タンパク質ドメイン
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ピルビン酸キナーゼは3つのドメインからできたタンパク質である。 (PDB: 1pkn​)

タンパク質ドメイン(Protein domains)は、タンパク質の配列、構造の一部で他の部分とは独立に進化し、機能を持った存在である。それぞれのドメインはコンパクトな三次元構造を作り、独立に折り畳まれ、安定化されることが多い。多くのタンパク質がいくつかのドメインより成り立ち、1つのドメインは進化的に関連した多くのタンパク質の中に現れる。ドメインの長さは様々で、25残基程度から500残基以上に及ぶものもある。ジンクフィンガーのような最も短いドメインは金属イオンジスルフィド結合によって安定化される。カルモジュリンにおけるカルシウム結合性のEFハンドドメインのように、ドメインはしばしばタンパク質の機能ユニットとなっている。また、ドメインは自己安定化されるため、遺伝子工学によってタンパク質間での組み替えを行い、キメラを作ることができる。
背景

タンパク質のドメインという概念は、リゾチーム(Phillips, 1966)、パパイン(Phillips, 1966)の結晶X線回折の研究、免疫グロブリン(Porter, 1973; Edelman, 1973)の部分的な分解の研究等を受けて、1973年にD.B. Wetlauferにより提唱された。Wetlauferはドメインを自立的に折り畳まれるタンパク質構造の中の安定なユニット部分と定義した。ドメインは、(1)コンパクトな構造で[1]、(2)独自の進化をして独自の機能を持ち[2]、(3)独自に折り畳まれるもの(Wetlaufer, 1973)、と定義された。

ドメインは他のドメインと組み合わさってマルチドメインを作ることがある(Chothia, 1992)。マルチドメインを持つタンパク質では、それぞれのドメインは独立にそれぞれの機能を果たすか、隣接のドメインと協力し合って機能を果たす。またドメインはウイルスの殻や筋肉繊維などのような大きな集合体の一モジュールとなったり、酵素や制御因子の触媒部位、結合部位となることもある。

一例としてピルビン酸キナーゼでは、all-βの調整ドメイン、α/β-基質結合ドメイン、α/β-核結合ドメインがポリペプチドのリンカーで結合されている(George and Heringa, 2002a) 。これらのドメインは別々のファミリーに属している。

酵素の中心にあるTIMバレルの基質結合ドメインは最もよく見られるものの1つである[3]。これは相互に全く関係のない反応を触媒する多くの異なった酵素ファミリーの中に見られる(Hegyi and Gerstein, 1999)。TIMバレルはこのような構造のうち最も早くに構造が解かれたものである。CATHドメインデータベースには、現在26のホモログファミリーが分類されている(Orengo et al., 1997)。TIMバレルはβ-α-βというモチーフを持ち、末端同士が水素結合で閉じられている。起源については、大昔の1つの酵素にあったものが急速に拡散したという説や[4]収束進化によるという説がある(Lesk et al., 1989)。

ピルビン酸キナーゼ中のTIMバレルは、ドメインを形成するのに2つ以上のポリペプチド鎖を要するという意味で「不連続」である。これはタンパク質の進化中にあるドメインが別のドメインの中に挿入されたためであると考えられている。これまで知られているドメインのうち、約4分の1が不連続となっている(Jones et al., 1998; Holm and Sander, 1994)。

共有結合している2つのドメインは、タンパク質の構造や機能の安定性の面において、共有結合していないものよりも有利である(Ghelis and Yon, 1979)。また共有結合は、触媒作用の中間体を安定化したり量比を固定するのにも役立つ(Ostermeier and Benkovic, 2000)。
タンパク質構造のユニットとしてのドメイン詳細は「タンパク質構造」を参照
一次構造

タンパク質の一次構造は特異的な三次元構造を決定している[5]。タンパク質の三次元構造を決める最も重要な要因は極性、非極性のアミノ酸の分布である[6]フォールディングは疎水性側鎖を分子の中に閉じ込める力によって進む。

