ディーゼルエンジン
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燃油については「軽油」をご覧ください。

その他については「ディーゼル (曖昧さ回避)」をご覧ください。

ルドルフ・ディーゼルの特許に基づく最初期の単気筒ディーゼルエンジン(1898年 Langen & Wolf製 出力14.7 kW鉄道車両(国鉄183系気動車)用の高速ディーゼルエンジンの一例。DML30HSI形ディーゼルエンジン
180°V型12気筒排気量30 L(440 PS/1,600 rpm)4サイクル・ディーゼルエンジンの動作

ディーゼルエンジン(: Diesel engine)は、ディーゼル機関とも呼ばれる内燃機関であり、ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼル発明した往復ピストンエンジンレシプロエンジン)である。1892年に発明され、1893年2月23日に特許が取得された。

ディーゼルエンジンは燃焼方法が圧縮着火である「圧縮着火機関」に分類され、ピストンによって圧縮加熱された空気液体燃料を噴射することで着火させる。液体燃料は発火点を超えた圧縮空気内に噴射されるため自己発火する。

実用化された単体の熱機関としては最も熱効率に優れる種類のエンジンであり、また、軽油重油などの石油系の他にも、発火点が225 ℃程度の液体燃料であれば、スクワレンエステル系など広範囲に使用可能である[注釈 1]。汎用性が高く、自動車用小型高速機関から巨大な船舶用低速機関まで、さまざまなバリエーションが存在する。

エンジンの名称は発明者にちなむ。日本語表記では一般的な「ディーゼル」のほか、かつては「ヂーゼル」「ジーゼル」「デイゼル」とも表記された。日本の自動車整備士国家試験ではジーゼルエンジンと表記している。
仕組み

ピストンで空気を燃料の発火点以上に圧縮加熱し、そこに燃料を噴射して自己発火させる。これにより生じた燃焼ガスの膨張でピストンを押し出す「圧縮着火拡散燃焼機関」である。ディーゼルエンジンの本質は「点火装置が不要な内燃機関」である。

ディーゼルエンジンは、4ストロークサイクルと、2ストロークサイクルに大別される。理論サイクルの分類では、低速のものがディーゼルサイクル(等圧サイクル)、高速のものはサバテサイクル(複合サイクル)として取り扱われる。

ディーゼルエンジンは燃料噴射量で出力を制御するため、スロットルバルブを必要としない。すなわち、常時吸入空気余剰の希薄域で運転される。ただし、不均一な拡散燃焼のため、全体では希薄であっても、部分的に燃え残りの粒子状物質 (PM)が発生する。同時に、燃料が希薄な領域では窒素酸化物(NOx)が発生することになる。

燃料噴射装置を用いて燃焼室に燃料を高圧で噴射する。燃焼室形状の違いで、単室の直接噴射式副室式(予燃焼室式・渦流室式)に分かれる。1990年代以降に燃料噴射圧を上げることが可能になったため小排気量エンジンでも直接噴射式が主流であり、乗用車や小型商用車など、気筒あたりの容積が700 cc 程度より小さいエンジンで一般的であった副室式は、窒素酸化物(NOx)と未燃焼炭化水素の発生は少ないが、低効率のため使われなくなった。今日ではディーゼル燃料で大型ガスエンジンを点火するときに副室式が用いられる。
特徴

ディーゼルエンジンは圧縮着火のため高圧縮比となる。一般にピストンエンジンは圧縮比=膨張比であることから、高圧縮比、高膨張比エンジンとすると熱効率が高まる。圧縮比を上げることを気体の熱力学だけで解析すると、対数的に効率は上がり続けるものの圧縮比15を超えると伸び悩む。一方で高圧縮は摩擦損失と可動部品の重量増による慣性損失を増大させ、特に高回転で機械損失が急増する。また高圧縮になるほど着火しやすいが、むしろ着火により完全燃焼しにくくなるため、適正な圧縮比は14台だといわれている。膨張比はより大きくても良い。ただし、低温時や高地でのエンジン始動性のため圧縮比は14より大きいものが多い。

ディーゼルエンジンは高圧縮比エンジンなので発火点さえ確保できれば精製度の低い安価な燃料を使用できる(重油やいわゆるサラダ油・廃潤滑油も使用できる。ただし場合によりアセトンナフサアルコールおよび予熱で流動性を高める必要がある)。ただし、その実現には高価な前処理装置や特殊なエンジンオイルが必要になる。低燃費だがエンジン本体に高い圧縮比に耐え得る構造強度が必要になるため大きく重くなり、初期費用が高い。稼動回転域はガソリンエンジンより低回転でかつ狭いため、車両の発進には有利だが、より多段の変速機が必要になる。

