テゲトフ級戦艦
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テゲトフ級戦艦

「フィリブス・ウニティス」
艦級概観
艦種戦艦
艦名
前級ラデツキー級
次級モナーク代艦
性能諸元(括弧内はシュツェント・イストファン)
排水量常備:19,698トン
満載:21,595トン(21,689トン)
全長152.2m
水線長151.4m
全幅27.3m
吃水8.2m
機関ヤーロー石炭・重油混焼水管缶12基
パーソンズ直結タービン2組4軸推進
バブコック・アンド・ウィルコックス式石炭・重油混焼水管缶12基+AEGカーチス式直結タービン2基2軸推進)
最大出力27,000hp
(26,400hp)
最大速力20.3ノット
(20.0ノット)
航続距離10ノット/4,200海里
燃料石炭:5,600トン(満載)
重油:162トン
乗員1,087名(1,094名)
兵装シュコダ 30.5cm(45口径)三連装砲4基
シュコダ 15cm(50口径)単装砲12基
シュコダ 6.6cm(50口径)単装速射砲18基
シュコダ 6.6cm(18口径)野砲2基
53.3cm水中魚雷発射管単装4基
装甲舷側:280mm(水線中央部)、160?150?130?110mm(水線端部)、180mm(第二甲板中央部)、110mm(第二甲板端部)、25mm(機関部隔壁)
甲板:36mm(18mm×2)
主砲塔:200mm(前盾傾斜部)、280mm(前盾垂直部・側盾)、280mm(後盾)、150mm(天蓋水平部)、60mm(天蓋傾斜部)
主砲バーベット部:280mm(一段目)、160mm(二段目)、100mm(三段目側面)、80mm(三段目前後面)
副砲ケースメイト:180mm
司令塔:260mm(上段部)、280mm(下段部)、30mm(天蓋部)
艦底:19mm
前部司令塔:280mm(側盾)、60mm(30+30)天蓋)、中央部司令塔:180mm(側盾)、30mm(天蓋)、後部司令塔:210mm(側盾、30?60mm(天蓋)

テゲトフ級戦艦 (Tegetthoff-Klasse) は第一次世界大戦前にオーストリア=ハンガリー帝国海軍が建造した弩級戦艦の艦級である。

本級は同国海軍の建造・保有した唯一の弩級戦艦である。
概要

オーストリア=ハンガリー帝国海軍は当初は前級に引き続き準弩級戦艦を建造する予定であったが、アドリア海を挟んで対峙するイタリアが弩級戦艦「ダンテ・アリギエーリ」を着工すると、直ちに計画を弩級戦艦に変更した。

同時期の列国の戦艦の中で、主砲に三連装砲塔を採用し、かつ背負式配置を採用して主砲塔全てを船体中心線上に配置している点が先進的と評価されている[1]

設計はトリエステのSTT(Stabilimento Tecnico Triestino)社で、前オーストリア海軍造船監であったジークフリート・ポッパーが関わっているとされる。計画は4隻の建造が承認され、1番艦が1910年に着工し、同型艦が1912年から1915年に相次いで竣工した。
艦形テゲトフ級の艦形図。

本級はジークフリート・ポッパーの設計で、艦形は前級である準弩級戦艦「ラデツキー級」に似た低く重厚なデザインでまとめられていた。船体は平甲板型船体で、艦首水面下には衝角(ラム)を有していた。主砲は、前後甲板に三連装砲塔に収めて背負式で各2基を装備した。これにより、計4基の主砲塔が艦中心線上に配置される形となった。「シュツェント・イストファン」の模型。艦橋の形状が姉妹艦と異なる。

艦中央部には、司令塔を組み込んだ操舵艦橋の背後に単脚式の前部マストが立ち、その後ろには2本煙突が立つ。4番艦の「シュツェント・イストファン」のみ艦橋近辺の構造が異なり、操舵艦橋部分のフラットが2番煙突にまで延長されて探照灯台が設置されており、2番煙突の後方には艦内に外気を送る吸気ダクトが設けられていた。2番煙突背後に艦載艇搭載架台が、両舷には各1基の揚収用クレーンが、それぞれ設けられた。煙突の後方には単脚式の後部マストと後部司令塔が配置された。煙突の後方に艦載艇搭載部を設けたのは主砲発砲時の爆風の影響を軽減するためである[2]「シュツェント・イストファン」の動画。主砲や副砲の操砲訓練が見られる。


主砲塔の配置は
イタリア海軍の「ダンテ・アリギエーリ」が主砲塔を甲板上に等間隔に配置していたのに対し、本級はアメリカ海軍の「サウス・カロライナ」級と同じく、前後共に背負式配置を採用している。背負式配置は全長を短縮できるメリットがあるが、高所にある主砲塔が艦の重心を上げて横揺れが大きくなる傾向にあるので、排水量2万トン前後の弩級戦艦時代ではあまり積極的に採用している国は多くない。本級を運用する海域が波浪の少ない内海であるアドリア海であったことから、弩級戦艦の中でも比較的小型の本級で背負い式配置を採用することが可能となった。副砲は、船体中央部舷側のケースメイト(砲郭)部に配置され、単装砲架で片舷6基ずつ計12基が配置されていた。[3]


