ディストラクション・ベイビーズ
監督真利子哲也
脚本真利子哲也
喜安浩平
製作総指揮紙谷零
『ディストラクション・ベイビーズ』は、2016年の日本のアクション・ドラマ映画である。監督を真利子哲也、主演を柳楽優弥が務めている[2]。愛媛県松山市を舞台としている[3]。 2011年の愛媛県松山市。両親を早くに亡くし、港町で喧嘩に明け暮れる芦原泰良は、ある日、同居していた弟の将太の元から姿を消す。繁華街に現れた泰良は、道行く人々に次々と喧嘩を仕掛ける。高校生の北原裕也は泰良に興味を持ち、彼と行動を共にするようになる。 泰良と裕也は、商店街で暴力沙汰を起こしつづけ、世間からの注目を集める。2人は自動車を盗み、街を立ち去る。その車に乗っていたキャバクラ嬢の那奈は拘束されて、彼らに同行する羽目となる。同じ頃、商店街を訪れていた将太は、兄を捜そうとするが、友人たちと仲間割れする。 翌日、泰良たちを乗せた車が農村に着く。自分たちがテレビ番組やインターネットで取り上げられて警察に追われている身だと知った裕也は、苛立ちを募らせて、那奈に運転を代わらせる。那奈は、殴り倒された農夫が車の前に横たわっていることを知らず、農夫を轢いてしまう。彼女は、農夫の体をトランクに押し込むよう裕也から指示されるが、その作業の最中、農夫が息を吹き返す。とっさに那奈は農夫の首を絞めて、彼の息の根を止める。 その夜、泰良と裕也が乗った車を運転する那奈は、意図的に速度を上げて、対向車と衝突させる。瀕死状態で車を降りた裕也は、那奈に何度も蹴られた挙げ句、命を落とす。泰良は、対向車に乗っていた男性を殴り倒し、行方をくらます。 入院した那奈は、警察からの事情聴取に対して、全ての責任を泰良と裕也に負わせる。将太は港町に帰ってくるが、兄が事件を起こしたことにより、友人たちから侮辱を受ける。逆上した将太は友人たちに暴力をふるう。 将太は、地元で開催される喧嘩御輿を見に行き、その壮観に目を奪われる。同じ頃、港町に帰ってきていた泰良は、職務質問を行おうとした警察官と揉み合いになる。夜空に1発の銃声が響き渡る。泰良は、横たわる警察官を残し、その場をあとにするのであった。 本作は、監督の真利子哲也が2012年、ミュージック・ビデオの撮影のために愛媛県松山市を訪れた際、バーのマスターから聞いた実話に着想を得ている[5]。その人物と同世代だった真利子は「年齢的に近いという親近感と、やっていることのあり得なさ」で彼に興味を持ったのだという[6]。 当初、本作には『喧嘩の凡て』という仮題がつけられていた[7]。その後、別の題名へ変更することになり、その候補のひとつとして挙げられた『ディストラクション・ベイビーズ』(本作の音楽を担当した向井秀徳のバンド・ナンバーガールの楽曲「DESTRUCTION BABY」に由来)が正式に採用された[7]。これは「『ディストラクション』が『Distraction(気晴らし、動揺)』『Destruction(破壊)』という類似する発音で2つの意味を持ち、今作に登場する若者たちの群像劇を象徴している」からであるという[8]。 真利子哲也にとっては本作が商業映画デビュー作品となったが、インディーとメジャーの違いについて問われた際、真利子は「現場でやることは今までと大きく変わりないですし、周囲の影響で身動きがとれない、ということもなかった」と答えている[9]。また、「前作の『イエローキッド』にもプロデューサーはいたので、僕の中で本当の意味でのインディーズ作品は初期の短編作品だけだと考えています」と述べている[9]。 撮影は全て、ロケーション撮影、順撮りで行われた[10]。夏の場面は2015年5月28日にクランクインし、6月14日にクランクアップした[11]。 2016年4月21日、本作の完成披露上映会が行われた[12]。5月21日、全国で一般公開された[13]。 2016年5月21日、本作のオフィシャルブックが亜紀書房より刊行された[14]。同書には、柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、真利子哲也、向井秀徳へのインタビューのほか、スタッフ証言録、映画監督の黒沢清のコメント、全シナリオが掲載されている[14]。 同年12月7日、本作のDVDおよびBlu-rayが松竹より発売される[15]。特典ディスクには、柳楽、菅田、小松、村上、真利子らにスポットを当てた5種類のメイキング映像、完成披露上映会の映像、真利子と向井と漫画家の新井英樹のトークイベント、真利子と瀬々敬久によるトークイベントの映像が収録されている[15]。 須永貴子は「特殊メイクもせずCGも使っていないのに、人でない者を体現する柳楽優弥は、モンスター級の俳優として覚醒した」と述べている[16]。