ソフトウェア特許
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ソフトウェア特許(ソフトウェアとっきょ)とは、コンピュータを利用する発明に関する特許である。

1990年代終わり頃からコンピュータ利用発明に関する特許出願が急増したが、これらの発明は従来の特許制度では取り扱うことが困難な問題を含んでいた。このため、各国特許庁では制度や運用の整備を行ってきたが、依然として、ソフトウェア特許を認めるべきか、認める場合にはどの範囲まで認めるべきかということが問題となっている。

本項では、ソフトウェア特許のうち、その概要と現在の制度・運用等について述べる。ソフトウェア特許が抱える問題の詳細については、「ソフトウェア特許論争」参照。
定義

欧州特許庁は、ソフトウェア特許に関連して、「コンピュータ利用発明("computer-implemented invention")」という用語を用いており、その審査基準において、「コンピュータ、コンピュータネットワーク若しくはその他のプログラム可能な従来装置を含むクレームであって、クレームされた発明中の一見して新規な発明が、1つ又は複数のプログラムによって実現されるものを含む発明」( ⇒特許庁訳)と定義している。

発明の記載としては、例えば、「従来装置の操作方法」、「その方法を実行するために設定された装置」、あるいは、審決 T1173/97(OJ 10/1999,609)に従い、プログラムそれ自体などの形態をとることができる。

また、イギリスの無料オンライン・コンピュータ関連事典FOLDOCは、一般的なソフトウェア特許の定義を「他者からプログラミング技術を使われることを防止する事ができる特許」としている。
歴史

初めて認可された特許はおそらく、1962年英国石油によって申請された、線形計画法の解法に関する特許であろう。この特許は、低速な記憶装置と高速な記憶装置を用いて、反復法によって線形計画法を解くようにプログラムされたコンピュータの特許である。これは、多数の制約条件を有する最適化問題を連立一次方程式によって解く方法であったが、この時代には、コンピュータを使うことが、直接「機械」を用いることを意味していたため、産業上の利用可能性を充足すると捉えられていたものである。

このように、かつては、ソフトウェアはハードウェアに極めて近い機械語・低級言語であったことから、ソフトウェアはある意味、具体的で生々しいものであり、ハードウェア等の技術的な構成と密接に関連していたものであった。しかしながら、コンピュータのソフトウェアは、ハードウェアから離れ、徐々に抽象化・概念化が進み、ソフトウェアが必ずしも従来のストアードプログラム方式に基づいて動作することを直接的に意味するものではなくなりつつある。
各国における動向
米国における動向

複雑なソフトウェアを起動できる処理能力が高いコンピュータは、1950年代以降に出現され始めた。しかしながら、アメリカ合衆国特許商標庁(USPTO)においては、特許法 (35.USC) 第101条に、特許される発明として「新規かつ有用な方法、機械、製品若しくは組成物、又はそれらについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は、本法の定める条件及び要件に従って、それに対して特許を受けることができる。」旨の規定があるように、特許を受けることができる発明を、方法 (process)、機械 (machine)、製品 (manufacture)、組成物 (compositions of matter) の4つのカテゴリーに限定してきた。このため、ソフトウェア自体は発明の成立性を満たすものとは考えられてこなかった。

たとえば、ディアディア事件 (Diamond v. Diehr, 450 U.S.175,209 USPQ 1(1981)) の判例でも、自然法則 (law of nature)、物理現象 (physical phenomena)、抽象的アイデア (abstract idea) 等については、いずれも特許対象に含まれないものとされ、「科学的事実」や「数式」についても特許が与えられないことは、その他判例法上も確立した見方であった。これは、従来において、ソフトウェア工学の基本的な技術の大部分が特許可能性を有してこなかったことを意味している。

1982年、プロパテント政策下で、アメリカ合衆国は特許訴訟の控訴審のために、新たに連邦巡回区控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)を設立した。この裁判所では、証拠不十分な弁護の適用可能性を弱め、無効であると証明されない限り、特許が有効なものであったと推定することで、特許権の有効性の確認を容易に行わせるようにした。それによって、1990年代初めまでに、ソフトウェアの特許性が徐々に確立されていくことになった。1996年、USPTOは ⇒Final Computer Related Examination Patent Guidelinesを出している。

