タイセイヨウセミクジラ
タイセイヨウセミクジラ Eubalaena glacialis
保全状況評価[1][2][3]
CRITICALLY ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
ワシントン条約附属書I
分類
タイセイヨウセミクジラ (大西洋背美鯨、Eubalaena glacialis) は、哺乳綱偶蹄目[注 2]セミクジラ科セミクジラ属に分類されるヒゲクジラである。
1930年代から保護対象になっているが、混獲や船舶との衝突を中心とした数々の脅威に直面しており、一時期は500頭前後まで個体数が増加したが、2021年の段階で350頭前後にまで減少したと考えられており[5][6]、2030年代には生息数が回復不能な段階になる可能性も指摘されている[7]。 セミクジラとミナミセミクジラに特に近縁であり、ホッキョククジラとも比較的に近縁である。 セミクジラとは共に北半球に生息するが、ミナミセミクジラとの近縁性がより強い[8]。 体長は13-18.5メートル、体重は最大で90-106トンに達する[9]。しかし、主に人間による影響に起因して健康状態の悪化に伴い、小型化と繁殖率の低下が報告されている[10]。 全体的にずんぐりとした姿をしており、胴体に対して頭部が大きく、体長の4分の1ほどにもなる。背びれや腹の溝(畝)はない。 下あごは大きく口は湾曲してアーチ型を描いている。ヒゲクジラ類の普遍的な特徴として、噴気孔は2つある。 若い頃は青みがかった色をしているが、徐々に全身が黒っぽくなる。また、あごや腹部に不定形の白斑がある。 頭部の付近には、皮膚が硬くこぶ状になった「カラシティ
分類
形態本種の「カラシティ(ケロシティ)」は、他のセミクジラ属とは異なり、頭頂部から吻先まで一体化している事例が少なくない。
セミクジラ科の特徴として、ヒゲクジラの中でも非常に長いクジラヒゲを有する。
生態採餌の光景。通称「SAG[注 4]」と呼ばれる繁殖行動(モリア・ブラウン)。
クジラヒゲでカイアシ類やオキアミなどの動物プランクトンを濾しとって食べる濾過摂食者である。ヒゲが長大なことから、ナガスクジラ科と異なり、魚類などはあまり食べないと考えられる。
単体もしくは2 - 3頭程度の小さな集団で回遊する。泳ぎは遅い。
V字型の潮吹き(ブロー)が特徴である。
海面に躍り上がるようにジャンプするブリーチング、ヘッドスラップ、スパイホップ、テイルスラップ、ペックスラップなどの活発な海面行動(英語版)を行なう。
妊娠期間は12 - 14か月で、冬に出産する。
セミクジラ科は概して好奇心が強くて穏やかであり、「地球上で最も優しい生物」と称される事もある[12]。ハーマン・メルヴィルは『白鯨』において「人間によって初めて定期的に捕らえられるようになった海の最も尊敬される生き物」と表現している[7]。
北太平洋のセミクジラと異なり、本種やミナミセミクジラに関しては「歌」が記録されたことはない[13]。
ファンディ湾等における観察では、本種は他のヒゲクジラ類や魚類[注 5]とは餌の競合関係にあるが観察上では問題なく共存しており[14][15]、ザトウクジラやナガスクジラやタイセイヨウカマイルカ等と交流したり[16][17]、ホッキョククジラおよびイワシクジラと餌場を共有する光景や[14]、ホッキョククジラがセミクジラの繁殖行動に参加している場面も観察されている[18]。
分布タイセイヨウカマイルカと交流する個体。