チェンバロ
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歴史上の都市については「バラクラヴァ」を、日本のロックバンドについては「チェンバロ (バンド)」をご覧ください。

チェンバロ
別称:ハープシコード、クラヴサン
各言語での名称

harpsichord
Cembalo
clavecin
clavicembalo
羽管?琴、大?琴(簡体字)

羽管鍵琴、大鍵琴(繁体字)


分類

撥弦楽器鍵盤楽器

チェンバロ(: Cembalo, : clavicembalo)は、プレクトラムで弾いて発音する鍵盤楽器である。英語ではハープシコード (harpsichord)、フランス語ではクラヴサン (clavecin) という。

狭義にはグランド・ピアノのような翼形の楽器を指すが、広義には同様の発音機構を持つヴァージナルやスピネット等を含めた撥弦鍵盤楽器を広く指す[1]

チェンバロはルネサンス音楽バロック音楽で広く使用されたが、18世紀後半からピアノの興隆と共に徐々に音楽演奏の場から姿を消した。しかし20世紀には古楽の歴史考証的な演奏のために復興され、現代音楽ポピュラー音楽でも用いられている。
構造
発音機構

撥弦鍵盤楽器の大きさや外形は多様であるが、発音機構の基本は共通している。

鍵を押し下げると、鍵の他端に立てられているジャックと呼ばれる板状の棒が持ち上がり、ジャックの側面に装着されたプレクトラムが弦を下から上に弾いて音を出す。

鍵から手を放すとジャックが下がる。このときプレクトラムは回転するタングに取り付けられているため弦を回り込んで下に戻る。ジャックが元の位置に戻るとジャック上部のダンパーによって弦の振動が止められる。

以下では上記の基本原理をより詳細に説明する。図1: 8フィート2弦の一段鍵盤チェンバロの概念図, (1) 鍵 (キーレバー), (2) ネームバッテン, (3) ネームボード, (4) チューニングピン, (5) ナット, (6) ジャックレール, (7) アッパー・ガイド, (8) 弦, (9) ブリッジ, (10) ヒッチピン, (11) ライナー, (12) ベントサイド/テール, (13) オーバーレール, (14) 響板, (15) ギャップ, (16) アッパー・ベリーレール, (17) ジャック, (18) ローワー・ベリーレール, (19) 底板, (20) ラック, (21) ガイドピン, (22) ローワー・ガイド, (23) レストプランク, (24) バランスピン, (25) キーボード・フレーム


鍵(1)は単純な梃子で、鍵にあけられた穴に差し込まれたバランスピン(24)を支点として動く。

ジャック(17)は、木製の平たく細長い棒で、鍵の端に垂直に立てられ、上下のジャックガイド(7・22、レジスターとも)で支えられている。ジャックガイドは、スパイン(左側の長い側板)側からチーク(鍵盤右の短いまっすぐな側板部分)側まで走るギャップの中に設置される、ほぞ穴のある細長い2枚の板で、このほぞ穴の中をジャックが上下に動く。アッパー・ガイドはしばしば可動である(#レジスターを参照)。イタリアのチェンバロでは、ボックス・スライドと呼ばれる厚みのある単一のジャックガイドが用いられる。図2: ジャック上部の概念図, (1) 弦, (2) タングの軸, (3) タング, (4) プレクトラム, (5) ダンパー

ジャックにはタング(図2-3)という木製の可動の部品が取り付けられており、タングにはプレクトラム(図2-4)が取り付けられる。タングはプレクトラムに上から力がかかる場合は動かないが、下から力がかかる場合は回転してプレクトラムをそらすように動作する。これによってプレクトラムが下から上に弦を弾いた後、上から下へは弦を弾かずに戻ることができる。タングはイノシシの毛や薄い真鍮板などで作られたバネによって保持されており、動いた後はバネの弾力により元の位置に戻る。

プレクトラムは通常ごく僅かに上方向に角度をつけて取り付けられ、弦の下ぎりぎりの位置に設置される。歴史的にはプレクトラムはワタリガラス (raven) などの鳥の羽軸で作られていたが、現代では保守が容易なデルリン製のプレクトラムを用いる場合も多い。

プレクトラムが弾く弦の箇所(プラッキング・ポイント)は音質を決定する重要な要素であり、ナット(図1-5、手前側にあるブリッジと共に弦の振動長を決定する構造)からの距離で示される。ナットに近い位置で弦を弾くと倍音が強調され、「鼻にかかった」音色となる。一般にプラッキング・ポイントの距離は低音域に向かって漸増するが、弦の振動長(ナット-ブリッジ間距離)に対する比率は減少する。

ジャックの上部にはフェルト製のダンパーが付けられており、ジャックが持ち上がっていないときにはダンパーが弦の上に乗り消音するようになっている。図3: チェンバロのジャックの動き, (1) ジャックレール, (2) フェルト, (3) ダンパー, (4) 弦, (5) プレクトラム, (6) タング, (7) タングの軸, (8) バネ (9), ジャック, (10) タングの動き

