スーパー耐久
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2012年鈴鹿300km

スーパー耐久(スーパーたいきゅう)は、日本国内で行われる自動車レースの1カテゴリ。市販の四輪車両に改造を施したマシンで勝敗が争われる。
概要ST-Xクラスのスリーボンド日産自動車大学校GT-RST-3クラスのペトロナスTWS GS350

スーパー耐久は、市販車を改造した車両によって行われるツーリングカーレースである。類似のカテゴリにSUPER GTがあるが、SUPER GTでは外観デザイン以外市販車両に一切由来しない純レーシングカーや「魔改造」と呼べるマシンが多く走っているのに対し、スーパー耐久のクラスの多くは市販の量産自動車に対し小規模の改造を施したマシンとなる。ただし近年はスーパー耐久でもグループGT3TCRのように、メーカーが市販車から大規模に改造して公認を受けたレーシングカーも参戦できる様になっている。

SUPER GTに比べると、個人規模のプライベーターチームが数多く参戦しているのが特徴。自動車メーカー系(ワークス・チーム)が参戦する場合もあるが、その場合は勝つことより人材育成や車両開発が目的である場合が多い。また車両クラスが多く車種のバラエティに富む事から、「偉大なる草レース」の別名[1]で知られ、「S耐」(えすたい)の略称、愛称でも親しまれている。

車両規定は日本自動車連盟(JAF)の定めるJAF-N1を基本とし、ベースとなる車両はFIA/JAFグループNまたはAとして公認されているか、JAF登録車両またはSTOが認めた車両として登録されていなければならない。市販エアロパーツやレース用ブレーキの装着を認めている[2]ことなどから、現状ではJAF-N1には合致せず、JAF-NE(定義されない車両)として独自の車両規定で開催されている[3]

ST2?ST5クラスの改造範囲は狭く、市販車に近い状態を強いられる。例えば

エンジンの改造範囲は極端に狭く、基本的に純正が維持される。市販車両に対しエンジン型式や排気量の変更は禁止されている。

エアクリーナーボックスからエンジンまでの吸気パーツ、およびエンジン直後のエキゾーストマニホールドは、純正品に最低限の加工を行ったものしか使用できず、スロットル径の変更なども認められていない。

サスペンションは、ダンパースプリングスタビライザー及びブッシュ類の変更のみ。市販車両に対し異なるサスペンション形式への改造や、純正品以外のアーム類への変更は禁止されている。

車体の加工は、安全装置やレースに不可欠な装置(無線機器など)を取り付けるためにやむを得ない、最低限の加工以外は全て禁止されている。

外装パーツの変更は、空力パーツの装着が認められているが、市販品(一般消費者が普通に購入できるもの)に限られ、特注品や「著しく高価なもの」は禁止されている。

など、様々な面で市販車の性能を大きく逸脱しないようになっている。安全上の理由から装着するロールケージについては、安全性向上と車体剛性アップのため溶接止めされるほか、車体自体も溶接によるスポット増しを行う。また、安全面の観点から車体の補強は一定範囲で認められている。

レース形式は、500kmまたは規定時間(通常3-4時間だが、2018年には10年ぶりに24時間レースも開催[4])内の周回数による耐久レースとなっており、2-3名(24時間レースのみ最大6名まで)のドライバーによる走行と、最低2回のピットストップを行わなければならない。500kmレースの場合、レース時間は3-4時間にも及び、F1フォーミュラ・ニッポンのレース時間が通常2時間以下、SUPER GTでも2-3時間程度であることと比べても、スーパー耐久の戦いは長時間に及ぶこととなる。

スーパー耐久を象徴するもう一つの特徴として、F1など他のモータースポーツで頻繁に見られる、いわゆる「ピットストップでの人海戦術」が使えないという点が挙げられる。例えば「タイヤ交換は2名、その他の作業は4名までしか携われない」という規定があり、これは、ワークスチームとプライベーターチームとの格差を無くし、「どのチームも対等かつ互角の条件で戦う」ための措置として設けられたものである。
沿革ペトロナス・シンティアム・メルセデスSLS AMG GT3

1985年にスタートした筑波サーキットの「ナイター耐久レース」がルーツとされており[5]1990年に発足した「N1耐久シリーズ」が直接の前身となる。N1耐久シリーズ当時は、FIAの定めるグループN規定に準拠したJAF制定「N1」規定に属する車で争うシリーズとして開催されており、参加するドライバーもアマチュアとプロの中間レベルのドライバーがメインだった。しかし、1994年全日本ツーリングカー選手権がグループA車両による耐久レース(JTC)からTouring car ClassII(2,000cc 自然吸気エンジンの4ドア車両 後にグループSTに改名)車両によるスプリントレース(JTCC)に移行した以降、JTCに参戦していたトップドライバーやチームがN1耐久に参戦するようになり、レースのレベルが大きく上昇し始めた。