アライメントはドメインを決定する重要な道具である。
二次構造

一般のタンパク質は親水性残基に取り巻かれた疎水性残基の核を持つ。ペプチド結合自体は極性のため、疎水性の環境では水素結合を作って中和される。これにより、二次構造と言われる部分的な共通性を持ったポリペプチドの三次元構造が作られる。主な二次構造には、αヘリックスβシートがある。
二次構造のモチーフ

二次構造の簡単な組み合わせがいくつかのタンパク質の中で見られることがあり、超二次構造またはモチーフと呼ばれる。例えばβヘアピンは2つの逆平行βストランドが小さなループで結合された構造をしている。これは単独でリボンとしても、より複雑なβシートの一部としても現れる。他の超二次構造の例としてはβ-α-βモチーフがあり、平行βストランドの繋ぎ目でよく見られる。中央のαヘリックスが1番目のストランドのC末端と2番目のストランドのN末端を結合する。
三次構造

いくつかのモチーフが一体となり、局所的にコンパクトな半独立のユニットを作ったものをドメインと呼ぶ[1]。これに対してポリペプチド鎖全体の三次元的な構造はタンパク質の三次構造と呼ばれる。ドメインはそれぞれがループで繋がった二次構造からなる疎水性の核を持ち、三次構造の基礎的なユニットとなっている。タンパク質のパッキングは一般に外側よりも内側の方が密で、固体の様な核と液体の様な表面になる[7]。実際、核の部分は保存性が高いがループの部分の残基はタンパク質の機能に関わっているにもかかわらず保存性は高くない。タンパク質の三次構造はドメインに含まれる二次構造によって4つのクラスに分類される[8]

All-αドメインはαヘリックスのみからなる核を持ったドメインで、たいていは小さなフォールドである。

All-βドメインは逆平行βシートの核を持つドメインでストランドの配列には様々なパターンがあるがグリークキー型のものが多い[9]

α+βドメインはAll-αドメインとAll-βドメインの混合物である。他のクラスと重複するためこのクラスへの分類は難しく、CATHドメインデータベースでは扱われていない[10]

α/βドメインはβ-α-βモチーフを含む。二次構造は層状か樽状に配列する。

アライメントはドメインの種類を決める重要な道具である。
ドメインのサイズ

ドメインのサイズには制限がある[11]。それぞれのドメインのサイズはE-セレクチンの36残基からリポキシゲナーゼ-1の692残基の範囲にある[12]。しかしドメインの90%以上は200残基以下、平均では約100残基となっている[13]。40残基以下のとても短いドメインは金属イオンやジスルフィド結合で安定化される。300残基を超える大きなドメインは複数の疎水性の核を持つ場合が多い[14]
一次構造と三次構造の関係
モジュール

「自然は発明家ではなく修繕屋だ」[15]と言われる。新しい配列は全く新しく作り出されるよりも、既存の配列を改良したものの方が多い。ドメインは自然が新しい配列を作る時によく利用する材料で、モジュールと呼ばれる。古細菌真正細菌真核生物のどの分類にも共通して現れるドメインもたくさんある。様々なタンパク質で広く見られるドメインには、例えば細胞外の凝固、線維素溶解、補体に関わるようなタンパク質や細胞表面の接着、サイトカイン受容体のタンパク質などがある[16]
タンパク質ファミリー

分子進化の研究により、似たような配列、構造を持つタンパク質のファミリーという概念が生まれた。しかし配列の相同性は同じ構造を持つタンパク質同士でも著しく低いこともある。共通の祖先から分岐したためにタンパク質の構造が似る場合もあるが、二次構造の安定化の仕方が共通だったり、進化の過程でたまたま同じような構造を取ることも少なくない。現在では4万5000を超えるタンパク質の三次元構造が実験的に解かれ、蛋白質構造データバンクに登録されている[17]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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