また、柳楽をはじめとした「強力な布陣のキャスティング」に言及しつつ、「彼らのメジャー感と演技力を借りながら、過去作がはらむ不穏さや先鋭性をさらにむき出しにした本作は、いい意味でもっとも見やすく、観客を選ばない」と述べて、「真利子監督のキャリア最高傑作であると同時に、日本映画の現在地点を示す」と評価した[16]。 北小路隆志は、「真利子作品の政治的次元での先鋭さに注目すべきである」と述べた上で、「泰良は一匹の『戦争機械』として野に放たれ、『暴力階級』の生成と拡張、さらにはその悲惨と栄光を鮮烈なまでの強度で僕らに知らしめる」と指摘している[17]。 ジョナサン・ロムニーは、「本作が日本版『ファイト・クラブ』として位置づけられる運命にあることは間違いないが、主人公の心身に変容がもたらされる点では、塚本晋也監督の『鉄男』をも想起させる」と述べている[18]。 発表年賞部門対象結果
あらすじ
キャスト
芦原泰良 - 柳楽優弥
路上で突然暴力をふるう凶暴な男[4]。
北原裕也 - 菅田将暉
泰良に惹かれていく高校生。18歳。
那奈 - 小松菜奈
キャバ嬢。
芦原将太 - 村上虹郎
泰良の弟。18歳。
健児 - 北村匠海
将太の友人。
三浦慎吾 - 池松壮亮
暴力団員。キャバクラの店長。
河野淳平 - 三浦誠己
暴力団員。
近藤和雄 - でんでん
泰良と将太の育ての親。漁船修理工の社長。
送迎ドライバー - 岩瀬亮
中国人キャバ嬢 - キャンディ・ワン
バンドマン - テイ龍進
裕也の友人 - 岡山天音、吉村界人
暴力団員 - 高野春樹、玉井英棋
健児の友人 - 加藤幹夫、六車勇登
鳶職風の男 - 松浦祐也
その他 - 松浦新
スタッフ
監督 - 真利子哲也
脚本 - 真利子哲也、喜安浩平
製作 - 紙谷零
プロデューサー - 西ヶ谷寿一、西宮由貴、小田切乾、石塚慶生
ラインプロデューサー - 金森保
企画・プロデュース - 朱永菁
撮影 - 佐々木靖之
編集 - 李英美
美術 - 岩本浩典
録音 - 高田伸也
衣裳 - 小里幸子
ヘアメイク - 宮本真奈美
特殊メイク - JIRO
アクション・コーディネーター - 園村健介
VFXスーパーバイザー - オダイッセイ
助監督 - 茂木克仁
制作担当 - 柴野淳
音楽 - 向井秀徳
主題歌 - 向井秀徳「約束」
制作・配給・宣伝 - 東京テアトル
製作幹事 - DLE
製作 - 「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会(DLE、松竹メディア事業部、東京テアトル、ドリームキッド、大唐国際娯楽、エイベックス・ミュージック・パブリッシング)
製作
上映
関連製品
評価
受賞
日本国外
第69回ロカルノ国際映画祭(2016年)
新進監督コンペティション部門・最優秀新進監督賞(真利子哲也)[19]
第38回ナント三大陸映画祭(2016年)
銀の気球賞(準グランプリ)[20]
日本国内
2016第8回TAMA映画賞[21]特別賞真利子哲也と柳楽優弥およびスタッフ・キャスト一同受賞
最優秀新進男優賞村上虹郎[注 1]受賞
最優秀新進女優賞小松菜奈[注 2]受賞
第41回報知映画賞[22]監督賞真利子哲也ノミネート
主演男優賞柳楽優弥ノミネート
助演男優賞菅田将暉ノミネート
第38回ヨコハマ映画祭[23]2016年日本映画ベストテンディストラクション・ベイビーズ第3位
森田芳光メモリアル新人監督賞真利子哲也受賞
撮影賞佐々木靖之受賞
主演男優賞柳楽優弥受賞
助演男優賞菅田将暉受賞
最優秀新人賞小松菜奈受賞
最優秀新人賞村上虹郎受賞
2017第90回キネマ旬報ベスト・テン[24]日本映画ベスト・テンディストラクション・ベイビーズ第4位
主演男優賞柳楽優弥受賞
新人女優賞小松菜奈[注 3]受賞
新人男優賞村上虹郎[注 4]受賞
第71回毎日映画コンクール[25]男優主演賞柳楽優弥ノミネート
男優助演賞菅田将暉ノミネート
音楽賞向井秀徳ノミネート
第26回東京スポーツ映画大賞[26]作品賞ディストラクション・ベイビーズノミネート
監督賞真利子哲也ノミネート
主演男優賞柳楽優弥ノミネート
助演男優賞菅田将暉受賞
新人賞小松菜奈ノミネート
新人賞村上虹郎ノミネート
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 『夏美のホタル』『さようなら』とあわせて受賞。
^ 『黒崎くんの言いなりになんてならない』『バクマン。』『ヒーローマニア-生活-』とあわせて受賞。
^ 『溺れるナイフ』『黒崎くんの言いなりになんてならない』『ヒーローマニア-生活-』と合わせて受賞。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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