1995年に、耐久レースという過酷な状況に多くの市販車が対応できるよう、ウィークポイントをカバーする改造(オイルクーラーの追加等)を認めたことから「N1を超えるN1」という意味でシリーズの名称を「スーパーN1耐久」と改称。

1998年に「市場の活力をレースに取り込もう」という発想から、市販エアロパーツの装着を可能にする等、自動車アフターマーケットとの連動を主眼とするレギュレーション改正を行った結果、便宜上「N2」規定へ移行したためシリーズ名称から「N1」の文字を外し、現在の「スーパー耐久」に再度改称した。

2002年には、レースに参加するチーム(エントラント)で構成される「N1リーグ」とレースプロモーターサーキットで構成される「スーパー耐久協会」との対立が表面化。一部のスポーツ新聞では「内紛」のタイトルで対立の表面化が報じられたが、その後両者の話し合いによって、新たなシリーズ統括組織として「スーパー耐久リーグ(STL)」が発足。それまでは主催者側のみで構成されていた連合組織に、この時からエントラント側(N1リーグ)の代表者が加わることになった。

2005年にはSTLの内部機構改革に伴い、組織名称を「スーパー耐久機構(STO)」と改めた。また同年、チーム(エントラント)団体である「N1リーグ」の代表者選出方法をチームからの推薦に変更、新たな代表者が選出され、新体制となった。その翌年である2006年からは新体制の組織名称をN1リーグから「スーパー耐久エントラントリーグ(STEL)」に改め、アマチュアリズムに徹したエントラント支援組織とした組織骨子の原点回帰を行った。なお、あくまでもSTOはシリーズの統括組織、STELはエントラントの支援組織である。

2000年代後半に入ると海外進出を念頭に置いた動きが目立ちはじめ、2007年9月には韓国太白レーシングパークからの招待を受ける形で、12チームが同サーキットで行われる韓国チームとの特別戦に参加した。そして2010年にはノンタイトル戦(Special Stage)という形で、初の海外戦をマレーシアセパンサーキットで行う予定だったが、諸般の事情により中止となった[6]2011年も「Asia Round」として、韓国・中国で3戦を行う予定が組まれていたが、東北地方太平洋沖地震の影響によりレース日程が大幅に変更され、最終的に福島第一原子力発電所事故の影響も受けた結果全戦が中止となっている(詳細は後述)。この年より、ヨコハマタイヤのワンメイクとなった。

2012年は新たな試みとして、ST-GT3クラスについてのみ第4戦を選択制とした。同クラスのエントラントは、岡山国際サーキットでの通常のシリーズ戦以外に、その1週間後にセパンサーキットで行われる12時間耐久レースでもシリーズポイントを獲得できるとされた。2013年インジェ・スピーディウム(韓国)でシリーズ戦が開催された(大鵬湾国際サーキット(台湾)については、現地オーガナイザーとの交渉が不調に終わり中止)。

2012年第5戦ではスーパー耐久初の死亡事故(OSAMU選手)が発生したため、これを踏まえ、2013年からはHANS(頭部前傾抑制デバイス)を着用するレギュレーションが採用された。

2018年からタイヤ供給元がピレリに変更され、シリーズ名も「ピレリ・スーパー耐久シリーズ」となった[7]

2019年からは新たにアジア地域をターゲットとした「スーパー耐久アジア」を発足させる。スーパー耐久のアドバイザーでもあるアレックス・ユーン、マーチー・リーの2人が中心となり、香港に事務局を置き、アジアのエントラントに対するレギュレーションや参戦方法などの案内を行うほか、将来的には日本国外でのスーパー耐久のレース開催も予定している[8]

2021年からはワンメイクタイヤの供給元がハンコックタイヤに、シリーズ名が「スーパー耐久シリーズ Powered by Hankook」に変更される[9]

2022年からはENEOSがシリーズスポンサーとなり「ENEOS スーパー耐久シリーズ Powered by Hankook」[11]となった[12]

2024年より、ワンメイクタイヤの供給元がブリヂストンに変更される予定だったが、2023年3月にハンコックタイヤの大田工場で火災が発生し、レースに必要な数のタイヤを供給する目処が立たなくなったため、急遽予定を繰り上げ、2023年の第2戦(富士24時間レース)よりブリヂストンがタイヤ供給を行うことになった。第2戦ではドライタイヤはブリヂストン、ウェットタイヤはハンコックという形となるが、第3戦からは正式にブリヂストンが公式タイヤサプライヤーとなる[13]。シリーズ名称は「ENEOS スーパー耐久シリーズ Supported by BRIDGESTONE」[11]に変更。

2024年、新運営組織・一般社団法人『スーパー耐久未来機構(STMO)』を設立。理事長にトヨタ自動車会長豊田章男が、レーシングドライバー「モリゾウ」の立場で就任した。ただし当面は、従来のSTO事務局がそのままシリーズ運営を続行し、STO事務局長の桑山晴美も副理事長として残留する[14]
クラス分け

