ダウン症候群
本棚を組み立てる男児患者
概要
診療科遺伝医学, 神経学
頻度5.4 million (0.1%)[1][2]
分類および外部参照情報
ICD-10Q90
ダウン症候群(ダウンしょうこうぐん、英: Down syndrome, Down's syndrome)またはダウン症は、体細胞の21番染色体が通常より1本多く存在し、計3本(トリソミー症)になることで発症する先天性疾患群である。多くは減数第一分裂時の不分離によって生じるほか、減数第二分裂に起こる。新生児に最も多い遺伝子疾患である[3]。詳細は「減数分裂」を参照
症状としては、身体的発達の遅延、特徴的な顔つき、軽度の知的障害が特徴である[1]。平均して8 - 9歳の精神年齢に対応する軽度から中度の知的障害であるが、それぞれのばらつきは大きく[4]、現時点で治療法は存在しない[5]。教育と早期ケアによりQOLが改善されることが見込まれる[6]。
ダウン症は、ヒトにおいて最も一般的な遺伝子疾患であり[4]、年間1,000出生あたり1人に現れる[1]。 「目尻が上がっていてまぶたの肉が厚い、鼻が低い、頬がまるい、あごが未発達、体は小柄、髪の毛はウェーブではなくて直毛で薄い」という特徴からモンゴロイド人種と関連付けられ、ヨーロッパを中心にMongolism(日本語では蒙古症(もうこしょう))と名づけられていたが、差別や偏見を助長するとして今は使用されていない。 1961年に19名の著名な遺伝学者が「Langdon-Down anomaly」(ラングドン=ダウン異常)「Down's syndrome anomaly」(ダウン症異常)「congenital acromicria」(先天性欠損)、または「trisomy 21 anomaly」(トリソミー21異常)の用語を用いるべきとの声明を発出したことを契機に、蒙古症の語は次第に使われなくなった[7]。1965年ごろにはモンゴル人民共和国の代表がWHOの事務局長に対して、非公式に病名としての「mongolism」が不快であるとして将来的に使用しないように要請している[8]。1965年、WHOは発見者のダウンにちなんで「Down syndrome(ダウン症候群)」を正式な名称とすることが決定した。2012年、3月21日を国際連合が世界ダウン症の日に認定[9]。21番染色体トリソミーにちなむ。 1961年から2011年までの医学論文において、用語として使われた数は以下の結果であった(歴史について記述した論文を除く)。 用語使用の変化を示した図からも、1961年ごろはほぼ100パーセントの使用率であった「mongolism」が1980年代半ばにはまったく使われなくなったことが分かる。2010年時点では「ダウン症候群」が約85パーセント、「Trisomy 21」が約15パーセントの使用率である[10]。 欧米などと東アジアでダウン症の発現率に違いは見られないうえに、近年においては京都大学からダウン症に相当するチンパンジーの例が報告されている[11]。これは猿人が人に進化し、それぞれの人種に分岐する以前の段階からダウン症が存在していたことを示唆している。また、ダウン症とは定義されていないが、ダウン症の外見的な特徴を持つ虎や猫などの動物も存在している。 21番染色体のトリソミーが原因である[12]。トリソミーとなった理由は3タイプに分けられ、生殖細胞の減数分裂時の失敗(染色体の不分離と転座)である。 妊娠11週頃に絨毛検査で確定的に診断できるが、日本では絨毛検査を実施している医療機関は少ない。妊娠15 - 16週ごろに母体血清マーカー検査や新型出生前診断(NIPT)により、確率的に診断することが可能となり[19]、羊水検査で確定的に診断される。検査結果が出るまでに2 - 3週間を要する。「妊婦検診などでこういった出生前検査を勧められなかった」としても医療側の落ち度はないとされる(裁判事例:京都地裁平成9年1月24日判決[20])。そのため妊婦は自ら医療側に進言(結婚している妊婦の場合夫婦の同意に基づく)しないと検査は実施されない。また検査の結果も、正式には「妊婦側が聞くことを希望して初めて通知できる」とされている。イギリスでは国策として2004年以降は全妊婦に出生前診断を推進している[21]。 第一および第三半期スクリーニング[22]スクリーニング在胎週数判別率疑陽性率備考 2002年の人工妊娠中絶率の文献レビューでは、イギリスとヨーロッパでダウン症候群と診断された妊婦のうち、91 - 93パーセントが妊娠を中断した[26]。イギリスの国家ダウン症候群細胞遺伝学登録簿 (NDSCR)のデータによれば、登録が始まった1989年から2006年において、子どもがダウン症と診断されたあとに中絶を選んだ女性は約92パーセントの高率で安定している[27][28]。アメリカでもダウン症胎児の中絶率調査が実施され、3つの研究でそれぞれ95パーセント、98パーセント、87パーセントとなっている[26]。 医療倫理学者のロナルド・グリーンは、両親は自分の子孫に「遺伝的な害」が及ぶのを避ける義務があると主張している[29]。