テラー・ウラム型
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テラー・ウラム型構造の基本形:核融合燃料の圧縮と加熱に原爆の放射エネルギーを用いる

テラー・ウラム型(テラー・ウラムがた、: Teller?Ulam design : H-bombまたは、MOS型 - : MOS-typeとも)は、多段階式メガトン熱核兵器に使われる構造であり、より一般的には水爆の構造のことを表す。この名称は1951年に構造を考案した2人、ハンガリー生まれの物理学者エドワード・テラーと、ポーランド生まれの数学者スタニスワフ・ウラムから付けられた。このアイディアは、核融合燃料のそばに起爆剤として原子爆弾を置くことで考え出され、核分裂反応を用いて、核融合燃料を圧縮・加熱する方法として知られている。ここで述べる内容は、異なった情報源からの追加情報と差分により推定されたものである。

本理論に基づく最初の核実験は、1952年にアメリカ合衆国により"アイビー作戦"として実施された。本理論は、ソビエト連邦ではサハロフの第3のアイディアとして知られている。また同様の兵器は、イギリス中華人民共和国、およびフランスでも開発されている。この中でも一番強力な熱核爆弾は、ソビエトが行った核出力50メガトンの核実験で使われたツァーリ・ボンバである[1][2]
核兵器の仕様に関する公開情報

実際の核分裂および核融合兵器に関する詳細な情報は、いくつかのレベルに分けられており、実質的には先進国のすべてにおいて機密扱いとなっている。例えばアメリカ合衆国では、政府にも兵器関連企業にも属していない人物によって生み出された情報であっても、“機密情報”(classified)に区分されている。これは、“生まれながらの機密情報”であるという法律上の原理に基づいている(ただし、憲法上の効力については疑問が投げかけられている)。この“生まれながらの機密情報”に対する法的な規制は、民間が行う予測に対しては滅多に適用されてこなかった。この点に関しアメリカ合衆国エネルギー省は、公式の政策として、この種の情報が漏洩したことそれ自体に言及しないこととしている。というのも、その種の言及を行えば、情報が正しいということを暗に認めた格好になるためである。一般の報道機関からの兵器関連情報を米国政府が事前に検閲しようと試みてきた数少ないケースがこれまでにもあった。しかし、大した成果は得られていない。

公式発表において大量のぼかされた情報が公表されており、また、非公式にもより一層大量のぼかされた情報が核爆弾の開発者からも提供されている。しかし、一般に流布している核兵器に関する大抵の説明は、憶測、既知の情報に基づくリバースエンジニアリング、または、類似の物理学領域との比較、といったものに相当程度依拠している(その最たる例が、核融合の封じ込めに関する情報である)。こういった過程を経て得られている核爆弾についての多くの非機密情報は、公式の非機密情報についての公表された内容、関連する物理学とは一般論として矛盾せず、また、その情報相互の範囲内でも矛盾はないと考えられてはいる。ただし、今でも未解決の要素がいくつか存在している。テラー・ウラム型に関する公知の知識についての現状は、そのほとんどが、以下の節に概要が記載されるわずか数例の特定の実例に合わせてまとめてこられたものに過ぎない。
基本原理

テラー・ウラム型の基本原理は、熱核兵器内の異なった部分が各段階の爆発で生じたエネルギーを、次の段階の起爆に利用する“多段階”として連鎖反応させられるという考えに基づいている。最小限の構成では、核分裂爆弾で構成されたトリガーとしてのプライマリー(第1段階)と、核融合燃料で構成されたセカンダリー(第2段階)の部分から構成される。段階式である理由により、セカンダリーと同じ構成をターシャリー(第3段階)としてさらに核融合燃料を追加することも可能である。プライマリーからのエネルギー放射によりセカンダリーが圧縮され、爆縮論理により核融合燃料が加熱されて反応が始まる。テラー・ウラム型構成の一例

核融合燃料は放射性物質(ウラン235など)の容器に入っており、これはプライマリーで生じたエネルギーを一時的に閉じ込める役割を果たす。容器の外側は爆弾自体の容器であり、これは全ての熱核爆弾に共通の構造で、一般に公開されるのはこの外観だけである。異なった熱核爆弾の外観をとらえた膨大な写真は、機密解除されている[3]

プライマリーは一般的な“爆縮”型原子爆弾であると考えられているが、核分裂反応の強化(ブースター)用に少量の核融合燃料も添加されている場合がある。核分裂反応で核融合燃料が加熱・圧縮されると大量の中性子を放射する。プライマリーが起爆されると、プルトニウム239、またはウラン235の核が爆縮レンズ形状に配置された高性能爆薬により球形に圧縮され、連鎖反応を起こして核分裂エネルギーを発生させる。

