タンカー
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タンカー (tanker) とは、液体を輸送する輸送機械など)のこと。船体内に大型のタンク(液槽)を設置していることからタンカーと呼ばれる。

一般に石油タンカーを「タンカー」と呼ぶことが多いため、液化天然ガス(LNG)を輸送する船はLNGタンカー、化学物質を輸送する船はケミカルタンカーなどと特に区別して呼ばれる。石油タンカー
空荷のため舵とバルバス・バウが水面上に出るほど浮いている。
船舶のタンカー

船艙がタンクになっている船舶を「タンカー」と呼ぶ。以下の種類がある。
油槽船(オイルタンカー・プロダクト・タンカー)詳細は「石油タンカー」を参照

タンカーは通常、石油類を輸送する油槽船を指す。搭載する油種は原油のほか、精製された重油軽油などを扱う「プロダクト・タンカー」と呼ばれる船もある。第二次世界大戦後は、主に中東産原油の輸送を行うために、経済性の高い超大型タンカーが作られ、1979年には世界最大の56万重量トンの原油タンカー(→ノック・ネヴィスを参照のこと)が建造されたがその後の大型化は沈静化している。

低速で航行する巨大な油槽船は、大きければそれだけ燃費を低減できるため可能であればますます大きな船体が求められる。他の大型貨物船とは異なり、大型タンカーの油の積卸しには岸壁ではなく、シーバースが使われることがほとんどであり、喫水によって港で制約を受けることがない。しかし一方で、通過できる運河や海峡が制約されて不経済な遠回りの航路を強いられる、長時間の荷役にかかる時間のロス、機関やプロペラなどが特殊なものとなる、など大型化による不利益な面も多くあるため、際限なく大型化できるわけではない。21世紀初頭の現在は、30万重量トンが最大級である。

軍用のタンカーのうち、他艦船へ洋上給油を行うための設備を持つものは「給油艦(きゅうゆ-かん)」、給油設備を持たない輸送専門のものは「油槽艦(ゆそう-かん)」と呼ばれる。また、洋上給油に加え洋上補給(固形物資や真水など)も実施できる、もしくは洋上補給専門のものは「補給艦(ほきゅう-かん)」と呼ばれる。現代においては、これらの艦種のうち補給艦が大多数を占めており、給油艦もしくは油槽艦を保有する国は少数である。詳細は「補給艦」を参照
外観

油槽船は平たい甲板上に多数のパイプが走っているため、輸送船の中では比較的分かりやすい姿をしている。安全確保のために機関室を油槽と離す必要があり、ほぼすべての船で船尾に機関室と船橋、居住区画が置かれる「アフトエンジン形式」になっている。
大きさによる分類

原油輸送を中心とする大型タンカーは大きさによっていくつかに分類される。
ULCC:Ultra Large Crude Oil Carrier - 30万重量トン以上

VLCC:Very Large Crude Oil Carrier - 20-30万重量トン 最大
喫水21m

スエズ・マックス:Suezu Max - 15万重量トン 最大喫水18m(→20.1m 2010年)

アフラ・マックス:AFRA Max - 約10万重量トン

パナマックス:Panamax Max - 5万?8万重量トン 最大幅32.2m

VLCCまでが中東日本間での原油輸送時にマラッカ海峡の最大喫水21mを通過できるため、日本への原油輸送の主力を担っている。これらの規格が定められた後、スエズ運河は2009年に浚渫作業が完了し、最大喫水20.1mまで通航可能となっている[1]
シングルハル(一重船殻構造)

2001年4月に開催された国際海事機関(IMO)内の海洋環境保護委員会で、MARPOL(海洋汚染防止)条約対象であるシングルハル・タンカー(船体全部が一重船殻構造:Single Hull)の使用を原則船齢25年で順次廃止し、最終使用期限も原則2015年に決定された。2002年9月1日発効。
カテゴリー1 2万重量トン以上で1981年以前のMARPOL条約対象建造船 - 2003年から2007年間に船齢順に廃止。

カテゴリー2 2万重量トン以上で1982-1996年MARPOL条約対象建造船 - 2003年以降船齢25年のタンカーから順次廃止。

カテゴリー3 5千重量トン以上2万重量トン未満のMARPOL条約対象外建造船 - 2003年以降船齢25年のタンカーから順次廃止。

例外事項

旗国の許可により、2017年まで使用可能。

MARPOL条約終結国は、2015年以降においてシングルハル・タンカーの入港を拒否できる権利を有する。

ダブルハル(二重船殻構造)

1989年アラスカ沖で発生したタンカー「エクソン・バルディーズ号」の座礁事故で、原油流出による大規模な環境汚染が発生したため、1992年よりIMO(国際海事機関)の取り決めで1993年7月以降に建造契約されるか、または1996年以降完成の積載重量600トン以上の新造油槽船については船体全部が二重船殻(ダブルハル:Double Hull)構造とし、既に建造済みの一重船殻(Single Hull)タンカーの廃船を促すなど、事故発生時の環境負荷リスクの低い油槽船への切り替えが義務付けられた。
ミッドデッキ構造