(A) 操作されていない状態のジャック。ジャックの一番上にはフェルト製のダンパー(図3-3)が突き出ており、鍵が押されていないときには弦の振動を止めている。

(B) 鍵を押すことでジャックが上がり始めた状態。ジャックが上昇するにつれ弦に押し当てられたプレクトラムは徐々にたわんでいく。

(C) プレクトラムは湾曲の限界点を超えて、弦を弾き、振動を起こす(音の発生)。ジャックの垂直に跳ね上がる動きはジャックレール(図3-1)によって止められる。ジャックレールの内側はジャックの衝撃を和らげるために柔らかいフェルト(図3-2)がつけられている。

(D) 鍵から手を離すと、鍵のもう一方の端は自重で元の位置に戻り、それに従ってジャックも下に降りる。この際プレクトラムは再び弦に接触するが、タング(図3-6)の働きによって、ほとんど音を生じさせることなく弦の下に戻る。ジャックが元の位置まで降りるとダンパーが弦の上に乗り消音する。
弦と響板ブリッジの部分写真。ブリッジの上には、弦に触れてその振動長の一端を決めるブリッジピンが植えられている。ローズ

弦の素材には真鍮丹銅などが使われる。一般にスケール[注釈 1]の短いタイプの楽器では全域で真鍮弦が用いられるが、長いスケールの楽器では高音域に鉄弦を用い、低音域に真鍮弦、さらに最低音域では丹銅弦が用いられる。

弦の一端(鍵盤から遠い側)は小さな輪を作りねじって止めたものを、ヒッチピン(図1-10)にかける。ヒッチピンはライナー(11)に打ち込まれている。もう一方はチューニングピン(図1-4)に巻き取り、適切な音高となるように調整する。チューニングピンは堅い木で作られたレストプランク(ピンブロックとも、図1-23)にねじ込まれている。近代的なピアノのような金属フレームを持たないチェンバロは、湿度の変化に弱く、調律が変動しやすいため、演奏者は演奏のみならず、自ら調律する技術も要求される。

弦はブリッジ(図1-9)を介して響板(サウンドボードとも、図1-14)を振動させる。響板とケースの構造体は、弦の振動を効率良く空気の振動へ変換し、音量を拡大する。響板は一般的にトウヒモミあるいはイトスギなどの針葉樹の木材の2?4mm程度の薄い板である。イタリアのチェンバロの響板は、裏側全体がリブで補強されている物が多くあるが、フランドルのルッカース一族、及びその影響を受けた様式のチェンバロの響板は、リブがあるのは低音側手前の領域のみで、ブリッジの下にはリブを持たない。通常、響板の低音側の手前の部分には、リュートギターのように穴が開けられ、木や羊皮紙、または金属の装飾が嵌め込まれる、これをローズと呼ぶ。上面から見たチェンバロ
ケースイタリアのチェンバロの構造フランドルのチェンバロの構造各様式に典型的なチェンバロの外形の模式図。左からイタリアン(先端が緩やかでベントサイドが深くくぼむ)、フレミッシュ/フレンチ/イングリッシュ(先端が鋭く、ベントサイドがより緩やかにカーブする)、ジャーマン(ベントサイドがそのまま先端部のカーブに連なる)

イタリアのチェンバロのケースは、底板を基礎とした構造で側板は薄い。製作は底板に次々に部品を取り付けていく方法で行われる。まず底板が用意され、その上に縁に沿って側板やライナーを支えるための三角形の板(ニー)が数枚立てた形で取り付けられる。数本の補強材(ボトム・ブレース)とローワー・ベリーレールが底板を横切って取り付けられ、アッパー・ベリーレールがローワー・ベリーレールの上に取り付けられる。ニーの上部にライナーが取り付けられ、ベントサイド側のライナーは、さらに底板にかけて斜めに補強材(アッパー・ブレース)が数本取り付けられる。そうしてできた骨格の周囲に側板が貼られる[2]

これに対し、フランドルのルッカース一族、及びその影響を受けた様式のチェンバロでは、厚い側板の枠組みがケースの構造の基礎となっている。まず側板とレストプランク、ベリーレール、ブレースを組んで外枠が作られ、響板を取り付けた後、最後に底板が取り付けられる[1]

以下の画像の楽器は18世紀フランス様式のものであり、後者に属する。

製作途中のパスカル・タスカン[注釈 2]のチェンバロの複製楽器[3]底板が取り付けられていない底面から見る、ケースの内部構造と各部の名称

A : レストプランク
B : ネームボード
C : スパイン
D : テール
E : ベントサイド
F : チークピース
G : アッパー・ベリーレール
H : ローワー・ベリーレール
I : ボトム・ブレース
J : アッパー・ブレース
K : ライナー
L : 響板
M : 4′ヒッチピン・レール
N : カットオフ・バー
O : リブ
P : ローズ

底面を下にした状態

A : レストプランク
B : ネームボード
C : スパイン
D : テール
E : ベントサイド
F : チークピース
L : 響板
P : ローズ
Q : 8′ブリッジ
R : 4′ブリッジ
S : ギャップ


レジスターレジスターの原理、上のジャックガイドの位置によってプレクトラムが弦に触れるか触れないかを調節する。ジャックガイドの動く幅は約2mmである。(1) 鍵の端, (2) フェルト, (3) ジャック, (4) ローワー・ガイド, (5) アッパー・ガイド, (6) 弦バフ・ストップ


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