『セミラーミデ』(Semiramide)は、ロッシーニがヴォルテールの悲劇『セミラミス』を基に、1823年に作曲したオペラ・セリアで、ロッシーニのイタリア時代最後の作品。同年2月3日、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演された。台本はガエターノ・ロッシによる。
同じくセミラミスを題材としたオペラにはピエトロ・メタスタジオがリブレットを書いた『許されたセミラーミデ』 (Semiramide riconosciuta) があり、レオナルド・ヴィンチが1729年に作曲したものをはじめとして多数の作曲家が曲をつけている。ヘンデルが1733年の初演したものは大部分ヴィンチの音楽により、ヨハン・アドルフ・ハッセ作曲の有名なメロディーをいくつか利用したパスティッチョ(混成作品)にすぎず、ヘンデルはレチタティーヴォに曲をつけたにすぎない。こちらはエジプト王女セラスミスが男装し、自分の息子のニーノの名でアッシリアの王位につくという設定である。 ナポリ時代に『オテロ』『湖上の美人』『アルミーダ』『マホメット2世』などのオペラ・セリアを書き上げ、その後1822年に初めてウィーンに滞在したときにベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』を聴くなどし、ベートーヴェン本人にも面会した。その際ベートーヴェンから「君はオペラ・ブッファを書いたほうがいいよ。」という忠告を受けたとされ、この忠告に発奮したためか、1823年のヴェネツィアでの初演のために書かれた『セミラミーデ』にはドイツ音楽の影響を受けて、重厚かつ色彩豊かな管弦楽法が適用されている。そのためスタンダールは「ドイツ風の騒々しい音楽」と言ったとされる。作曲は1822年10月ごろに着手し、1823年完成した。 ナポリ時代の『マホメット2世』は、序曲を廃してアリアよりもアンサンブルや重唱を中心に、物語の進行に合わせて劇的な音楽で、かつフレキシビリティーな構成を究極までに突き進めたが、初演時に不評を買っていた。本作は形式の上では、ナポリの聴衆よりも保守的なヴェネツィアの聴衆の好みに合わせ、序曲を復活させてアリアや重唱を中心にバランスをとった形となっている。しかし実際は、合唱を物語の進行上、民衆の声を表す「コロス」として積極的かつ効果的に使い、物語の進行に合わせてナポリ時代に培った作曲技法をふんだんに盛り込んだ、起伏に富んだ音楽となっている。そして有名な序曲もロッシーニとしては珍しく、劇中の音楽をテーマに盛り込む形で、オペラ本体との一体感を保つものとなっている。 序曲中の音楽に採り入れられているテーマは以下の通りである。 さらに付け加えるならば、ロッシーニの『セミラーミデ』に対する力の入れようは、普通ならば1ヶ月前後で新曲を完成させるところを、初演の4ヶ月前の1822年10月上旬から作曲に取りかかったことからもうかがい知ることができる。 保守的なヴェネツィアの聴衆の好みにあわせて、さらに母殺しの悲惨な結末を和らげるために、劇の最後を唐突に新王誕生の祝典的な合唱(アレグロ・ニ長調・4分の4拍子)で終わらせている点については、これを非難する論者も多い。しかし、他方で同時代に上演された『魔弾の射手』や『フィデリオ』も最後では取ってつけたようなハッピーエンドで終わらせていることを考えると、この批判は時代背景を無視したものだという論者もいる。 『セミラーミデ』は歌唱技術の難しさから、20世紀前半には上演されなかった。この作品の20世紀初演は1962年にスカラ座(ミラノ)で行われた(セミラーミデ:ジョーン・サザーランド、アルサーチェ:ジュリエッタ・シミオナート他)。しかし、このときに使われたのはリピート部分などが削除された縮小版だったため、本格的な全曲演奏が行われたのは1990年12月、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場においてであった(セミラーミデ:ジューン・アンダーソン、アルサーチェ:マリリン・ホーン、アッスール:サミュエル・レイミー 2幕9場からなる。
作曲の経緯
作品の特徴
序奏(アレグロ・ヴィヴァーチェ?アンダンティーノ・ニ長調・8分の6拍子)…第1幕第3場・セミラーミデに忠誠を誓う四重唱(原曲:アンダンティーノ・変ホ長調・8分の6拍子)
主部(アレグロ・ニ長調・4分の4拍子)展開部なしのソナタ形式
第1主題…第2幕第6場・冒頭の祭司達の合唱(原曲:アンダンテ・ニ長調・4分の3拍子)
第1クレッシェンド…第2幕第2場アルサーチェのアリア「このむごい災いの一瞬に」のカバレッタ(原曲:アレグロ・ヴィヴァーチェ・変ホ長調・4分の2拍子)
第2クレッシェンド…第1幕第2場セミラミーデとアルサーチェの二重唱「その忠誠を永遠に」のカバレッタ(原曲:アレグロ・ジュスト・変ホ長調・4分の4拍子)
構成
第1幕
第1場…バール神殿内の大広間
第2場…空中庭園
第3場…ニーノ王の霊廟前の大広間
第2幕
第1場…セミラーミデの居間
第2場…バール神の神殿内
第3場…セミラーミデの部屋の前
第4場…セミラーミデの部屋
第5場…ニーノ王の霊廟入り口
第6場…ニーノ王の霊廟の中
編成
登場人物
セミラーミデ(バビロンの女王、故ニーノ王の妃)…ソプラノ
アルサーチェ(スキタイ人でアッシリアの士官)…コントラルトまたはメゾソプラノ
アッスール(バール神の末裔の王子)…バス
イドレーノ(インドの王子)…テノール
オローエ(バール神の大祭司長)…バス
アゼーマ(バール神の末裔の王女)…ソプラノ
ニーノ王の亡霊…バス
ミトラーネ(親衛隊長)…テノール
管弦楽
フルート 2(ピッコロ持ち替え)
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 4
トランペット 2
トロンボーン 3
ティンパニ
大太鼓
シンバル
小太鼓
トライアングル
タムタム
弦五部
第1ヴァイオリン
第2ヴァイオリン
ヴィオラ
チェロ
コントラバス
混声合唱
舞台上のバンダ(軍楽隊)
ピッコロ
クラリネット 3
ファゴット 2
ホルン 4
トランペット 5
トロンボーン 2
セルパン
コントラファゴット
オフィクレイド
大太鼓