の本来の用途[24]を損ねずに済んだ。


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