ディフューザー_(自動車)
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

この項目では、自動車のパーツについて説明しています。その他の用法については「ディフューザー」をご覧ください。
ラ フェラーリのディフューザー

ディフューザー (diffuser) は自動車の後部車体の下に取り付けられる空力部品の一種であり、床下を通過する気流を拡散 (diffuse) し、車両底面を負圧にしてダウンフォースを発生させる。
概要マセラティ・MC12のディフューザー

ディフューザーはアンダーパネルの後部に装備され、車体下面を後方に向けて斜めに跳ね上げた形状をしており、前方から後方へかけて急激に断面積が増えるため車両底面にある空気が後方へ勢い良く吸い出されてベンチュリ効果により加速され、ベルヌーイの定理によりアンダーパネル負圧域が生成される。これが地面効果として車両を地面に吸い寄せる力(ダウンフォース)となり、グリップ力が高まりコーナリング性能やトラクション性能が向上する。東海大学工学部動力機械工学科が日産・マキシマのミニチュアモデルを用いて行った風洞実験によれば、アンダーパネル装着時のダウンフォース発生量は10 gだが、ディフューザーを追加すると620 gにまで増加したという[1]。「グラウンド・エフェクト・カー#概要」も参照

一般的な乗用車の場合、車体下面には様々な部品が露出していて気流の通過の妨げとなっていて、ディフューザーを付けても速い気流が流れず効果はあまり大きくないため、十分にダウンフォースを発生させるためには底面全体をフラットなカバーで覆う必要がある。レーシングカーや高性能スポーツカーは最初から車体下面を平滑なアンダーパネルで覆い、床下の気流を高速かつ低圧な状態に保つように設計されている。

ディフューザーは単体で取り付けるだけでは能力を完全には発揮することは出来ず[2]、アンダーパネルと滑らかに接続され車体底面の気流を速くすることにより初めて大きな効果が得られ、特にディフューザーの跳ね上げ角度が始まる直前のアンダーパネルに最大の負圧域が発生するため(通常はリアの車軸付近)、この部分にアンダーパネルを取り付けることは大変重要である。

ディフューザーはウイングやスポイラーなどのエアロパーツと異なり、ダウンフォース獲得のため空気抵抗を増やさないで済む(場合によっては大幅に減らすことができる)という優れた特徴がある。ディフューザー内部には、気流の乱れを抑制するストレークと呼ばれる垂直板が何枚か取り付けられる場合が多く、ここに発生する縦渦で更にダウンフォースが強くなる場合もある。[3]

ディフューザーのダウンフォース量は車高によって大幅に変わり、車高を低くセッティングすると急激にダウンフォース量が増大する特徴があり、レースカーのように車高が低い車の方が強いダウンフォースが得られる。車高を低くすることが出来ない場合は、サイドスカートを装着して路面との隙間を出来るだけ狭くして気密性を上げ、低圧が発生している車両底面にサイドから空気が流入するのを防ぐ方法も有効である。マクラーレン・セナGTRは、フォーミュラーカーのようにディフューザー上面にも気流を流す構造になっている。

ちなみにリアウイングが車体の比較的低い部分に付けられている場合は、ウイングから発生する負圧によってディフューザーの気流を吸い出す効果を高める場合がある。また、フォーミュラーカーのようにディフューザーのパネル上面にも速い気流を流すと、下面の気流を吸い出す効果がさらに高まりダウンフォースが強くなるが、公道用の車ではボディ形状の問題でディフューザー上面に気流を流す例はほとんど無い。排気の位置をディフューザーの上に配置することにより同様の効果を狙っている場合もある。
フロント・ディフューザーアウディ・R18のフロント・ディフューザー。底面は見ることが出来ないが、フロントタイヤ前は後ろに向かって跳ね上げられディフューザーとして機能させている。 

ディフューザーは多くの場合、リア・ディフューザーとして車両後端に取り付けられるが、レース車両やスポーツカーの一部にはフロントバンパーからフロントタイヤ付近にかけてディフューザーが取り付けられている車もあり、これをフロント・ディフューザーと呼んでいる。これらもベルヌーイの定理でフロントバンパー下に負圧を発生させ、ダウンフォースを得るための仕組みである[4]

