タンパク質凝集
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ミスフォールドタンパク質はタンパク質凝集体やアミロイド線維を形成したり、分解されたり、ネイティブ構造へリフォールディングしたりする。

タンパク質の凝集(ぎょうしゅう、: aggregation)は、天然変性タンパク質やミスフォールドタンパク質(誤ったフォールディングを行ったタンパク質)が細胞内や細胞外に蓄積して塊(凝集体)を形成する生物学的現象である[1][2]。ミスフォールドタンパク質の凝集体は疾患と関係していることが多い。タンパク質の凝集はALSアルツハイマー病パーキンソン病プリオン病を含む、アミロイドーシスとよばれる広範囲の疾患との関係が示唆されている[3][4]

タンパク質は合成後、熱力学的に最も有利な三次元コンフォメーションへとフォールディングし、その状態はネイティブ状態と呼ばれる[5]。このフォールディング過程は疎水効果によって駆動される。タンパク質の疎水的部分は自身をタンパク質の内部に埋め込むことで細胞の親水的環境から自身を隠す傾向がある。そのため、一般的にはタンパク質の外部は親水的となり、内部は疎水的となる。

タンパク質の構造は非共有結合的相互作用や、2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合によって安定化される。非共有結合的相互作用には、イオン性相互作用や弱いファンデルワールス相互作用が含まれる。イオン性相互作用はアニオンとカチオンの間で形成され、タンパク質の安定化を助ける塩橋を形成する。ファンデルワールス相互作用には非極性相互作用(ロンドン分散力など)と極性相互作用(水素結合双極子間相互作用など)が含まれる。これらはタンパク質の二次構造αヘリックスβシートなど)や三次構造の形成に重要な役割を果たしている。タンパク質内のアミノ酸残基間の相互作用はタンパク質の最終的な構造に非常に重要である。

アミノ酸配列の変化などによって非共有結合的相互作用に変化が生じた場合には、タンパク質はミスフォールディングやアンフォールディング(フォールディングの解消)を起こしやすくなる。こうした場合、細胞がタンパク質のリフォールディング(再フォールディング)の補助やアンフォールドタンパク質の分解を行わなければ、アンフォールド/ミスフォールドタンパク質は露出した疎水的部分を介して他のタンパク質の露出した疎水的部分と相互作用して凝集する可能性がある[6][7]。タンパク質凝集体には、アモルファス凝集体(不定形凝集体、amorphous aggregates)、オリゴマーアミロイド線維という3つの主要なタイプが存在する[8]
原因

タンパク質の凝集はさまざまな原因で生じる。ここではその原因を4つに分類して詳細を記載する。
突然変異

DNA配列に生じた突然変異はタンパク質のアミノ酸配列に影響を与える場合(ミスセンス変異)と与えない場合(サイレント変異)がある。アミノ酸配列が影響を受ける場合、アミノ酸の変化によって側鎖間の相互作用が変化し、タンパク質のフォールディングに影響が生じる可能性がある。その結果タンパク質の疎水性領域が露出し、同じミスフォールド/アンフォールドタンパク質どうし、または異なるタンパク質間での相互作用により、凝集体が形成される。

タンパク質の凝集は、凝集体を形成するタンパク質自体の変異以外にも、リフォールディング経路(分子シャペロン)やユビキチン-プロテアソーム経路(ユビキチンリガーゼ)などの調節経路のタンパク質の変異によって間接的に引き起こされる場合もある[9]。シャペロンはタンパク質がフォールディングを行う安全な環境を提供し、タンパク質のリフォールディングを助ける。ユビキチンリガーゼはタンパク質をユビキチン化修飾することでタンパク質分解の標的とする。
タンパク質合成の問題

タンパク質の凝集は転写翻訳時の問題によっても引き起こされる。転写時にDNAはRNAにコピーされ、pre-mRNA鎖はプロセシングを受けてmRNAとなる[10]。翻訳時には、リボソームtRNAがmRNA配列からアミノ酸配列への翻訳を助ける[10]。これらの段階のいずれかに問題が生じた場合、不適切なmRNAや不適切なアミノ酸配列を有するタンパク質が形成され、ミスフォールディングやタンパク質の凝集が引き起こされる可能性がある。
環境ストレス

極度の温度やpHの変化、酸化ストレスなどの環境ストレスもタンパク質の凝集をもたらす[11]。こうした疾患の例としてはクリオグロブリン血症が挙げられる。

極度の温度変化はアミノ酸残基間の非共有結合的相互作用を弱めて不安定化する。pHの変化もアミノ酸のプロトン化状態を変化させ、非共有結合的相互作用を強めたり弱めたりする。その結果、相互作用の安定性が低下し、タンパク質のアンフォールディングが引き起こされることがある。

酸化ストレスは活性酸素種などのラジカルによって引き起こされる場合がある。こうした不安定なラジカルはアミノ酸残基を攻撃し、側鎖(芳香族アミノ酸メチオニンの側鎖)の酸化やペプチド結合の切断を引き起こす[12]。こうした攻撃はタンパク質を適切に保持している非共有結合的相互作用にも影響を与え、タンパク質の不安定化やアンフォールディングが引き起こされる場合がある[11]
老化

細胞にはタンパク質凝集体をリフォールディングしたり分解したりする機構が存在する。しかしながら、老化によってこうした制御機構は弱くなり、細胞は凝集体を解消することが難しくなる[11]

タンパク質の凝集が老化の原因となる過程であるという仮説に関して、現在では老化遅延生物モデルがいくつか開発されており、それらを用いた検証がなされている。タンパク質凝集体の形成が老化とは無関係な過程である場合、老化は経時的なタンパク質毒性に影響を与えないはずである。一方、老化がタンパク質毒性の防止機構の活性低下と関係している場合、老化遅延モデルでは凝集とタンパク質毒性の低下がみられるはずである。この問題に取り組むため、いくつかの毒性アッセイが線虫Caenorhabditis elegansで行われている。こうした研究からは、主要な老化調節経路であるインスリン/IGFシグナル伝達経路の活性の低下によって、神経変性と関係した有毒なタンパク質凝集に対して保護効果がもたらされることが示されている。哺乳類でもアルツハイマー病モデルマウスにおいて、IGF-1シグナル伝達経路の活性の低下によって疾患と関係した行動的・生化学的異常から保護されることが示されており、このアプローチの妥当性は確証されている[13]
凝集の局在

タンパク質凝集に対する細胞応答はよく調節され、組織化されたものであることがいくつかの研究から示されている。タンパク質凝集体は細胞内の特定の領域に局在することが知られており、原核生物大腸菌)や真核生物酵母哺乳類細胞)でこうした局在の研究が行われている。
細菌

細菌では凝集体は非対称的に蓄積し、細胞の"older pole"と呼ばれる極に到達する。細胞分裂後、タンパク質凝集体はolder poleを含む側の娘細胞が受け取り、その生育は凝集体を持たない娘細胞よりも遅くなる。この機構は細菌集団中のタンパク質凝集体を減少させる自然選択機構となっている[14]
酵母JUNQとIPOD

酵母細胞内のタンパク質凝集体の大部分は、分子シャペロンによってリフォールディングされる。しかしながら、酸化損傷したタンパク質や分解標的となったタンパク質など、一部の凝集体はリフォールディングされない。細胞内にはこうした凝集体が到達する2つの区画JUNQとIPODが存在する。酵母細胞内でJUNQ(juxtanuclear quality-control compartment)は核膜に近接して存在し、IPOD(insoluble protein deposit)は液胞に近接して存在する[11]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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