吊下式ソナー(つりさげしきソナー、英語: dipping sonar)は、送受波器または受波器を水中に吊り下げて使用するソナー。通常、哨戒ヘリコプターに搭載されて使用される[1][注 1]。 哨戒ヘリコプターは、その黎明期より吊下式ソナーの搭載を試みてきた。1945年2月、アメリカ沿岸警備隊は早速HOS-1に吊下式ソナーを搭載する実験を行ったが、これはヘリコプターを対潜戦に投入する先駆的な試みであった[3]。1950年からはHO4S(シコルスキーS-55)に吊下式ソナーを搭載した型のテストが始まり、1952年までには、これにAN/AQS-4ソナーを搭載したHO4S-1哨戒ヘリコプターが開発されて、対潜戦を専門任務とする最初のヘリコプターとなった[4][注 2]。 吊下式ソナーを備えた本格的な哨戒ヘリコプターはHSS-1(シコルスキーS-58)からとされ[6]、1955年より部隊配備を開始した[5]。 吊下式ソナーは、海面上一定の高度でホバリングしたヘリコプターから、ソナーケーブルを介して送受波器を水中に吊下して使用する。ヘリコプターの機内には、送受波器を吊下・揚収するための巻上機、これを制御するための制御器、音響信号処理を行う信号処理器および表示器が配置される[6]。 吊下式ソナーは、航空機という限られたスペースに搭載して使用しなければならないため、小型軽量化が至上命題となっており、このことが、艦艇に搭載される探信儀と比べて、性能を大きく制約している。特に、近年は潜水艦のターゲット・ストレングスの低減が進んでいることから、これに対応するために送信周波数の低周波化が求められているが、一般に送信周波数の低周波化は送受波器の大型化・大重量化につながるため、この二律背反の解決が課題となる。例えばアメリカ合衆国のベンディックス社とイギリスのBAE社が開発したHELRAS(Helicopter Long Range Active Sonar)では、送受波器に開傘展張機構を導入することで、送波・受波アレイの大開口化と非使用時のコンパクトさを両立しており[6]、更にモザイク型の信号方式を採用することで、従来機と比して10倍の探知距離を達成したとされる[4][注 3]。ただし開傘展張状態では送受波器の移動速度がかなり制約されるため、従来は可変深度ソナーと同様に送受波器を上下に動かしつつ探知に最適な深度を探るという運用を行っていたが、これは困難になっている[9]。
来歴
設計SH-60KのHQS-104ソナーN-RL-11/HQS-104巻上機N-TR-60/HQS-104送受波器。閉傘・収容状態にある。