トロンボーン
別称:神の楽器
各言語での名称
英trombone
独Posaune
仏trombone
伊trombone
中長號
テナートロンボーン
分類
トロンボーンは、金管楽器の一種である。語源はトランペットを意味するイタリア語trombaに、「大きい」を意味する接尾語 (-one
) を付けたものであり、「大きなトランペット」という意味である。通常、「トロンボーン」と呼称する場合はテナートロンボーンのことを指す。アルトトロンボーンはテナートロンボーン奏者が持ち替えて演奏する。バストロンボーンは同属楽器ではあるものの、明確に違う楽器として取り扱われる。
構造1.チューニング管 2.バランサー(おもり) 3.ベル(朝顔) 4.支柱 5.マウスピース(歌口、唄口) 6.スライド
標準的には変ロ調 (B♭) の調性を持ち、スライドと呼ばれる伸縮管(音程を微調整するためのチューニングスライドとは異なる)を操作して音階を得る。スライドの他に1個ないしは2個のバルブと迂回管を持つもの(B管アタッチメント付きアルトトロンボーン、F管アタッチメント付きテナートロンボーン(テナーバストロンボーン)、バストロンボーン)もあり、今日ではこちらの方が主流である。追加のバルブと迂回管を持つことにより、スライドを伸ばすのが譜面上困難な場合、迂回管を使ったポジション(いわゆる変えポジション)を用いたり(奏者界では、7ポジションが限界だという)、管長が足りず構造上出すことのできない低音域を拡張することが出来る。いずれも、迂回管を使う際はロータリー式レバーを操作して切り替える。また、替えポジションによる効率的なスライドワークや、トリル奏法、ハーフバルブ奏法などにも利用される。バルブを持たないものは、前後の重量の均衡を取るための「バランサー」と呼ばれるおもりを、後方のU字管付近の支柱に取り付ける場合がある。
スライドは内管と外管を重ね合わせた構造なので、内外のスライドが重なっている長さが、近いポジションでは長く、遠いポジションでは短くなる。このため1900年代初頭までの楽器には、近いポジションの時には摩擦抵抗が大きいため微調整が難しく、遠いポジションでは抵抗が小さいため微調整時にずれやすいという問題があった。また、重なりが短くなる遠いポジションの時ほど息もれが激しくなるという問題もあった。これらは後に、内管の先端を微妙に太くした「ストッキング」という部分で外管内面と接するよう改良したことによっていずれも解決され、楽器としての性能が向上した。
収納の際はベル側のU字管とスライド側のU字管とに分割できる。まれに、ホルンに見られるようにベルにネジ山を切って分割できるようにしたデタッチャブル・ベルの楽器もある。
構造上、任意の周波数の音を出すことが可能であり、ピアノ等では出すことのできない微分音も出すことができる。
ケースに収められた状態
スライド(内管/外管)や抜差し管などを取り外した状態
マウスピースのサイズ比較(左から、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバ)
奏法「de:File:Zugpositionen Posaune.png」も参照ミュート
左手で楽器の重量を支える。中指・薬指・小指で楽器を握る。親指は支柱かバルブのレバーに掛ける。人差し指はスライド内管の支柱上部又はマウスピースレシーバーに添える。1個のバルブがある場合、そのレバーは左手親指で操作する。2個のバルブがある場合は、2個のレバーの一方を親指で操作し、他方を中指で操作するものが一般的であるが、20世紀の楽器には両方ともに親指で操作するものもある。自由な右手でスライドを軽く持って操作する。楽器に装着したマウスピースが口に当たる位置に構えて、舌を引く動きをきっかけ(タンギング)に息を吐きながら唇を振動させる。
スライドには、最も手前の第1ポジションから、最も遠くまで右手を伸ばしたところにある第7ポジションまでがある。ポジションが1つ遠ざかると半音下がる。この仕組みと各ポジションで得られる倍音の組み合わせで音階を作ることができる。そのため、バルブと迂回管を持たない楽器では第1倍音と第2倍音のEs?Hまでの音階(アルトトロンボーンではAs?E)が得られない。迂回管を1本持つ楽器では、第8?11ポジション相当の管長が得られる。第12ポジション相当の管長を得るためには、迂回管のチューニングスライドを限界まで伸ばすか、2本目の迂回管を利用する。
ギターのフレットに当たるような特別な目印はないため、奏者は自分の感覚でポジションを定めて音程を得る。そのため初心者にとっては正しい音程での演奏は難しいが、熟練すればスライドの微調整によって正確なハーモニーを得ることが出来る。またスライドはグリッサンド奏法の演奏を容易にしている。
スラーを演奏する際は、音の区分がはっきりしないスライドの性質を考慮して、ソフトタンギングをするか、リップスラーやバルブを利用して替えポジションを使用して行う。
広く使われる特殊奏法としては、隣り合った倍音同士を高速に移動するリップトリル、巻き舌で演奏するフラッタータンギング、演奏しながら声帯を振動させる重音などが挙げられる。
他の金管楽器と同様に、音色を変える目的で種々の弱音器(ミュート)が使われる。 非常に古い歴史を持つ楽器であり、起源はトランペットと共通である。ドイツのハンス・ノイシェルが現在の形に完成させ、それから約500年以上もの間、基本的な構造が変わっていない、古い種類の楽器である。地域によっては、古くはサックバットと呼ばれた。15世紀頃にスライド・トランペットの一種から発生したと考えられており、基本的な構造は昔の姿をそのまま留めている。ただし、細部のデザインは異なり、奏法も現代のトロンボーン奏法とはかなり異なる。 トロンボーンの音域は成人男性の声域に近い。またスライドによって音程をスムーズに調整できる事から得られるハーモニーの美しさなどから「神の楽器」といわれ、教会音楽に重用された。古くからカソリックのミサにおける聖歌の合唱等の伴奏楽器に使われ、オラトリオ(ハイドンの天地創造など)やレクイエム等にも多用されているが、世俗的な音楽においては使用を自重する風潮があり、さらにプロテスタント圏のドイツ地域では使用されない傾向があった(プロテスタント地域で活動したバッハやテレマンの宗教曲ではトロンボーンはほとんど使われていない)[1]。
歴史