日本発の建造規格である。原油タンクを上下の2層にだけ分け、舷側だけを二重船殻構造にして船底は一重船殻構造のままである。上下のタンクを分ける中間デッキが喫水線より下にある点が重要で、これにより下のタンクの原油の圧力は常に周囲の水圧よりも低く保たれる為、衝突・座礁によって下部タンクの底に穴が開いても海水より比重の軽い原油はタンクの上方へ押しやられ、理論上は原油が漏れる事が無い。国際海事機関(IMO)海洋環境保護委員会でも、ダブルハル構造と共に1993年7月以降建造が認められている。構造上、ダブルハル・タンカーより舷側の二重構造幅を広く取れるため、舷側から来る衝撃で起こるタンクへの損傷度合いも、ダブルハル・タンカーより軽くできる。
隔壁

油槽内の油は流動性を持ち「復原性に対する自由水影響」を避けるために、多数の隔壁によって細かく仕切られている。
安全空間の確保

機関室は安全のため、タンクの後方に配置し、タンクとの間を空き部屋やポンプルーム、燃料油により隔離するように海上人命条約は求めている。また空荷で荒天の場合でもプロペラが水面上に出ないように原油タンク内への注水を避けるために、十分なバラストタンクの設置が国際条約で定められている。
荷役

油槽船への油の積荷は送油側の陸上よりポンプで送り込まれるが、揚荷の場合には油槽船側のポンプによって取り出される。パイプラインは2?3種類の油が混ざらないように分けて搭載できるようになっており、大量に送油できるメインのラインの1つと、残油を扱うストリップラインが1つある。メインのパイプラインから揚荷時に使用するポンプは蒸気タービンで駆動され、大きな油槽船では数台が設置されている。

大型油槽船での油の送受は万一火災が発生した場合、非常に危険であるため、陸から離れた海上のシーバース(Sea berth)で行なわれる。シーバースには大型ブイがあり、大型ブイは海底パイプラインによって地上設備とつながっている。大型油槽船と大型ブイの間はフローティング・ホースによって接続され荷役が行なわれる。また、シーバースの使用により狭い港での接岸の手間と危険や余計な浚渫工事も省かれる。
イナート・ガス装置

積荷の油が発火するのを防止するために、ボイラーからの排ガスからススや硫黄燃焼物、湿気を取り除いて油槽内に送る「イナート・ガス装置」によって、油槽内に不活性化ガス(イナート・ガス)を送り込む。可燃性ガスや空気の代わりにこの不活性化ガスが満たされた石油/原油タンクにたとえ火が入っても、酸素がないために燃焼や爆発は起きない。
バラストタンク

油槽船はその荷物の性質上、産油国から消費国へ石油類の一方通行の輸送を行なっている。常に片道は荷物を積まない状態で運航されている。そのような、油槽内に石油類が積まれず空荷の時には、巨大なタンクがすべて浮力を持つために、船体が異常に浮き上がり、船尾の舵やプロペラ、船首のバルバス・バウが水面上に出てしまう。これは推進効率の低下や、過回転による機関や軸受焼きつきの原因となるため、専用のバラストタンクに海水を注水して浮力の相殺を行なう。それだけでは十分でない古い船の場合には、石油のタンク、つまり油槽にも注水する。また、油槽は修理や検査の前には洗浄されねばならない。油槽を洗浄した後のバラスト水はクリーン・バラスト水であり、洗浄せずに油槽に入れたバラスト水はダーティ・バラスト水と呼ばれる。国際海事機関(IMO)では、船舶の移動に伴うバラスト水排出が環境への影響を防止する目的で、バラスト水管理条約が採択されている。
スロップタンク

油槽をバラストタンクとして使用した場合の上部の水やタンク内を洗浄した油濁液はスロップタンクに蓄えられて時間をかけて油と水に分離され、水は海へ排出される。スロップタンクは縦に長い形をして、油との分離をなるべく容易にしている。スロップタンクに残ったスロップの上に次回の積荷の油が入れられる。この方法は「ロード・オン・トップ」(Load on Top)またはROB(Retention Oil on Board)と呼ばれる。
バラスト水と環境問題

船体の浮沈を調節するために消費国の海でバラストタンクに積まれた海水は、産油国で石油類の積荷の前に海へと排出される。結果として消費国の海水が産油国の海へと運ばれる。これらの海水に含まれる水中生物が意図しない侵入者となる外来生物問題となっている。バラスト水を船内に取り込む時に網で生物を入れないようにすれば良いといった簡単な問題ではなく、海水にはエビやカニの幼生をはじめ微小な生物が多数含まれているため、目の粗いフィルターでは簡単には生物を排除できず、それらを除去できるような細かな目のフィルターは単位時間あたりの処理能力の問題から現実的ではない。現代では環境に配慮してバラスト水をできるだけ積まないようにしている。[2]
救命艇

油槽船やLPG船、LNG船で火災が発生した場合には大きな火炎となって周囲を焼き尽くす事態が考えられるため、これらのタンカーでは特別に設計された救命艇が装備されている。45度ほどに傾けて後部甲板等に用意された自由降下式救命艇に必要な避難乗員が搭乗して準備が整うと、斜めの角度で海面に向けて落下して着水し火災現場である本船から遠ざかる。この救命艇は全体が密閉式の耐熱カプセルになっており、屋根に散水して炎と熱から艇体を防護し、低速ながら自航して避難が可能となっている。火炎によって周囲の酸素が失われる場合に備えて、10分間程度ならば艇内に備え付けの酸素ボンベによって乗員の呼吸が可能になっている。[3]


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