ダウン症
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ダウン症候群

本棚を組み立てる男児患者
概要
診療科遺伝医学, 神経学
頻度5.4 million (0.1%)[1][2]
分類および外部参照情報
ICD-10Q90
ICD-9-CM758.0
OMIM190685
DiseasesDB3898
MedlinePlus000997
eMedicineped/615
Patient UKダウン症候群
MeSHD004314
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ダウン症患者の染色体。22対の常染色体のうち21番染色体だけは3本の組(トリソミー)になっており、これがダウン症候群を引き起こす原因である。右下に見えるXとYは性染色体。

ダウン症候群(ダウンしょうこうぐん、: Down syndrome, Down's syndrome)またはダウン症は、体細胞21番染色体が通常より1本多く存在し、計3本(トリソミー症)になることで発症する先天性疾患群である。多くは減数第一分裂時の不分離によって生じるほか、減数第二分裂に起こる。新生児に最も多い遺伝子疾患である[3]。詳細は「減数分裂」を参照

症状としては、身体的発達の遅延、特徴的な顔つき、軽度の知的障害が特徴である[1]。平均して8 - 9歳の精神年齢に対応する軽度から中度の知的障害であるが、それぞれのばらつきは大きく[4]、現時点で治療法は存在しない[5]。教育と早期ケアによりQOLが改善されることが見込まれる[6]

ダウン症は、ヒトにおいて最も一般的な遺伝子疾患であり[4]、年間1,000出生あたり1人に現れる[1]
名称

目尻が上がっていてまぶたの肉が厚い、鼻が低い、頬がまるい、あごが未発達、体は小柄、髪の毛はウェーブではなくて直毛で薄い」という特徴からモンゴロイド人種と関連付けられ、ヨーロッパを中心にMongolism(日本語では蒙古症(もうこしょう))と名づけられていたが、差別や偏見を助長するとして今は使用されていない。

1961年に19名の著名な遺伝学者が「Langdon-Down anomaly」(ラングドン=ダウン異常)「Down's syndrome anomaly」(ダウン症異常)「congenital acromicria」(先天性欠損)、または「trisomy 21 anomaly」(トリソミー21異常)の用語を用いるべきとの声明を発出したことを契機に、蒙古症の語は次第に使われなくなった[7]。1965年ごろにはモンゴル人民共和国の代表がWHOの事務局長に対して、非公式に病名としての「mongolism」が不快であるとして将来的に使用しないように要請している[8]1965年WHOは発見者のダウンにちなんで「Down syndrome(ダウン症候群)」を正式な名称とすることが決定した。2012年3月21日国際連合世界ダウン症の日に認定[9]。21番染色体トリソミーにちなむ。

1961年から2011年までの医学論文において、用語として使われた数は以下の結果であった(歴史について記述した論文を除く)。

Down(ダウン症候群) - 5,289

Trisomy 21(トリソミー21) - 1,396

mongolism(蒙古症) - 524

Langdon Down(ラングドン・ダウン症候群) - 25

Congenital Acromicria(先天性先端矮小症) - 4

用語使用の変化を示した図からも、1961年ごろはほぼ100パーセントの使用率であった「mongolism」が1980年代半ばにはまったく使われなくなったことが分かる。2010年時点では「ダウン症候群」が約85パーセント、「Trisomy 21」が約15パーセントの使用率である[10]

欧米などと東アジアでダウン症の発現率に違いは見られないうえに、近年においては京都大学からダウン症に相当するチンパンジーの例が報告されている[11]。これは猿人が人に進化し、それぞれの人種に分岐する以前の段階からダウン症が存在していたことを示唆している。また、ダウン症とは定義されていないが、ダウン症の外見的な特徴を持つ虎や猫などの動物も存在している。
臨床像

知的障害先天性心疾患(50パーセント[12])、低身長、肥満、筋力の弱さ、頸椎の不安定性、閉塞性睡眠時無呼吸(50 - 75パーセント[12])、耳の感染症(50 - 75パーセント[12])、眼科的問題(先天性白内障眼振斜視、屈折異常、60パーセントほど[12])、難聴(75パーセントほど[12])がある。新生児期に哺乳不良やフロッピーインファントのような症状を示し、特異的顔貌、翼状頚、よく伸展するやわらかい皮膚などから疑われることもある。青年期以降にはストレスからくるうつ症状・早期退行を示す者もいる。男性の場合、モザイク型を除きすべて不妊となる一方、女性の場合多くは妊娠が可能であるが、多くは自然流産となる。また、母親(または父親)がダウン症候群患者の場合、胎児のダウン症候群発症率は50パーセントであるため、高確率で遺伝する。一般的に肉体的成長の遅延、特徴的な顔つき、軽中度の知的障害に特徴づけられる[1]。平均して8 - 9歳の精神年齢に対応するが、それぞれのばらつきは大きい[4]。40歳以降にアルツハイマー病が高確率で起きる[13]
外表奇形
ダウン症児の目。やや吊り上っている。顔の中心部があまり成長しないのに対して顔の外側は成長するため、吊り上った小さい目を特徴とする顔貌(特異的顔貌)を呈する[12]。ほかには舌がやや長い、手に猿線耳介低位、翼状頚などが発生する。
合併奇形等
ダウン症候群では高率に鎖肛先天性心疾患、先天性食道閉鎖症白血病円錐角膜斜視甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症などを伴う。
青年期の心理的問題
思春期から成人期にかけて、部屋に閉じこもる、寡黙になるといった変化が急に現れることがあり、その多くは環境の変化や契機となる出来事への適応障害または心因反応と考えられている。しかし、この病態に対しての医学的な検討が十分にされていないため、その治療については確立した方法がまだない。思春期以降、ダウン症者も性的にも成熟していくのが普通である[14]。かつては知的障害者教育の分野において性について触れられないことも多かったが、近年では知的障害者にとっても適切な性教育が必要であることが認識されるようになってきた。特に、知的障害を有する女性が少なからず性的被害にあってきた歴史をふまえ[15]、自身の身体と性について理解し、自衛できるようにすることは重要である[16]。また、ダウン症者が一般社会で暮らしていく際にも、性に関する適切な振る舞いや常識を身につけることは重要である[17][18]。カナダダウン症協会はダウン症者に性についての理解を助け、性に関する社会的ふるまいを身につけ、性的被害から身を守るためのガイドブックを出版している[14]
原因

21番染色体トリソミーが原因である[12]。トリソミーとなった理由は3タイプに分けられ、生殖細胞の減数分裂時の失敗(染色体の不分離と転座)である。

標準型21トリソミー(95パーセント):21番染色体の不分離による[12]

遺伝性転座(3パーセント):21番染色体がほかの染色体に付着。転座型の半分(全体の2パーセント)は親が均衡型転座を保因する[12]


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