「シュツェント・イストファン」の進水式の動画。0:12に並列型の舵機配置、0:27で独特の艦首構造がよくわかる。

艦首形状は水線下を膨らませて艦首の浮力を稼ぐイギリス式を採用したが、衝角から下の部分を斜めにカットして水中魚雷発射管を装備したのはドイツ式である。カットの度合はドイツ艦と比べても大きく、低速時の直進性はかなり損なわれたと伝えられる。船体後部の舵はこの世代としては珍しい並列式の二枚舵で、比較的短い全長と艦首形状と相まって旋回圏は戦艦としては小さく、運動性に優れていた[4]。しかし、重心が高めなため、全速で舵を一杯にとると艦が10度近くも傾斜した。特に主砲塔の指向方向と艦の旋回方向が一致していた場合は、主砲塔の重量のため傾斜が復原性能上危険な水準に達し、高速時に敵側へ向かう急転舵は行うことができなかった。[3]





兵装
主砲「テゲトフ」の3番主砲塔と4番主砲塔。

本級の主砲は前級に引き続き帝国内の火砲メーカーであるシュコダ製1910年型 K10 30.5cm(45口径)砲を採用した。当時の30.5cm砲弾としては重量級に属する砲弾重量450kgの徹甲弾を使用し、仰角20度での射程20,000mという性能であった。砲塔の装填機構は仰角2度の固定角度装填形式で、砲身の俯仰能力は仰角20度から俯角3度、旋回角度は首尾線方向を0度として左右140度であった。発射速度は竣工時は毎分2発であった。砲弾の搭載定数は砲1門につき76発とやや少なかった。[5]

イタリア海軍に次いで三連装砲塔を弩級戦艦時代において採用した数少ない艦級の一つで、砲塔の開発もシュコダ社である。この30.5cm三連装砲の開発に際しては、ヴィッカース社からの技術導入が行われている[1]。しかし、当時三連装砲塔の開発は他国にも類例が少なく、本級の主砲では経験不足からその後は見られないような設計が採用されていた。のちの時代においては、砲弾装薬を装填機構まで運ぶ揚弾機は主砲1門につき1基が付くのが普通であるが[6]、これに対し、シュコダ社は構造を簡略化して重量を軽減する目的から揚弾機は各砲身の間に1基ずつの計2基しか設置しなかった[7]。これにより、3門のうち中央砲の装填には左右どちらかの揚弾機を併用するしかなく、戦闘時には実質的な火力は8門しか使えないこととなった[3]

本級の設計当時は全ての門数を使用する急斉射を行うことは稀で、通常は弾着観測の容易さと実勢発射速度の向上を目的として全ての門数を使用せず、半分の門数を使用する交互打方(こうごうちかた)による斉射方法が主流であったため、発射待ちの砲身は最大でも2門なので毎斉射での6門発射はほぼ確実に確保でき、交互打方で見る限りは出弾率はさほど低下しないと机上では考えられていた。しかし、照準が合致した後の戦闘時には自ずと揚弾機はフル稼働状態となり、中央砲の分の揚弾機が無いことは弱点になりうる。本級以外の三連装砲の採用例では、アメリカ海軍の14インチ45口径砲塔が揚弾機2基(左揚弾機が左砲と中砲を担当する。但し揚薬機は1門につき1基)であった。その他は、いずれも砲と同数の揚弾機を装備している。

現代に残る30.5cm砲弾

シュコダ工場で組み立て中の「30.5cm(45口径)三連装砲」

主砲塔上の6.6cm単装速射砲

副砲・水雷兵装

本級の副砲は、フランスやドイツなどの欧州戦艦と同様に打撃力を重視する考え方から、シュコダ社の新設計1910年型 K10 15cm(50口径)砲を採用した。この点イタリア海軍などがイギリスにならい、速射性を重視して12cm砲を採用したのとは異なっている。その性能は、重量45.5kgの砲弾を使用した場合、仰角15度での射程15,000mであった。 砲身の俯仰能力は仰角15度・俯角6度で、旋回角度は120度であった。装填形式は自由角度装填で、発射速度は人力装填のため毎分6発であった。これを一番甲板と二番甲板の間に単装砲形式で片舷6門計12門を装備した。門数が少ないのは装備可能位置が艦中央部に局限されたためである。その他に、水雷艇反撃用に6.6cm(50口径)速射砲を単装砲架形式で計18基装備した。

水雷兵装として、53.3cm水中魚雷発射管を艦首と艦尾に1門ずつと2番主砲塔の左右に1門ずつの計4基装備した。
防御浸水する「セント・イシュトヴァーン」。転覆・沈没する「セント・イシュトヴァーン」。

オーストリア=ハンガリー帝国海軍の戦艦の防御は当時としては優れた部類に入り、艦内の居住性を苦しいものとしてもダメージコントロール装置と防御区画の充実を図っていたとされる[1]


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