セカンダリーは通常、核融合燃料とその他の材料との円筒形積層構造になっている。円筒のいちばん外側は“プッシャー・タンパー”という部分で、ウラン238(劣化ウラン)やで出来ており、核融合燃料の圧縮を助ける働きをする(ウランの場合には、最終的に自身も核分裂反応を起こす)。核融合燃料部分は通常重水素化リチウムで構成される。この理由は極低温の必要がある液化重水素/三重水素を使用するよりも兵器としての運用が遙かに容易なためである(比較として、液化三重水素を使用したアイビー作戦マイク実験と、重水素化リチウムを使用したキャッスル作戦ブラボー実験があげられる)。重水素化リチウムを用いたものは、乾式と呼ばれる。この"乾式"燃料にプライマリーからの中性子が当たると三重水素が発生する。この重い水素の同位体は、燃料に含まれている重水素と共に核融合を起こす(核融合時の技術的な振る舞いに関しては、核融合記事を参照のこと)。積層燃料の中心部には“スパーク・プラグ”と呼ばれる部分があり、ここには意図的に“空気の泡”が入れられた核分裂物質(プルトニウム239、またはウラン235)があり、この部分もプライマリーの爆発により圧縮されると核分裂を起こす(圧縮により臨界量を超える様に設計されているため)。さらにターシャリーを設置する場合には、セカンダリーと同等の構造のものを、プライマリー=セカンダリーと同等の位置関係で、外側に設置する[4][5]

プライマリーとセカンダリーの二重構造となっている理由は、その中間段階にある。核分裂を起こすプライマリーは3種のエネルギー(高温高圧のガス、強力な電磁波、大量の中性子)を発生する。この中間部分の存在により、プライマリーからセカンダリーへの核融合反応発生のための必要なエネルギー変換を行なわれている。この部分は高熱のガス、電磁波、および中性子を正しい方向に正しいタイミングで送り出すために重要である。中間部分を持たない構造では、セカンダリーは完全には起爆しない場合が多く、この状態は“フィズル”として知られている。キャッスル作戦の“クーン実験”は良い例で、高圧ガスによるセカンダリーの圧縮がまだ不十分な内に大量の中性子放射が始まってしまい、結果として核融合反応を阻害してしまった。

公開されている文書の中では、この中間段階に関する記載は極く少ししか無い。その中でもベストなのは、米国のW76型核弾頭によく似たイギリスの熱核爆弾の簡略構造図である。これはグリーンピースによって"Dual Use Nuclear Technology"と言う名称で報告されている [1](清書版はこちら ⇒[2])。この構造図には、主な部品とその配置が描かれているが、詳細についてはほとんどが欠けている(この部分は故意に省略された可能性が高い)。これらは“終端キャップと中性子集束レンズ”、および“反射板覆い”と表記されている。中間部分には、プライマリーからスパーク・プラグへの中性子の通路と、セカンダリーへのX線の反射通路がある。一般的に全体を包む容器は、ウラン等のX線を通さない物質で造られる。ただしここはプライマリーからのX線をの様にを反射するのではなく、代わりにX線によって高温状態になり、X線をムラ無くセカンダリーに伝える(この現象は“放射爆縮”として知られている)。次に“反射材/中性子銃砲架”は、中央にある中性子集束レンズとプライマリー側の全体ケースとの隙間を埋め、X線の反射材として機能している間はプライマリーとセカンダリーを分離させ、中性子銃砲架のうちのおよそ6個(詳細はサンディア国立研究所[3] を参照)は各々の一端と共に反射材の外側に突き抜けて砲架に留められ、反射板覆いの周囲に均等に配置される。しかしながら各々は、隣のものよりも高い位置に傾いて取り付けられている(これは銃身ライフリングに似ている)(“ポリスチレン偏光プリズム/プラズマ源”は以下を参照のこと)。

米国政府の文書で中間段階に関して最初に解説されたのは、公開された高信頼性代替核弾頭(Reliable Replacement Warhead)の中である。この文書では、機構単位でみた"RRW"の潜在的優位性について述べられており、中間段階方式の“有害物質、不安定な物質、そして高価で特別な材料”を置き換える“特別な機構”を有するとしている[6]。この“有害で不安定な物質”とはベリリウムを指しており、これはプライマリーからの中性子の流れを加減するものと広く知られている。またX線の吸収と再放射のためにも、いくつかの物質が使われている[7]

特別な材料としては、非公式なコードネームで“フォグバンク(Fogbank)”と呼ばれるものがあるが、これは物質ではなく構造部品であると考えられている。この構造部品はエアロゲルである可能性が指摘されている。しかしながらこの生産は、もう何年も行われていないが、“核兵器の延命作業”には生産再開を必要としている(唯一アメリカ合衆国エネルギー省国家核安全保障局Y-12プラント(テネシー州オークリッジ)のみが供給可能な工場である)。


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