タコ部屋(タコべや)は、日本の官僚が法案作成の都度設置し、一定期間、集中的に作業するための部屋。すなわち、法案準備室[1]、または立法準備室[2]、法制化準備室のことを指す霞が関で使われる用語である[3]。 法案の準備等のために設置される別室がタコ部屋と呼ばれる起源は、鉱山等において過酷な重労働に従事する労働者の人足部屋(飯場、寄宿舎)が「タコ部屋」と呼ばれていたことにある[4][5]。 形態は一様ではないが、法律の作成時や改正時、例えば省内の会議室が改装されて5人から6人体制のプロジェクトチームないしタスクフォースが詰める部屋になり、概して40歳前後のキャリア官僚が室長に就き[6]、30歳代キャリアが現場監督に就く[4]。 法案作成は霞が関の官僚にとって最大の仕事であり、机・椅子・冷蔵庫等が運び込まれたタコ部屋に朝から晩までこもり、半年以上かけて行われる過酷な作業である[4]。タコ部屋には毛布も準備され、タコ部屋に泊まり込んだ際にくるまって眠ったり、夏場は寝袋の枕にする[7]。このプロジェクトルームは生活空間として機能し、大量のカップラーメン、仮眠用のソファ、簡易ベッドも揃っている[8]。タコ部屋における最若年者の生活事例としては、朝9時30分頃にタコ部屋のソファで起床、午前に資料のまとめ、午後に関係省庁との調整、議事録作成、20時を回る頃から徹夜の修正作業の傍ら雑用をこなし、23時過ぎに自分が担当する条文の修正作業、翌1時に省内地下のシャワールームで気分転換したのち[* 1]、コンビニエンスストアでカップラーメンやチョコレートを購入してタコ部屋で休憩、3-4時頃に条文修正案が出揃ってからソファ・簡易ベッドで眠り、朝9時30分に起床、家に帰るのは週に1-2回、おおよそこのような生活が数か月続いた[8]。 栄養ドリンクのリポビタンDはタコ部屋への差し入れとしてポピュラーである[11]。幹部らからリポビタンDとカップラーメンが段ボールで届いたりもする[12]。慣習的に他の栄養ドリンクよりもリポビタンDが選定される[12]。 タコ部屋は省庁の中庭に設置されたプレハブの場合もある[5]。 日本国憲法下においては、三権分立制(立法権、行政権、司法権)により立法機関は国会であり、国会議員または衆参の委員会により発議され、制定される法律いわゆる議員立法もあるが、実際には、法案の多くは行政権を有する内閣から提出されたものであり、内閣提出の法案は官僚の主導により作成される。 内閣が提出する法案は、原案の作成に始まり、内閣法制局の審査、閣議決定、国会審議を経て成立し、公布される[13]。これらのプロセスがタコ部屋を拠点に進行する。これだけの過酷な工程を経ても、法案が廃案になることも珍しくない。 『霞ヶ関の掟 官僚の舞台裏』(日本文芸社、2003年)の著者で元・農水官僚の林雄介が挙げる事例によると、タコ部屋の責任者となる室長[6] を務める者は40歳前後・調査官クラスのキャリア、タコ部屋の現場監督は30歳代・総括課長補佐クラスのキャリア事務官、それらの者に加え、担当課の課長補佐1名、若手キャリア事務官1名、担当課職員数名がチームとなり、課長補佐を中心に法律の原案作りが進められ、若手が下働きと雑用を務める[4]。 法案作成という花形の仕事に取り組むタコ部屋に結集するタコ部屋要員は非常に優秀な職員が選ばれる[14]。法案作成は役人人生において数回程度の経験をするか、全く経験をしない者も少なからずいる[15]。
概要
法案作成
要員
Size:90 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
担当:undef