エール(英: Ale)は、ビールの一種。上面発酵で醸造される。大麦麦芽を使用し、酵母を常温で短期間で発酵させ、複雑な香りと深いコク、フルーティーな味を生み出したビールのスタイルである。
エールのほとんどは、ホップを使用する。ホップはビールの保存を助け、苦味と香りを与えて麦芽の甘味とバランスを取る。ビールの他のスタイルはラガーであり、下面発酵である。 二糖類(メリビオース)を発酵に利用できない[1]出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae) と三糖類の麦芽糖(マルトース)やマルトトリオースを発酵に利用できる雑種高次倍数体菌株[2]を用い、常温(15℃から20℃前後)で短い期間で発酵を行う。盛んに炭酸ガスを出すため、最終的に酵母が浮かんで上面で層を作ることから、上面発酵と呼ばれる。独特の香味は、二糖類以外も発酵に利用できる菌株の作用と低窒素状態での発酵による[1]と考えられている。 一般に、上面発酵のほうが醸造は容易である。19世紀以降にラガーが爆発的に普及するまでは、ビールといえばエールであった。また、東洋より茶が入る以前のイギリスでは、ホップを用いないエールが水とならんで最も日常的に飲まれた飲料であったとみられる[3]。当時のイギリスの庶民にとってワインやサイダー(リンゴ酒)は日常の飲料ではなかった(これらは高価であったのと同時に、貴族などの上流階級の者たちが独占していたことも要因だった)。 ホップを使用したビールが15世紀にオランダからイングランドに輸入されるようになるまで、「エール」という名前はホップが加えられていない醸造酒のみに使われ、「ビール」はホップを加えての醸造を示していたが、この区別はもはや使われていない。 ホップは、一般に苦味を与えて甘味とのバランスを取り、防腐剤の役割を果たす。エールは、概してハーブと香辛料を混ぜたグルートをホップの代わりに添加し防腐剤にするとともに味と香りをつけていた。 エールは、中世に主食であるパンと一緒に飲む重要な飲み物であった。 英語「ale」は、古英語の ealu に由来し、ゲルマン祖語の形は *aluth- である。デンマーク語: ol・スウェーデン語: ol (いずれも意味は「ビール」)などと同語源である。 現代のエールは、使用する酵母の株と発酵温度で一般に定義される。エールは通常上面発酵で醸造されるが、フラーズ (Fullers) および Welton を含む多くのイギリスの醸造所では、上面発酵の特性が顕著でないエール酵母株を使用する。エールを区別する重要な要素は、発酵が高温であり、ラガーより早く発酵することである。カスク・エールのハンドポンプ エールは、通常 15?24℃ (60?75°F) で発酵する。この温度で、酵母は大量のエステルおよび付随する風味と香りを生成し、結果として「フルーティー」な生成物となり、リンゴ、洋ナシ、パイナップル、バナナ、スモモ、またはプルーンに似た香りとなる。典型的なエールはラガーよりも甘味があり、コクがある。 エールとラガーの分類分けが困難なものもある。スチームビール
概要
エールの歴史北欧神話で、エーギルとラーン、9人の娘たちが大きな鍋でミードやエールを醸造する
現代のエール
エールと分類されるビールは、主に大麦麦芽を使用するが、エールの醸造手法を行う白ビールは、小麦を使用する。
アメリカ合衆国の州、特に西部では、「エール」は発酵法や使用する酵母にかかわらず、「ビール」よりもアルコール度が強い、穀物を発酵した飲み物であると、州法で定義されている。
多くの国では、アルコール飲料の種類、特にラガーとアルコポップ(果汁や香料を混ぜたアルコール飲料)が増えるにつれ、エールは人気を失った[4]。
エールの種類
ペールエール詳細は「ペールエール」を参照
ペールエール (Pale ale) は、淡色麦芽(英語版)を使用して醸造する。伝統的な例はイギリスのパブの『ビター』(英語: Bitter)である。アルコール度数は 4.4%-5.4%である。ホップの度合いも様々で、ほとんど気づかないレベルからインディア・ペールエールの例のように 100 IBU 超まで幅広い。インディア・ペールエール (IPA) は、当初はイギリスからアジアの植民地に運ぶ間腐敗を防ぐように、ホップを強めて濃い比重で醸造された。しかし、この用語は今日、"session bitter" またはスーパープレミアム・ペールエールを示す。アンバーエールは、やや濃いスタイルを示す北アメリカの用語であり、この名前はフランス語の ambree に由来するとされる。