拡散燃焼の特徴から気筒容積あたりの出力が低い代わりに、気筒容積に制限がなく、巨大なエンジンを実現できる。熱効率は良いので必要な出力が得られるまでエンジンを大型化することができる。この場合、大型ほど低速回転になるが、これは大型船舶など低速回転・大出力が必要な用途においては極めて都合がよく、実際に超大型低速ディーゼルエンジンが大型商船の主機関として広く用いられている。

空気だけを圧縮した中で燃料が自己発火するため、予混合燃焼ガソリンエンジンで問題となるノッキング(というよりノッキングの原理を逆用して着火させるようなものである。)やデトネーションが発生しない。そのため過給による吸入充填量の増加で気筒容積あたりの低出力を補うことが容易である。スロットルバルブを持たず低速でも排気圧力が高いことから、ターボチャージャーにより排気エネルギーの一部を回収し、効率を維持したまま排気量1リットル当たりの出力を100馬力程度からそれ以上にすることも可能である。
4ストロークと2ストローク

一般的な中速、高速ディーゼルエンジンには4ストローク機関が使われ、大型船舶や大型発電には、低速2ストローク・ユニフロー掃気ディーゼルエンジンが使われている。2ストロークエンジンで新気をシリンダーに送り込むためには、何らかの過給が必要となる。ガソリンエンジンでは安価なクランクケース圧縮が使われているが、ディーゼルエンジンでは過給機と頭上排気弁を併用するユニフロー掃気ディーゼルターボエンジンだけが生産中である。

4ストロークサイクル・ディーゼルエンジンの各行程:
吸入行程 - ピストンが下死点まで下がり、空気シリンダー内に吸い込む

圧縮行程 - ピストンが上死点まで上がり、空気をシリンダー内で圧縮加熱する

膨張行程 - 燃焼室内の高温高圧の空気に燃料を噴射すると、燃料が自己発火し、膨張した燃焼ガスがピストンを下死点まで押し下げる

排気行程 - フライホイール慣性や、他の気筒での膨張などによりピストンが上死点まで上がり、燃焼ガスをシリンダー外に押し出す

2ストロークサイクル・ディーゼルエンジンの各行程(ユニフロー掃気の場合):
上昇行程 - ピストンの上昇によって掃気ポート、排気弁の順にふさがれ、前半までに掃気が完了し、後半(過半)で圧縮が行われる。その後に圧縮上死点付近で燃料を噴射し点火する。

下降行程 - 前過半で膨張が行われた後、排気弁が開き、内圧が下がり、直後にピストンの下降によって掃気ポートが開き、吸気が排気を押し出す、掃気が始まる。

燃焼行程
拡散燃焼

ディーゼル機関は噴霧燃焼における液滴の拡散燃焼である。燃焼室内の圧縮加熱した空気に液体燃料を噴射すると、複数の微細な液滴が蒸発しながら、個別に表面の拡散域が燃えやすくなり、自己発火と拡散燃焼を繰り返し、隣の液滴に燃え拡がる。近年、液滴間の燃え拡がりの主要因は着火に伴うマランゴニ対流による蒸発ガスの噴出で、着火を伝播すると分かった。そして重力下では高圧になるほど、自然対流により、マランゴニ対流が阻害され、燃え拡がり速度が低下する。その他、高圧になるほど熱拡散率と物質拡散係数も減少するため、燃え拡がり速度に限界がある
[1]

拡散燃焼は一気に着火、燃焼しないので、火花点火・均一予混合燃焼で起こる点火プラグを起点に広がる火炎面の伝播はない。適切な着火遅れは拡散、混合域の拡大により、良好な拡散燃焼をもたらし、燃焼室の隅には空気だけが止まっているので圧縮比が高くても異常燃焼によるノッキングは発生しない。ただし低温始動時や着火性の悪い燃料では長い着火遅れから一気に予混合的に燃焼するディーゼルノックが発生する。

軽油ディーゼルが確実に低温始動するため圧縮比を16 - 18程度にしてきた。この高圧縮比では暖機後の高負荷時に大量の燃料噴射が行われると、燃焼室が大幅に発火点を超えているため、燃料が著しく不均一で濃い領域において、気化する前の液滴まで早期に発火し低酸素状態で不完全燃焼して大量のスス状PMが発生していた。PMは発がん性のある大気汚染物質となる。本来は十分に拡散して気化しかけている液滴の表面から内部に向かって完全燃焼したい。さらに完全燃焼する条件でも空気余剰の燃焼ガスが高温、高圧となるため、余った酸素と窒素が結合し窒素酸化物(NOx)も大量発生する。


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