スーパーコンピュータ
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スーパーコンピュータ(: supercomputer)は、科学技術計算用途で大規模・高速な計算能力を有するコンピューターである。一般的な用語としてスーパーコンピュータが用いられ、コンピューター業界での分野名としてHigh Performance Computer / Computing (HPC)が用いられる。本記事と類似している高性能計算の項目についても参照されたい。
概要

スーパーコンピュータとは、科学技術計算を主要目的とする大規模コンピュータである[1]。大規模・高速の計算能力を達成することを目的としている。そのために最適化されたハードウェアソフトウェアを備えている。

なお、スーパーコンピュータという場合はプログラミングにより汎用の計算処理能力を持つ装置を指す。高い計算能力を有する装置であっても、たとえば多体問題専用の「GRAPE」のように目的が専用に限られる計算機については専用計算機に分類される。

ハードウェアについては、演算処理装置の高速化・搭載量の拡大、演算時のメモリ搭載量の大容量化・高速化、演算処理装置間でのメモリ共有方式が特徴的である。他にベクトル計算に特有の演算処理装置を備えるなど、取り扱われる演算に特有のハードウエア方式が採用されることがある。また、高い計算能力は演算処理を担う電子回路の大規模・高速なスイッチング動作により実現されるため、大量の電力消費と発熱に対応した電源設備、排熱・冷却機構が必要である。

ソフトウェアとしては、演算処理装置の搭載量の拡大に応じた並列計算処理に適した方式が採用される。それは取り扱う問題解決手法自体の最適化、そのプログラム実装でのアプリケーションレベルでのアルゴリズム、プログラムのコンパイラ段階など複数の階層で行われる。

スーパーコンピュータの利用される例として、機械・土木・建築分野での構造物の力学を有限要素法境界要素法などに基づいて検討する構造解析、電気工学分野での電磁界解析流体力学分野、気象予測、大気・海洋シミュレーション、物性化学材料科学分野での分子動力学、その他交通流解析、シミュレーション天文学最適化問題、金融の大規模数値解析に基づくシミュレーションなどに利用されている。→#主な用途
「スーパーコンピュータ」の範囲とその変化
コンピューターの歴史はスーパーコンピュータに限らず時代とともにその能力を拡大しており、スーパーコンピュータは性能により一律に規定されるものではない相対的な分類である。スーパーコンピュータの各事例はその登場時点において科学技術計算を主要目的に最適化して開発された製品である。コンピューターの性能指標は評価軸によってさまざまな方向性があるが、スーパーコンピュータは科学技術計算を主要目的とするため、浮動小数点演算の処理能力が高いことが特徴である。一例としてCray-1が登場したときには、事務的な用途で利用される当時の標準的なメインフレームの30倍程度であった。また、スーパーコンピュータに関する定義の事例として、2014年時点での日本の政府調達に関する規程では、理論的最高性能値が50TFLOPS(テラ・フロップス)以上の計算機をスーパーコンピューターとして、政府関係の一部機関に対して「政府調達手続に関する運用指針」[2]に従って調達することを求めた[3]
歴史「スーパーコンピュータ技術史」も参照

歴史的に科学技術計算の目的で浮動小数点演算の性能で処理能力が高いコンピュータが「スーパーコンピュータ」と分類されてきた。初期には主として軍事用に使われた。

1960年にUNIVACアメリカ海軍研究開発センター向けに製造したLARC(Livermore Atomic Research Computer)が、現在では最初のスーパーコンピュータと考えられている。LARCは新たに登場したディスクドライブ技術ではなく、高速な磁気ドラムメモリをまだ使用していた[4]

また、1961年に完成したスーパーコンピュータのIBM 7030 (ストレッチ)は、1955年時点のすべてのコンピュータの合計より100倍の速度を要求されてIBMロスアラモス国立研究所向けに製造した。IBM 7030はトランジスタ、磁気コアメモリ、命令セットのパイプライン処理、メモリコントローラ経由のデータのプリフェッチ、そして先進的なランダムアクセスできるディスクドライブを備えた[5]1970年代のCray-1。展示用に特別に内部が見えるようにしたもの。高速化のため配線を全体として短くするために、おおむね環のような形状にしている。その外観から「世界一高価な椅子」などと呼ばれることもある。

1960年代にはCDC社1970年代にはクレイ社が、ベクトル演算を中心としたスーパーコンピュータでコンピューター業界でのシェアを伸ばした。また、コンピューターの各種シミュレーションでの民間の利用が拡大したことで、スーパーコンピュータの需要も拡大した。

1980年代にはNECなどの日本のメーカーが海外にも進出し、日米スパコン貿易摩擦にも発展した。

1960年?1980年ころのスーパーコンピュータは、ベクトル型計算機で利用用途が特化され汎用性が低く、巨大で高価であったため、現在では揶揄の意を込めて「巨艦主義」と呼ばれることもある。この表現は海戦史を踏まえたものであり、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけては、海戦では戦艦の攻撃力が勝負の鍵を握り、各国は戦艦を巨大化・巨砲化させることを競ったものの、第二次世界大戦中に、いつのまにか勝利の鍵が巨大戦艦ではなく空母や戦闘機の性能のほうに移ってしまい、戦艦の存在の無意味化が起き、日本の戦艦大和戦艦武蔵などもむなしく撃沈されてしまったことになぞらえたものである。

1990年代後半に入るとパソコンの普及とパソコン用CPUの処理能力の向上が背景となり、パソコン用で安価なx86POWERなどのプロセッサを数百?数千個搭載して計算能力を実現するスカラー型のスーパーコンピュータが台頭し、スーパーコンピュータのコンテストであるTOP500でも上位を占めるようになった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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