古くはポルシェ・956のポルシェハンプもフロント・ディフューザーの一種である。ル・マン・プロトタイプ (LMP)カーは、近年フロント・ディフューザーが上面にも気流を導入するフロント・ウイングのような形状に進化してきている。
工夫と規制裏面から見たアンダーパネル、スキッドブロック、ディフューザー(2007年ル・マン24時間レース)。

レーシングカーの空力設計においては、抗力(ドラッグ)の発生を抑えつつ、いかにダウンフォースを稼ぐかというテーマが追求されている。F1マシンの場合、フロントウィング、リアウィング、フロア(ディフューザー)でそれぞれ1/3ずつダウンフォースを発生しているが[5]、フロアは抗力の発生量が少なく最も効率が良いため、開発上の重点項目とされている。

ディフューザーは容積が大きいほど気流を多く速く流すことができるが、急角度で跳ね上げると表面から気流が剥離し効果が減少してしまう。最適な拡散角度は約9.5°と言われ、なだらかに高い位置まで傾斜することが望ましい。

路面との間隔が狭いほどベンチュリ効果が高まるため、レーシングカーの車高は一般車よりも低く設定されている。また、車高を一定に保つため、サスペンションのストローク量を減らし、硬いスプリングで車体の上下動(ピッチング)を抑え込んでいる。

レースカテゴリによっては、車高を上げさせるため、アンダーパネルの中央に木板(スキッドブロック、現在ではプランクとも呼ばれる)の装着を義務付けるステップドボトム規定が導入されている。スキッドブロックが路面を擦って規定値よりも薄くなると、レース後の車検で失格となる。2007年のフォーミュラ・ニッポン最終戦では、小暮卓史がスキッドブロックの厚さ違反でレース後に失格となり、獲得したはずのシリーズチャンピオンを逸した[6]。また、レーシングカーではコーナリングスピードを抑制するため、レギュレーションにより縦横の幅や高さが規制されている。

フォーミュラカーは露出したタイヤ周辺の渦を避けてディフューザーの効果を高めている。リアエンドを絞り込んだデザインにして後輪との間に空間を作り、ディフューザー上面を通過させ、[7]ディフューザー内部からの排出を増強し、床下のダウンフォース発生量を増す効果である[8]。このリアエンドの絞り込みは、コカ・コーラの瓶に例えて「コークボトル」と呼ばれた。コークボトル部分に気流を誘導するため、サイドポンツーンは年々縮小されサイドポッドと呼ばれるようになった。ラジエターや排気集合管ギアボックス、リアサスペンションなどの内蔵部品も空力的要請によりコンパクトにデザインされる。
F1のディフューザーロータス・99T(1987年)のディフューザー。トヨタ・TF104(2004年)のディフューザー。

F1においては、1983年に「前輪後端より後輪前端までの部分の車体下面は平面でなければならない」とするフラットボトム規定が施行され、グラウンド・エフェクト・カーの使用が禁止された。失われたダウンフォースを取り戻すため、規定範囲より後方のリアエンドにディフューザーを装備するアイデアが登場し、1980年代後半には定番化した。

1994年シーズン途中、死亡・負傷事故の続発を受けてダウンフォースの削減策がとられ、車体中央300 mmより外側の部分のディフューザーは、後輪前端から後輪中心線までの長さに制限された。さらに、1995年より車体下面の中央部 (300 - 500 mm) より左右の部分に50 mmの段差を設けるステップドボトム規定が導入された。以後、中央部の大型ディフューザー+左右段差面の小型ディフューザーという構造が2008年まで採用された。

国際自動車連盟オーバーテイクシーン創出のため、2008年にオーバーテイク・ワーキング・グループ (OWG) を設立。ダウンフォース50%削減を狙い、2009年に空力要素のレギュレーション変更を行った[9]。ディフューザーの開始点は後輪中心線に後退し、一体型のシンプルな構造に制限されたが[10]、後述の複層化(マルチディフューザー)や排気吹き付け(ブロウンディフューザー)の開発によりダウンフォースの回復が図られた。
各種ディフューザー
バットマン・ディフューザー

初期のディフューザーは一枚板のシンプルな形状だったが、エイドリアン・ニューウェイの処女作マーチ・881(1988年)は内部をトンネル状に区切って排出効果を高めようとした。マクラーレン・MP4/5B(1990年)は5つのトンネルをもつ大型ディフューザーを装備し、後方から見ると『バットマン』のシンボルマークのように見えることから、通称「バットマン・ディフューザー」と呼ばれた。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:40 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef