タキオン
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タキオン
Tachyon
タキオンは常に光よりも速く移動するので、それが近づいてくるのを見ることはできない。タキオンが近くを通過した後、観察者はそのタキオンの2つの像を見ることができ、それらは反対方向に現れて去っていく。この二重像効果は、超光速物体(この例では球体、透明な灰色で示されている)の通り道に直接位置する観測者にとって最も顕著なものである。タキオンは光よりも先に到着するため、球体が通過するまで観測者には何も見えず、その後(観測者の視点では)、到着する球体(右)と出発する球体(左)の2つに分かれて見える。
分類素粒子
ステータス仮説
理論化ジェラルド・ファインバーグ(1967年)
質量虚数
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タキオン(tachyon ([?taki?n]))またはタキオン粒子(tachyonic particle)とは、常に光速よりも速く移動する仮想的な粒子である[1]。ほとんどの物理学者は、光よりも速い粒子は既知の物理法則と一致しないため存在しないと考えている[2][3]。仮にそのような粒子が存在し、光よりも速い信号を送ることができたとすると、相対性理論によれば因果律に反することになり、親殺しのパラドックスのようなタイプの論理的パラドックスが生じることになる[3]。このような粒子が存在することを示す実験的証拠は見つかっていない。

「タキオン」という言葉を生み出した1967年の論文で、ジェラルド・ファインバーグは、虚数質量を持つ量子場の励起からタキオンが作られると提案した[4]。しかし、このモデルでは実際には超光速を実現できないことがすぐにわかった[5]。現代の物理学では、「タキオン」という言葉は、超光速の粒子ではなく、「虚数の質量を持つ場」を指すことが多い[2][6]。このような場(タキオン場(英語版))は、現代物理学において重要な役割を果たすようになっている。

タキオンの語源は、ギリシャ語で「速い」を意味するギリシア語: ταχ?(tachy)である。近い文脈で使われる語として、常に光速で運動する粒子の総称であるルクソン、常に光より遅く運動する粒子にはブラディオンという呼称がある。

SF作品中で超光速通信の手段として用いられたり、疑似科学の世界でタキオングッズとして「製品化」されたりしている。
歴史

タキオンという言葉は、アメリカの物理学者ジェラルド・ファインバーグ1967年に発表した論文Possibility of Faster-Than-Light Particles(超光速微粒子の可能性)において提唱されたものである[4]。これは、ジェイムズ・ブリッシュのSF小説Beepに触発されたものである[7]。ファインバーグは、特殊相対性理論に基づいて、このような粒子の運動学を研究した。また、論文の中で、虚数の質量を持つ場(現在はタキオン場と呼ばれている)を導入し、そのような粒子が持つ微視的な起源を理解しようとした。

超光速粒子に関する最初の仮説は、1904年ドイツの物理学者アルノルト・ゾンマーフェルトが「メタ粒子」と名付けたものが最初とされている[8]。その後、ジョージ・スダルシャン[9]、Olexa-Myron Bilaniuk[10]、Vijay Deshpande[10]らの研究によって、その理論的枠組みが発展した。

2011年9月、CERNタウニュートリノが超光速で移動したと発表したが、その後の調査で、これは実験で使用した光ファイバのタイミングシステムの不具合により、超光速で移動したように観測されただけであることが判明した[11]
性質

タキオンは超光速で運動する。特殊相対性理論では、タキオンは空間的な (space-like) 四元運動量および虚数固有時を持つ粒子である。タキオンはエネルギー?運動量グラフの空間的な領域に制限され、光速以下の速度で運動することができない。

タキオンに対して、静止質量0で真空中を光速で運動する粒子をルクソン[12]、正の実数の静止質量を持ち(マッシヴであり)どんなに加速しても真空中の光速には達しない粒子をターディオンと呼ぶ[12]。これらの語は、タキオンを議論する文脈においてのみ、タキオンとの対比として用いられる。

特殊相対性理論によれば、通常の物質(ターディオン)はどんなに加速しても光速に達することはない[12]。それに対し、特殊相対性理論に反しないように仮定された超光速粒子であるタキオンは、以下のようなターディオンとは正反対の性質を持つ。

ターディオンはどんなに加速しても光速に達することはないが、タキオンはどんなに減速しても常に超光速であり光速以下になることはない。また、ターディオンがエネルギーを与えれば与えるほど加速していくのに対して、タキオンはエネルギーを失えば失うほど加速していく。

タキオンのエネルギー運動量は、測定可能な物理量なので実数であることが期待されるが、上の性質を持つならば、その静止質量および固有時虚数となる。

ターディオンとタキオンが干渉するような現象については、特殊相対性理論の原理である「いかなる慣性系でも物理現象が同じになる」という前提が崩れてしまうため、特殊相対性理論ではタキオンの性質を記述することはできない。もしタキオンが光速より速い信号を送るために使われてきた従来の局所化可能な粒子であるなら、これは特殊相対論因果律の破れを導く。しかし場の量子論の枠組みでは、タキオンは現実の超光速粒子としてよりも、むしろ、系の不安定性を意味するものとして理解され、タキオン凝縮を用いて扱われる。そして、そのような不安定性はタキオン場によって記述される。タキオン場は、ボゾン弦理論のような様々な理論内に現れる。現在の広く受け入れられている粒子の概念によると、タキオン粒子は実在するものとして扱うには不安定すぎる[13]。そのため、タキオンによる超光速通信や因果律の破れは場の量子論の枠組みにおいては不可能である。
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この節は言葉を濁した曖昧な記述になっています。Wikipedia:言葉を濁さないおよびWikipedia:避けたい言葉を参考に修正してください。(2017年3月)

タキオン粒子の実在性には様々な議論があるが、その実在に関する仮説を検証するために実験による探索が行われてきた。

タキオンは超光速で動くため、チェレンコフ放射によってその存在が確認できるのではないかと考えられ、様々な人が何度も検出を試みたが、依然成功していない。タキオンが存在し、ターディオンと作用を及ぼし合うなら、因果律が破られるか、あるいは、因果関係が観測者によって異なってしまう。そのため、ターディオンとは干渉せず、存在したとしても発見は不可能ではないかとも考えられている。またタキオンは計算上は理論に反しなくても、最低エネルギー状態が無限速であるなどの面から不安定解であるため、素粒子論においてはタキオンを含むような素粒子表を導出する理論は誤りであると見なされている。

1974年3月8日に、ロンドン発の外電が「オーストラリアの物理学者によって、タキオンの存在を示唆する実験結果が検出された」と報じたが、これは間違いであったと考えられている。


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