タンパク質生合成
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タンパク質生合成は、核内での転写と転写後修飾で始まる。そして生成した成熟mRNAは細胞質に運ばれて翻訳されてポリペプチド鎖を形成する。次にポリペプチド鎖は折りたたまれ、翻訳後修飾を受けて機能的なタンパク質を形成する。

タンパク質生合成(たんぱくしつせいごうせい、: protein biosynthesis)は、タンパク質合成(: protein synthesis)とも呼ばれ、細胞内で行われる中心的な生物学的プロセスであり、新しいタンパク質の生成を通じて細胞内タンパク質の消失(分解や輸送(英語版))とのバランスを維持する。タンパク質は、酵素構造タンパク質、またはホルモンとして、多くの重要な機能を果たしている。原核生物真核生物の両方で、タンパク質生合成は非常によく似たプロセスであるが、いくつかの明確な違いがある[1]

タンパク質生合成は、転写翻訳の2つの段階に大きく分けられる。転写の際、タンパク質をコード(符号化)するDNA遺伝子として知られる)の一部が、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる鋳型分子に変換される。この変換は、細胞の核内RNAポリメラーゼと呼ばれる酵素によって行われる[2]。真核生物では、このmRNAは最初は未成熟な形(pre-mRNA)で作られ、転写後修飾を受けて成熟mRNAが生成される。成熟mRNAは、細胞核から核膜孔を通って細胞質へと運ばれ、翻訳が行われる。翻訳の際、mRNAはリボソームによって読み取られ、リボソームはmRNAのヌクレオチド配列を使用してアミノ酸の配列を決定する。リボソームは、コード化されたアミノ酸間の共有ペプチド結合の形成を触媒して、ポリペプチド鎖を形成する。

翻訳されたポリペプチド鎖は、機能性タンパク質を形成するために、適切に折りたたまれなければならない。たとえば酵素として機能する場合、ポリペプチド鎖が正しく折りたたまれて機能的な活性部位を形成する必要がある。そのポリペプチド鎖が機能的な三次元(3D)形状をとるためには、まず二次構造と呼ばれる一連の小さな基礎構造を形成しなければならない。次に、これらの二次構造のポリペプチド鎖が折り重なって、全体の三次元的な三次構造が形成される。正しく折りたたまれると、タンパク質はさまざまな翻訳後修飾を受けてさらに成熟する。翻訳後修飾は、タンパク質の機能、細胞内での位置(細胞質や核など)、他のタンパク質と相互作用する能力を変化させる[3]

タンパク質生合成は、疾患において重要な役割を果たしており、DNAの変異やタンパク質のミスフォールディング(誤った折りたたみ)など、このプロセスの変化や誤りが疾患の根本的な原因となることが多い。DNA変異は、後続するmRNA配列を変化させ、それからmRNAにコード化されたアミノ酸の配列を変化させる。変異によって翻訳を早期終了させるストップシークエンスが生成することで、ポリペプチド鎖が短くなることがある。あるいはまた、mRNA配列が変異することにより、ポリペプチド鎖のその位置にコードされている特定のアミノ酸が変化する。このアミノ酸の変化は、タンパク質が機能を果たしたり正しく折りたたまれる能力に影響を及ぼすことがある[4]。誤って折りたたまれたタンパク質は、互いにくっついて高密度のタンパク質凝集塊を形成する傾向があるため、しばしば疾患に関与している。このような凝集塊は、アルツハイマー病パーキンソン病など、多くの場合は神経学的な、さまざまな疾患に関連している[5]
転写詳細は「翻訳 (生物学)」および「en:Transcription (genetics)」を参照

転写とは、DNAを鋳型としてmRNAを生成することで、細胞の核内で行われる。真核生物では、このmRNA分子はpre-mRNAと呼ばれ、核内で転写後修飾を受けて成熟mRNA分子となる。ただし、原核生物では転写後修飾は必要ではなく、転写によって直接に成熟mRNA分子が生成される[1]。.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}共有結合性のホスホジエステル結合を形成するために必要なリン酸基の5'位と水酸基の3'位を示すラベルを付けた5個の炭素を持つヌクレオチドの構造を示す。コード鎖が5'から3'に走り、相補的鋳型鎖が3'から5'に走っているDNA分子の固有の方向性を示す。