イギリスのジャーナリスト、ドミニク・ローソンはダウン症の娘が生まれた際、彼女に対する無償の愛と彼女が存在することの喜びと同時に、妻が検査を受けていれば中絶できた、という外部の声に怒りを表明した。これに対して、長期にわたりダウン症協会の支援者であったクレア・レイナーは、ローソンの娘への態度を絶賛するとともに、ローソンが障害検査と発見時に中絶をすすめる医師や助産師を酷評することには賛成できず、障害検査と中絶を「辛い事実として、障害を持った個人の面倒をみるということは、人力、哀れみ、エネルギー、そして有限の資源であるお金がとてもかかるということだ。まだ親になっていない人は、自分に問いかけてみるべきだ。自分が他人(社会)にその重荷を背負わせる権利があるのか、もちろん、その重荷の自分の持分をすすんで引き受ける前提としてだが」と擁護した[30]。ダウン症と診断された胎児の高い中絶率を、倫理的に憂慮する医師や倫理学者もいる[31]。ピューリッツァー賞を受賞した保守的な評論家で、息子の一人がダウン症候群であるジョージ・ウィルはそれを「中絶による優生学」と呼んでいる[32][33]。 ダウン症候群は染色体異常であるため、実用化に至っている根本的な治療方法はない。心疾患などの合併症に対しては外科的な対応も含めて治療が行われている。また、思春期以降の生活能力低下(“急激退行 現在、発展著しいゲノム編集の技術により原因遺伝子を改変することによって治療することが想定されている。
名称
Down(ダウン症候群) - 5,289
Trisomy 21(トリソミー21) - 1,396
mongolism(蒙古症) - 524
Langdon Down(ラングドン・ダウン症候群) - 25
Congenital Acromicria(先天性先端矮小症) - 4
臨床像(50 - 75パーセント[12])、耳の感染症(50 - 75パーセント[12])、眼科的問題(先天性白内障、眼振、斜視、屈折異常、60パーセントほど[12])、難聴(75パーセントほど[12])がある。新生児期に哺乳不良やフロッピーインファントのような症状を示し、特異的顔貌
外表奇形
ダウン症児の目。やや吊り上っている。顔の中心部があまり成長しないのに対して顔の外側は成長するため、吊り上った小さい目を特徴とする顔貌(特異的顔貌)を呈する[12]。ほかには舌がやや長い、手に猿線、耳介低位、翼状頚などが発生する。
合併奇形等
ダウン症候群では高率に鎖肛、先天性心疾患、先天性食道閉鎖症、白血病、円錐角膜、斜視、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症などを伴う。
青年期の心理的問題
思春期から成人期にかけて、部屋に閉じこもる、寡黙になるといった変化が急に現れることがあり、その多くは環境の変化や契機となる出来事への適応障害または心因反応と考えられている。しかし、この病態に対しての医学的な検討が十分にされていないため、その治療については確立した方法がまだない。思春期以降、ダウン症者も性的にも成熟していくのが普通である[14]。かつては知的障害者教育の分野において性について触れられないことも多かったが、近年では知的障害者にとっても適切な性教育が必要であることが認識されるようになってきた。特に、知的障害を有する女性が少なからず性的被害にあってきた歴史をふまえ[15]、自身の身体と性について理解し、自衛できるようにすることは重要である[16]。また、ダウン症者が一般社会で暮らしていく際にも、性に関する適切な振る舞いや常識を身につけることは重要である[17][18]。カナダダウン症協会はダウン症者に性についての理解を助け、性に関する社会的ふるまいを身につけ、性的被害から身を守るためのガイドブックを出版している[14]。
原因
標準型21トリソミー(95パーセント):21番染色体の不分離による[12]。
遺伝性転座(3パーセント):21番染色体がほかの染色体に付着。転座型の半分(全体の2パーセント)は親が均衡型転座を保因する[12]。
モザイク型(1 - 2パーセント):個体の中に正常核型の細胞と21トリソミー(21番目の染色体が3本ある核型)の細胞とが混在している[12]。
検査
複合テスト10-13.5週82-87%5%超音波による頸椎部
Quad screen15-20週81%5%母体の血清α-フェトプロテイン、非抱合型エストリオール、hCG、インヒビンAを測定
統合テスト15-20週94-96%5%Quad screenに加えて PAPP-A、NTを検査
セルフリーDNA検査10週目から[23]96-100%[24]0.3%[25]母体血液から採取した胎児由来DNA(セルフリーDNA)を解析
倫理的課題
ダウン症胎児の中絶率
ダウン症胎児の中絶に関する議論
治療
遺伝子治療の研究
ゲノム編集技術の応用
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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