ターター・システム
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フランス海軍のミサイル駆逐艦「カサール」艦上のターターおよびMk 13発射機。後方にはDRBJ-11B三次元レーダーとAN/SPG-51イルミネーターがシルエットになっている。

ターター・システム(Tartar System)は、アメリカ合衆国製の中距離艦対空ミサイル・システムで、単にターター(Tartar)と呼ばれることもある。当初、RIM-24ターターを使用するシステムであったためにこの名があり、ミサイルがターターからスタンダードミサイルに変更された後も、引き続きターターの名称を冠して呼称される。
来歴

RIM-24ターターの実用化直後、ターター・システムは、ミサイル本体とその発射機 (GMLS: Guided Missile Launching System)、ターターの射撃管制システム (FCS: Fire Control System)と武器管制システム (WDS: Weapons Direction System)といったサブシステムからなる、単なる対空ミサイル・システムであった。これらはいずれもアナログ式のコンピューターシステムを有しており、3Tファミリーに概して言えることだが、信頼性に限界があった。

これを更新するため開発されていたタイフォン・システムの頓挫を受け、1964年より先進水上ミサイル・システム(ASMS)計画が開始された。しかし、これは極めて野心的な計画であり、その技術の成熟を待つ意味でも、実用化には長い時間を要することが容易に予想された。

このことから、漸進的な性能向上を狙って、1965年より開発開始されたのがターター-D・システムである。これは、既に運用中の (アナログ技術による) 3Tシステムのコンセプトを踏襲しつつ、デジタル技術を導入するとともに、システム・エンジニアリング的なアプローチによって、海軍戦術情報システムとともに統合された武器システムを構築するものであった。これによって、ターター・システムは、各種センサーからの入力と戦術情報処理機能、武器管制機能と射撃管制機能を統合してシステム化した統合武器システムとなることになった。なお、ASMSは1969年イージス計画と改称したのち、実際の搭載艦1983年より就役を開始している。

当初の予想とは異なり、ターター-Dの開発は難航した。その原因は、
スタンダード・ミサイル1型を除き、主要なサブシステムが全て新規開発であった

統合システムの意義、および各サブシステムの連接に関する理解が不足していた

といった点にあった。この結果、ターター-Dの初の搭載艦であるカリフォルニア級原子力ミサイル巡洋艦は就役が計画より1年7ヶ月も遅れるという失態を招いた。しかし、ターター-D・システムは、イージスシステムの登場までの間まで艦隊防空を支えるとともに、統合された対空ミサイル・システムの開発・配備という経験を提供し、イージス・システムの実用化に向けて貴重な教訓となった。

ターター・システムを採用した日本海上自衛隊においても、1976年に就役したたちかぜ型護衛艦よりターター-D・システムに切り替えられている。また、日本初のターター・システム搭載艦である「あまつかぜ」のシステムも、1982年にはデジタル化された。その後、1993年に就役したこんごう型護衛艦より、海上自衛隊はイージス・システムの運用を開始した。
構成

ターター・システムは多くの国で長期に渡って運用されているため、その構成は多彩である。元自衛艦隊司令官である香田洋二海将は下記のように定義している[1]

主要なサブシステム

3次元レーダー

武器管制システム(WDS)

ミサイル射撃指揮システム(GMFCS)

誘導ミサイル発射システム (GMLS; いわゆるミサイル・ランチャー)

艦対空ミサイル(SAM)


連接される各種システム

2次元対空捜索レーダー

テレメーター装置

戦術情報処理装置


三次元レーダーアダムズ級ミサイル駆逐艦搭載のAN/SPS-52三次元レーダー

三次元対空捜索レーダーは、目標の捜索を行い、射撃指揮装置に射撃諸元を伝達するもので、ターター・システム搭載の防空艦において主要なセンサーとなる。アメリカ海軍チャールズ・F・アダムズ級ミサイル駆逐艦海上自衛隊の「あまつかぜ」など、もっとも初期の就役艦では、パラボラアンテナを使用するAN/SPS-39が使用されていた。

