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ラヴェルのバレエ音楽『ダフニスとクロエ』全曲。ユッカ=ペッカ・サラステ指揮/WDR交響楽団、WDR交響楽団公式YouTube。
『ダフニスとクロエ』(フランス語: Daphnis et Chloe)は、1912年にバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)によって初演された、ミハイル・フォーキン振付によるバレエ、またはこのバレエのためにフランスの作曲家モーリス・ラヴェルが作曲したバレエ音楽である。フォーキンの振付は後世に伝わらなかったが、ラヴェルが1909年から1912年にかけて作曲したバレエ音楽はオーケストラの重要なレパートリーの一つして演奏され続け、様々な振付家がラヴェルの音楽に合わせた独自の振付によるバレエを制作している。
バレエの台本は、2 - 3世紀ギリシャのロンゴスによる物語『ダフニスとクロエ』を題材としており、もともとフォーキンがロシア帝室バレエで上演することを想定して書いたものであった。この台本に、20世紀初頭のパリでロシア芸術を紹介するイベントを開催していた興行師セルゲイ・ディアギレフが注目し、自らが手がけるバレエ公演で上演するため作曲をラヴェルに依頼した。1909年に始まったバレエの制作にはフォーキン(台本・振付)、ラヴェル(音楽)、レオン・バクスト(美術・衣裳)が共同であたり、当初は1910年の上演が予定されていたが、ラヴェルの作曲が遅れたために二度にわたって延期され、1912年6月8日にパリのシャトレ座で行われたバレエ・リュスの公演において初演された。しかし、初演の間際には関係者の間で諍いが絶えなかった上に本番直前に十分な練習時間が確保できず、『ダフニスとクロエ』は同シーズンに初演されて物議を醸した『牧神の午後』の影に隠れてしまうこととなった。初演後もバレエ・リュスでは再演の機会にあまりめぐまれず、同団の舞台監督セルゲイ・グリゴリエフ(ロシア語版)は『ダフニスとクロエ』を「運の悪いバレエ」と評した。
バレエ・リュスの解散(1929年)と前後して、『ダフニスとクロエ』は1920年代にフォーキンによってパリ・オペラ座バレエに移植され、そのレパートリーに加えられた[1]。フォーキンによる振付は記録がほとんどないために忘れ去られたが、英国ロイヤル・バレエ団のフレデリック・アシュトンによる「アシュトン版」など、オリジナルの振付によるバレエが生み出され[2]、様々なヴァリエーションの『ダフニスとクロエ』が世界中で上演されている。
このバレエのためにラヴェルが作曲したバレエ音楽は混声合唱を含む大編成の管弦楽曲であり、1時間近い演奏時間はラヴェルの作品の中で最も長い。ライトモティーフの手法を使って巧みに構成されており、ラヴェル自身は「舞踏交響曲」(フランス語: Symphonie choregraphique)と形容した。ラヴェルの傑作の一つとして高く評価され、バレエ音楽全曲や作曲者自身による組曲がオーケストラの重要なレパートリーの一つとなっている。特に『ダフニスとクロエ 第2組曲』は、ラヴェルが作曲に1年を費やした終幕の「全員の踊り」を含む第3場の音楽をほとんどそのまま抜き出したもので、この形での演奏頻度が高い[3]。
バレエは1幕3場からなり、連続して上演される。上演・演奏の所要時間は約55分[4]。 バレエの筋書は、古代ギリシアのロンゴス(2 - 3世紀)による『ダフニスとクロエ』の、主に前半(第1巻・第2巻)のエピソードに基づいている[5]。
バレエの筋書
登場人物
ダフニス(Daphnis):主人公である山羊飼いの少年。ロンゴスの原作では15歳の設定である[6]。
クロエ:(Chloe):主人公である羊飼いの少女。ダフニスとは恋仲である。原作での設定は13歳[6]。
ドルコン(Dorcon):ダフニスの恋敵役となる若い牛飼い[7]。
リュセイオン(Lyceion):ダフニスを誘惑しようとする好色な人妻[8][注 1]。