チラコイド(Thylakoid)は、葉緑体やシアノバクテリア中で膜に結合した区画である。光合成の光化学反応が起こる場所である。チラコイドという言葉は、「嚢」を表すギリシャ語の θ?λακο? (thylakos)に由来する。チラコイドは、ルーメンの周りを取り巻くチラコイド膜から構成される。緑色植物の葉緑体のチラコイドは円盤状で、積み重なってグラナと呼ばれる構造をなしている。グラナはストロマとつながり、単一機能を持つ構造を作っている。
チラコイドの構造チラコイドの構造グラナの透過型電子顕微鏡写真
チラコイドは膜と結合した構造で、葉緑体のストロマに埋め込まれている。 チラコイド膜は、直接埋め込まれた光合成色素内で光化学反応が起こる場所である。1nm幅の暗いバンドと明るいバンドが交互に重なった模様として見える[1]。チラコイドの脂質二重層は、原核生物の膜や葉緑体内膜と同じ性質を持っている。例えば、チラコイド膜やシアノバクテリア、その他の光合成細菌の膜では酸性脂質 チラコイドルーメンは、チラコイド膜に結合した区画である。光合成過程での光リン酸化に不可欠な役割を果たす。光化学反応の際には、チラコイド膜を通過してルーメン内にプロトンが輸送され、pH4まで酸性化される。 グラナは、チラコイドの円盤が重なった構造である。葉緑体は1つ当たり10個から100個のグラナを持つ。グラナは、ラメラと呼ばれる細長く伸びたチラコイドによって結ばれている。グラナを構成するチラコイドとストロマ内のチラコイドは、タンパク質組成によって区別できる。グラナは、葉緑体が体積に対して大きい表面積を持つのに貢献している。またチラコイドの電子断層撮影 葉緑体は、植物が地面から発芽する際に色素体から発展してできる。チラコイドの形成には光が必要である。胚の段階で光が当たらないと、色素体は、プロラメラ体と呼ばれる半結晶の膜構造を持つエチオプラストになる。光に曝露されると、プロラメラ体はチラコイドになる。光の量が不十分だとチラコイドの形成に失敗し、葉緑体ができずに植物は死んでしまう。 チラコイドの形成には、vesicle-inducing protein in plastids 1 (VIPP1)と呼ばれるタンパク質の働きが必要である。このタンパク質を欠くと植物は生きることができず、VIPP1の発現量を減らすと光合成の能力が落ち、成長は遅く、色は薄くなる。VIPP1はチラコイド膜の形成に必要だと考えられているが、チラコイド膜上のタンパク質複合体には含まれていない[7]。このタンパク質は、シアノバクテリア[8]、クラミドモナスのような緑藻[9]、シロイヌナズナのような高等植物[10]を含むチラコイドを持つ全ての生物で保存されている。 チラコイドは、重力遠心法 チラコイドは、内腔タンパク質の他に、多くの表在性及び内在性膜タンパク質を持つ。チラコイド画分のプロテオーム解析の研究により、チラコイドのタンパク質組成がより詳細に理解された[12]。これらのデータは、いくつかのオンラインのタンパク質データベースで入手することができる[13][14]。 これらの研究によると、チラコイドのタンパク質は少なくとも335種類から構成される。そのうち、89種類は内腔性、116種類は内在性、62種類はストロマ側の表在性、68種類はルーメン側の表在性である。さらに、コンピュータを用いた方法により、存在量の少ない内腔性のタンパク質が予測された[11][15]。機能別に見ると、42%が光合成に関わるもの、11%がフォールディングの際のタンパク質標的に関わるもの、9%が酸化ストレスへの応答に関わるもの、8%が翻訳に関わるものであった[13]。 チラコイド膜には、光合成の際の光受容や光化学反応において重要な役割を果たす内在性タンパク質が存在する。主要なタンパク質複合体には、次の4つがある。 光化学系IIタンパク質複合体は、主にグラナのチラコイドに、光化学系Iタンパク質複合体は主にストロマのチラコイドやグラナの外層に存在する。シトクロムb6f複合体はチラコイド膜に平均的に広がっている。チラコイド膜上で2つの光化学系の存在する位置が離れているため、電子の運搬が必要である。このためには、プラストキノンやプラストシアニンが稼働型電子運搬体となって電子を運ぶ。プラストキノンは光化学系IIタンパク質複合体からシトクロムb6f複合体まで、プラストシアニンはシトクロムb6f複合体から光化学系Iタンパク質複合体まで電子を運搬する。 またこれらのタンパク質は、光エネルギーによって電子伝達系を動かしてチラコイド膜を挟んで電気化学的勾配を作り出し、酸化還元反応の最終産物であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を作り出す。ATP合成酵素は電気化学的勾配を用いて、光リン酸化によりアデノシン三リン酸(ATP)を作り出す。 これらの光化学系は、光で稼働する酸化還元中心で、それぞれが葉緑体及びカロテノイドやフィコビリンタンパク質 シトクロムb6f複合体は、チラコイドの電子伝達系の一部であり、1対のプロトンがルーメンの中に取り込まれる。エネルギー的には2つの光化学系の間に位置づけられ、光化学系II-プラストキノンから光化学系I-プラストシアニンに電子を転移する。 チラコイドのATP合成酵素は、ミトコンドリアのATPアーゼと類似したF1F0-ATP合成酵素である。ストロマに突き出たチラコイド膜のCF-1部位に埋め込まれている。そのため、ATP合成は光合成の暗反応がおこるチラコイドのストロマ側で行われる。
膜
ルーメン
グラナ
チラコイドの形成
チラコイドの単離と分画
チラコイドタンパク質
内在性タンパク質
光化学系Iタンパク質複合体
光化学系IIタンパク質複合体
シトクロムb6f複合体
ATP合成酵素
光化学系詳細は「光化学系」を参照
シトクロムb6f複合体
ATP合成酵素詳細は「ATP合成酵素」を参照