その後、改良型のAN/SPS-42を経て、プレーン・アンテナのAN/SPS-52に発展した。また、ターター・システムはもともと駆逐艦への搭載のために開発されたものではあるが、高性能ゆえに、のちには巡洋艦にも搭載された。巡洋艦においては余裕があるため、より大型・大出力のAN/SPS-48が搭載された。いずれもSバンドで動作し、探知距離は400km程度である。

なお、フランス海軍カサール級駆逐艦においてはDRBJ-11Bが使用されているが、これはパッシヴ・フェーズド・アレイ・レーダーである。Sバンドで動作し、探知距離は190km程度と言われている。
対空捜索レーダー

多くの場合、ターター・システム搭載艦では、三次元レーダーに加えて二次元レーダーも搭載される。これは、三次元レーダーを補完して遠距離での捜索・警戒を行うもので、アメリカではAN/SPS-40(のちにはAN/SPS-49)が、海上自衛隊ではOPS-11が搭載される。

ただし、アメリカのブルック級ミサイルフリゲートスペインバレアレス級フリゲートは、艦が小型で余裕が少ないため、この種のレーダーは搭載していない。
戦術情報処理装置

これは、オペレーターとともに半自動のマン-マシン-システムを構成し、レーダーなどセンサーからの情報を受けとって、目標の脅威度判定などの意思決定を担うものである。初期の艦においてこの役割は、CICのオペレーターにより、完全手動・完全人力で行われていた。

のちにターターD・システムにおいて、海軍戦術情報システム(NTDS)との連接・統合により、対空対処における意思決定の迅速化を実現されるとともに、統合戦闘システムの嚆矢となった。
武器管制システムアダムズ級での搭載例、左からTSTC、WAC、WCP、DACの各コンソール

オペレーター、または戦術情報処理装置による脅威度の判定ののち、それを含めた目標の情報・諸元を記憶・管理し、兵器割り当ての自動処理を行い、射撃管制システムに攻撃を指令するものである。WDE (Weapons Direction Equipment) を中心として構築されたシステムである。

初期のターター・システムではアナログ式のウェスタン・エレクトリック製Mk 4が使われていたが、のちにこれは、海軍戦術情報システムとの連接に対応した、デジタル式のMk 11によって代替された。ターター-D・システムでは、海軍戦術情報システム、またはそれに準じた意思決定機能を有する戦術情報処理装置が導入されたことからWDS (Weapons Direction System) またはWCS (Weapons Control System)と呼ばれており、就役当初はMk 13が、NTU改修艦ではMk 14が使用されている。
射撃指揮システム詳細は「Mk.74 ミサイル射撃指揮装置」を参照

ターター・システムの中核として、艦対空ミサイルによる攻撃を直接になうのが射撃指揮システム(FCS)で、ミサイル用 (MFCS)としては、わずかな例外を除いては、一貫してMk 74が用いられている。初期のターター・システムではmod 1?3が、ターター-Dではmod 4, 5が用いられ、さらに初期型ターターをデジタル化改装した際にはmod 6, 8が用いられた。また、のちには強化型のmod 13が開発されて新造艦や改修艦に搭載され、NTU改修艦はさらにmod 15にアップグレードした。

Mk.74射撃管制システムは、Mk.73方位盤とコンピューター(初期はアナログ式のMk.118、のちにデジタル式のMk.152[1]UNIVAC 1219[2]))、AN/SPG-51レーダーによって構成される。たいていMk 74は2セット搭載されるが、船体が小型のブルック級/バレアレス級フリゲートや、既存のフォレスト・シャーマン級駆逐艦を改装しターター・システムを組み込んだジョン・ポール・ジョーンズ級ミサイル駆逐艦では1セットしか搭載しない。ブルック級ミサイルフリゲートのAN/SPG-51Cイルミネーター

AN/SPG-51は、Cバンドで目標を追尾し、Xバンドでイルミネーターとして誘導用の連続波を照射するデュアル・バンド・レーダーであり、ターター-D・システムでは従来のものと比して出力が5倍増強されたD型が使用されている(ただしD型開発後も、イタリアや日本などへの輸出型では、C型が継続使用されている)。


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