最初にヘリカーゼと呼ばれる酵素がDNA分子に作用する。DNAは、2本の相補的なポリヌクレオチド鎖から構成される逆平行二重らせん構造を持っており、塩基対間の水素結合によって結びついている。ヘリカーゼがこの水素結合を切断すると、遺伝子に相当するDNAの領域がほどけて2本のDNA鎖が分離し、一連の塩基が露出する。DNAは二本鎖分子であるにもかかわらず、片方の鎖のみがpre-mRNA合成の鋳型として機能する - この鎖は鋳型鎖(テンプレート鎖)と呼ばれる。もう一方のDNA鎖(鋳型鎖と相補的である)はコード鎖と呼ばれる[6]

DNAとRNAはどちらも固有の方向性を持っている。つまり、分子の両端は別個である。この方向性の特性は、基礎となるヌクレオチドサブユニットの非対称性によるもので、五炭糖の片側にリン酸基が、もう片側に塩基が存在する。五炭糖の5つの炭素には、1'('はプライムを意味する)から5'までの番号が付けられている。したがって、ヌクレオチドをつなぐホスホジエステル結合は、あるヌクレオチドの3'炭素上のヒドロキシ基と別のヌクレオチドの5'炭素上のリン酸基が結合することで形成される。ゆえに、コードDNA鎖は5'から3'の方向に走り、相補的な鋳型DNA鎖は3'から5'の逆方向に走ることになる[1]RNAポリメラーゼによって、鋳型DNA鎖がpre-mRNA分子に変換(転写)される様子を示す。

RNAポリメラーゼ酵素は、露出した鋳型鎖に結合し、3'から5'の方向に遺伝子を読み取る。同時に、RNAポリメラーゼは、鋳型鎖と相補的な塩基対を形成することができる活性化ヌクレオチド(核内に遊離している)間でホスホジエステル結合の形成を触媒することにより、5'から3'の方向にpre-mRNAの一本鎖を合成する。移動するRNAポリメラーゼの背後では、DNAの2本の鎖が再結合するので、一度に露出するDNAの塩基対は12個のみである[6]。RNAポリメラーゼは、毎秒20ヌクレオチドの速度でpre-mRNA分子を構築するので、同じ遺伝子から1時間あたり数千のpre-mRNA分子を作り出すことができる。このように合成速度が速いにもかかわらず、RNAポリメラーゼ酵素には独自の校正機構が備わっている。RNAポリメラーゼの校正機構は切除反応によるもので、成長中のpre-mRNA分子から誤ったヌクレオチド(鋳型DNA鎖と相補的でないもの)を除去することができる[1]。RNAポリメラーゼが転写を終了する特定のDNA配列に到達すると、RNAポリメラーゼが切り離され、pre-mRNAの合成が完了する[6]

合成されたpre-mRNA分子は、鋳型DNA鎖と相補的であり、コードDNA鎖と同じヌクレオチド配列を持っている。ただし、DNA分子とmRNA分子のヌクレオチド組成には1つの決定的な違いがある。DNAは、グアニンシトシンアデニンチミンの4種類の塩基(G、C、A、T)で構成されている。RNAもグアニン、シトシン、アデニン、ウラシルの4種類の塩基で構成されている。RNA分子では、DNA塩基のチミンの代わりに、アデニンと塩基対を形成することができるウラシル(U)が用いられている。したがって、pre-mRNA分子では、コードDNA鎖のチミンとなる相補的塩基がすべてウラシルに置き換えられる[7]
転写後修飾詳細は「転写後修飾」を参照pre-mRNAが転写後、キャップ付加、ポリアデニル化、スプライシングの修飾を受け、細胞核から輸送可能な成熟mRNA分子が生成されるプロセスを概観する。


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