スーパー耐久は排気量や駆動方式により複数のクラスに分けてシリーズが展開される。なおガソリンエンジン搭載車のターボ装着車については排気量に対しターボ係数として1.7を乗じた値をクラス分けに適用する(例:排気量2,000ccターボのランサーエボリューションは2,000cc(排気量)×1.7(ターボ係数)=3,400ccをクラス分けの基準とする、この場合はST2クラスとなる。ディーゼルターボの場合は排気量そのまま)。

以前純粋な2座席車両での参戦は不可で、特認を受ければ参戦可能、しかし車両価格が1200万を超える車両には特認が発行されないというルールがあったが、2019年以降このルールは廃され、2座席以上の車と規定され直している。現在特認が必要になっているのは、JAF、SRO、FIA、WSCの公認を受けていない車両(911カップカーR8カップカー、及びJAF登録前のシビック等)と、大幅に減少している。2021年にST-1でデビューしたKTM・X-BOW GTXは2座席かつ高額車(約3000万)ということで、今までのルールでは参戦出来なかった車両となっている。

2021年より一部クラスでプロトタイプ車両の参戦が認められるなど(後述)、各自動車メーカーのスポーツカー開発陣の有志たちによる、ワークスに近い参戦体制のチームも見られるようになっている。

STOの特認を受けることで、レースバージョンでの参加(例:ポルシェ911 JGN)や、本来の排気量や駆動方式によるクラス分けに該当しないクラスへの参戦(具体例は後述)も認められることがあり、その結果同一の車種が複数のクラスにまたがって参戦する場合もある。

2005年よりクラス名称が改められ、従来「クラス1-4」と呼ばれていたクラスが「ST1-4」、「グループN+」と呼ばれていたクラスが「ST5」にそれぞれ改められた。また2006年にはST5の代わりに2,000cc以下の2座席スポーツカーを対象とした「ST-スポーツクラス(ST-S)」が新設されたが、実質的に同年限りで消滅している。

2010年には「ST5」の名称で、新たに1,500cc以下の車を対象としたクラスが設けられた。また2011年からは、新たに国際自動車連盟(FIA)の「グループGT3規定」に基づいた新クラス「ST-X」(2012年・2013年シーズンの名称はGT3クラス)が設けられるほか[15]ワンメイクレースの開催支援クラスとなる「ST-A」クラスが新設されたが[16]、ST-Aは2013年限りで消滅した。2017年には後述する「ST-TCR」及び「ST-Z」クラスが新設されたほか、2021年には「ST-Q」クラスも加わり、2021年時点では「ST1/2/3/4/5/X/TCR/Z/Q」の全9クラス制となっている。

ドライバーについては2022年度まではSUPER GTやスーパーフォーミュラ参戦者を「プラチナドライバー」として区分、一部クラスでの乗車時間規定が設けられていたが、2023年度よりST-Q以外の全クラスにて「Aドライバーを60歳以上、もしくはスーパー耐久が認めたジェントルマンドライバー」を採用、Aドライバーが一定時間以上を走行という形になり、プラチナドライバー区分及び乗車時間制限が廃止された。

なおスポーツランドSUGOなど一部のサーキットでは、全クラスを混走とするとコース上の混雑が激しくなる等の理由で、上位クラスと下位クラスを別グループとし、グループ毎に決勝レースを行う場合がある。
現在のクラス
ST-X
前述の通り、グループGT3規定に準拠したクラス。準拠というのは公認期間中の車だけでなく、公認期間が終了した車両であってもエントリーが可能となっている。2012年及び2013年は「ST-GT3」の名称だったが2014年に再び「ST-X」に名称変更された。2011年シーズン(クラス名称は「ST-X」)は賞典の設定がない形で行われたが、
一ツ山レーシングアウディ・R8 LMSが第3戦まで出場したのみで、第4戦以降は参戦車両がゼロになった。2012年(クラス名称は「ST-GT3」)にはKONDO Racing日産・GT-R NISMO GT3を投入して徐々に活況を呈している。GT3カーはSUPER GTにも出場可能な事から、世界的に成功しているGT3レースと比べると参加台数こそ多くはないが、2022年現在の参加車両はレクサス・RC F GT3ポルシェ911 GT3 RメルセデスAMG GT3など、バリエーションも徐々に増えてきている。

ST-Xクラス車両の例
GTNET ADVAN NISSAN GT-R

ST-TCR
2017年より新設されたTCR規格車両により争われるクラス。開幕戦のみ「ST-R」という名称だったが、開幕直前にスーパー耐久機構とTCRインターナショナルシリーズのプロモーターとの提携が成立したため、第2戦より現名称に変更された[17]。初年度はアウディ・RS3ホンダ・シビックタイプRフォルクスワーゲン・ゴルフが参戦しているが、TCRジャパンとの競合もあって[18]エントリーが減少、2023年はエントリーが0台となった。


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