タイタンの生命
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複数の波長で写したタイタン

タイタンの生命(タイタンのせいめい)では、土星最大の衛星タイタンにおける生命について記述する。

タイタンに生命が存在するかは、未だ答えの出ていない問であり、科学的な評価や研究の課題である。タイタンは地球と比べて届く太陽光線も弱く、また余りに冷た過ぎ、その地表では液体は存在することすらできず、多くの科学者は生命が存在することなどありえないと考えている。一方で、タイタンは分厚い大気を持ち、その大気は化学的に活発で、炭素化合物にも富んでいる。地表には液体メタンエタンを作っており、これが地球の生命における水の代わりになるのではないかと推測する科学者もいる。

2010年6月には、カッシーニ探査機が観測した地表近くの大気のデータから、メタンを生成する生命が存在する可能性が示された。しかし、これは非生命由来の化学プロセスや気象現象により引き起こされたものかもしれない[1]。 カッシーニもホイヘンス・プローブも、微生物や、生命が生成する複雑な有機化合物を直接観測する装置は搭載していない。

液体メタン下において機能する仮説上の細胞膜はモデル化されている[2]
化学

タイタンにおける前生物化学や地球とは異なる生命の可能性を研究するためには、その環境について深く学ぶ必要がある。タイタンの大気は大気上層部で発生する光化学反応により、多様な組成を持っている。以下がカッシーニによる質量分析法での観測により上層大気から発見された物質である(出典別の数値を併記)。種類Magee, 1050 kmCui, 1050 kmCui, 1077 kmWaite et al., 1000?1045 km
密度 (cm?3)(3.18±0.71) x 109(4.84±0.01) x 109(2.27±0.01) x 109(3.19, 7.66) x 109
窒素(96.3±0.44)%(97.8±0.2)%(97.4±0.5)%(95.5, 97.5)%
窒素 (14N15N)(1.08±0.06)%
メタン(2.17±0.44)%(1.78±0.01)%(2.20±0.01)%(1.32, 2.42)%
メタン (13CH4)(2.52±0.46) x 10?4
水素(3.38±0.23) x 10?3(3.72±0.01) x 10?3(3.90±0.01) x 10?3
アセチレン(3.42±0.14) x 10?4(1.68±0.01) x 10?4(1.57±0.01) x 10?4(1.02, 3.20) x 10?4
エチレン(3.91±0.23) x 10?4(5.04±0.04) x 10?4(4.62±0.04) x 10?4(0.72, 1.02) x 10?3
エタン(4.57±0.74) x 10?5(4.05±0.19) x 10?5(2.68±0.19) x 10?5(0.78, 1.50) x 10?5
シアン化水素(2.44±0.10) x 10?4
アルゴン (40Ar)(1.26±0.05) x 10?5(1.25±0.02) x 10?5(1.10±0.03) x 10?5
プロピン(9.20±0.46) x 10?6(9.02±0.22) x 10?6(6.31±0.24) x 10?6(0.55, 1.31) x 10?5
プロピレン(2.33±0.18) x 10?6(0.69, 3.59) x 10?4
プロパン(2.87±0.26) x 10?6<1.84 x 10?6<2.16e-6(3.90±0.01) x 10?6
ジアセチレン(5.55±0.25) x 10?6(4.92±0.10) x 10?6(2.46±0.10) x 10?6(1.90, 6.55) x 10?6
ジシアン(2.14±0.12) x 10?6(1.70±0.07) x 10?6(1.45±0.09) x 10?6(1.74, 6.07) x 10?6
シアノアセチレン(1.54±0.09) x 10?6(1.43±0.06) x 10?6<8.27 x 10?7
アクリロニトリル(4.39±0.51) x 10?7<4.00 x 10?7<5.71 x 10?7
プロパンニトリル(2.87±0.49) x 10?7
ベンゼン(2.50±0.12) x 10?6(2.42±0.05) x 10?6(3.90±0.01) x 10?7(5.5, 7.5) x 10?3
トルエン(2.51±0.95) x 10?8<8.73 x 10?8(3.90±0.01) x 10?7(0.83, 5.60) x 10?6

質量分析法は化合物の原子質量を識別するもので、その構造は判別できない。厳密な化合物の特定には追加の研究が必要となる。文献の中の識別された化合物は、上の名称に置き換えられている。Magee (2009) では高い気圧に注意した分析がなされている。その他の化合物としては、低濃度ながらアンモニアポリインアミンアジリジン重水素化水素アレンブタジエンに、その他より複雑な化学物質が存在すると信じられている。また、二酸化炭素や量は限られるものの水蒸気も存在するはずである[3][4][5]
表面温度

太陽からの距離が遠いため、タイタンは地球より遥かに冷たい環境である。その表面温度は約90K(約?183 °C)に留まる。この温度では、はもし存在したとしても、決して融けることも昇華することもなく、固体のままである。極端な寒さと大気中の二酸化炭素 (CO2) の欠如から、ジョナサン・ルニーン(英語版)といった科学者は、タイタンには地球で確認されているような生命が存在することはないだろうとみている[6]。 ただし、タイタンの通常の地表に液体の水が存在することは不可能であるが、ルニーンらは隕石の衝突により、一時的に液体の水を湛えた「衝突オアシス」となるクレーターが形成されることはありえると考えており、そうしたオアシスが数百年かそれ以上にわたって存続できれば、水による有機化学の基盤となることは可能である[7][8][9]

また、ルニーンは液体メタンエタン環境における生命の可能性を除外しておらず、そうした生命(もしとても単純なものであっても)が発見されれば、それは宇宙にはそのような生命が満ち溢れていることに繋がると記している[10]
温度に関する過去の仮説赤外線で写したタイタン(2015年11月)。

1970年代、天文学者はタイタンからの予想外の高レベルの赤外線放射を発見した。[11] 一つの可能性として、タイタンの地表が温室効果により想定よりも温かいことが考えられた。この見積もりでは、タイタンの表面温度は地球の寒い地域並である必要があった。しかし、別の可能性として、タイタンの表面温度は極めて寒いものの、上層大気ではエタンやエチレンアセチレンといった分子が紫外線を吸収して温められていることが考えられた[11]

1979年9月、パイオニア11号は探査機として初めて土星とその衛星をフライバイ観測した。その際に送られたタイタン地表のデータにより、その表面温度は地球の平均と比べてあまりに寒過ぎる数値であり、惑星の居住可能性という観点で考えても低すぎる数値であることが判明した[12]
遠い未来における温度

タイタンは遥かな未来において、より温暖な星となるかもしれない[13]。 50億年から60億年後の遠い未来において、太陽は巨大な赤色巨星となるが、その頃のタイタンは表面温度が200 K (?70 °C) 程度まで上昇し、その表面にアンモニア水が安定して存在できる環境となる可能性がある。太陽からの紫外線も減少し、タイタン上層大気を覆う靄も薄まり、反温室効果が減少して、大気中のメタンによる温室効果が有効になる。この環境は、地球外生命を生み出すのに十分な条件であり、さらにこの状態は数億年は持続するとみられる[13]。 これは地球で単純な生命が誕生した時間を考えると十分な長さである。一方で、アンモニア環境下における化学反応の速度は、水中における同反応と比べてより遅くなる[13]
地表の液体の水の欠如

タイタン表面の液体の欠如を理由として、NASA宇宙生物学者Andrew Pohorilleは生命の可能性について反論を述べている。


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