また、インターネットと電子商取引の拡大は、多くのソフトウェアやビジネス方法に関する発明(ビジネスモデル特許)の出願を増大させ、一般的に特許にならないと信じられていた対象に特許が認められることになった。そして、1998年には、大きな影響を及ぼす判決が出された。連邦巡回裁判所のステートストリートバンク事件控訴審判決において、従来のビジネス方法の適用除外を否定し、「有用かつ具体的な有形のアプリケーションである場合、ソフトウェアに基づくシステムによって実施されるビジネス方法プロセスは特許可能である」旨の判示がなされた影響は大きかった。

続いてAT&T事件控訴審判決において、従来の数学的アルゴリズムの適用除外を否定し、通信ビジネスにおけるシステム特許の事例においても、同様に特許成立性が認められた。これによって、ビジネス手法をソフトウェアによってシステム化した発明であっても、三つの要件、有用性 (useful)、具体性 (concrete)、明確性 (tangible) を満たしていれば、特許成立性を満たすことが明確化された。

(ステートストリートバンク事件控訴審判決 (State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc., 149 F.3d 1368, 1374-75, 47 USPQ2d 1602 (Fed. Cir. 1998).) 、AT&T事件控訴審判決 (AT&T Corp. v. Excel Communications, Inc., 172 F.3d 1352, 50 USPQ2d 1447,1452 (Fed. Cir. 1999).) )。

しかしながら、ワンクリック特許をはじめ、多くのソフトウェア特許には、産業界や世論の厳しい意見が投げかけられている。これを受けて、米国の特許庁では審査を厳しくする運用がなされ、現在ではビジネス方法に関するソフトウェア特許の特許率は10%程度にまで減ってきている。また、マイクロソフト社も、ソフトウェアの特許権は、不必要な法廷紛争を増やし、多くのコストの原因であることから、ソフトウェア産業界の損失を増やす原因であるとコメントしている。
欧州における動向

一方で、欧州特許条約 (EPC) 第52条第2項においては、「次のものは、…発明とはみなされない。(a) 発見、科学の理論及び数学的方法、…(c) 精神的な行為、遊戯又は事業活動の遂行に関する計画、法則又は方法、並びにコンピュータ・プログラム」と規定があることから、ヨーロッパ特許庁においては、従来よりビジネスに関連するソフトウェアは、特許の対象から除外されていた。この点では、明確に「コンピュータのためのプログラム」は除外されていた。

しかしながら、1998年、欧州特許庁審判部において、IBM審決 (T 1173/97 - 3.5.1 ,1998.07.01, Asynchronous resynchronization of a commit procedure) により、技術的性質を有するコンピュータのシステム自体には、特許可能性があることが結論づけられた。これによって、審査実務において、ヨーロッパ特許庁は多くのソフトウェア特許を認めることとなった。(なお、欧州特許庁では、出願された発明は3人合議体で厳密に技術性の評価がなされ、発明に該当しないと判断されると、第45規則に基づいて、サーチをしない旨の宣言(No Search Declaration)がなされる。)

このように、ソフトウェアに一定の技術的性質や技術的寄与があれば、特許になることが結論付けられたこと、また、現行条文の表現が紛らわしいとして、現在では、欧州特許条約 (EPC) 第52条第2-3項を改正し、ソフトウェアを非特許要件から外す旨の改正がすすめられているが、ソフトウェア特許に対する世論の意見は厳しく、欧州委員会が2002年2月に公表した「コンピュータ利用発明の特許性に関する指令」案も3年に渡る議論の末に2005年7月に欧州議会より否決された。
日本における動向

現在、日本国特許法第2条では、『「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう』と定義されており、純粋な計算の方法や、純粋なアルゴリズムが特許になることはないとされている。


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