スワンプマン
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スワンプマン(Swampman)とは、1987年にアメリカの哲学者ドナルド・デイヴィッドソンが考案した思考実験。思考などの心の状態や発話の内容を主体がその時とっている内的な状態だけでなく、来歴にも依存するものとして捉える彼の理論への可能な反論として提唱された[1]ルース・ミリカンの目的論的意味論などの同じく歴史主義的・外在主義的な志向性や内容の理論への反例としても論じられる[2]。スワンプマンとは「沼 (Swamp) 」の「男 (man) 」という意味の英語。
思考実験の詳細

ある男がハイキングに出かける。道中、この男は不運にも沼のそばで、突然雷に打たれて死んでしまう。その時、もうひとつ別の雷が、すぐそばの沼へと落ちた。なんという偶然か、この落雷は沼の汚泥と化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう。

この落雷によって生まれた新しい存在のことを、スワンプマン(沼男)と言う。スワンプマンは原子レベルで、死ぬ直前の男と全く同一の構造を呈しており、見かけも全く同一である。もちろん脳の状態(落雷によって死んだ男の生前の脳の状態)も完全なるコピーであることから、記憶も知識も全く同一であるように見える[3]。沼を後にしたスワンプマンは、死ぬ直前の男の姿でスタスタと街に帰っていく。そして死んだ男がかつて住んでいた部屋のドアを開け、死んだ男の家族に電話をし、死んだ男が読んでいた本の続きを読みふけりながら、眠りにつく。そして翌朝、死んだ男が通っていた職場へと出勤していく。
関連文献

水本正晴 「スワンプマン論法と物理主義」
科学哲学 2004年 37巻 1号 p.43-59, doi:10.4216/jpssj.37.43

前田高弘 「スワンプマンにさよならする」 科学哲学 1999年 32巻 1号 p.67-81, doi:10.4216/jpssj.32.67

前田高弘 ⇒「スワンプマンを抱きしめて」 第36回科学哲学大会ワークショップ発表「心の哲学とスワンプマン論争」 2001年

関連項目

なぜ私は私なのか - なぜは他の誰かではなく、この人物なのかという問題。

他我問題 - 他我をいかに認識ないし経験できるのかという問題。

意識の境界問題 - 意識体験の境界はどのようにして決まっているのかという問題。

哲学的ゾンビ - 物理的化学的電気的な反応は普通の人間と全く同じであるが、意識(クオリア)を全く持っていない人間のこと。

コウモリであるとはどのようなことか - コウモリにとって、コウモリであるとはどのようなことかという問い。

逆転クオリア - 同じ物理的刺激に対し、異なる質的経験(クオリア)が体験されている可能性を考える思考実験。

チューリング・テスト - アラン・チューリングが提案した、ある機械が「人間的」かどうかを判定するためのテスト。

中国語の部屋 - 中国語を理解できない人を部屋に閉じ込めて、マニュアルに従った作業をさせるという思考実験。

水槽の中の脳 - 「この世界は、実は水槽に浮かんだ脳が見ている夢なのではないか」という仮説

テセウスの船 - 船の壊れた部品を新たな部品につけかえる。この行為を繰り返すうちに最初に使っていた部品は全て無くなった。今の船は最初の船と同一だとみなしてよいか?

SF作家ジョン・ヴァーリィの『へびつかい座ホットライン』などの未来史シリーズ。

すべての人類が自身の予備クローンを持ち、また定期的に記憶のバックアップを取っている。当人が死亡すると、そのクローンには保存しておいた記憶が与えられ、「従来の本人のまま」社会行動をする未来社会が描かれている。


キャプテン・スカーレット - SF特撮人形劇。

第1話冒頭で主人公のキャプテン・スカーレットは敵宇宙人ミステロンの手によって自動車事故で殺害され、以後はスカーレットの外見・記憶・人格を完全に写したコピー[4]がキャプテン・スカーレットとして活躍する(コピー本人も周囲の人物もコピーのスカーレットをスカーレット本人と認識している)というストーリー。


精神転送

スワンプシング - DCコミックが刊行するアメリカンコミック。1983年、アラン・ムーアがライターとして再構築する際にこのスワンプマンのような設定に改められ、アイデンティティーの問題を抱えさせる事で大人向けコミックへの改革を果たした。

粗忽長屋 - 自身に似てはいるが、まったくの赤の他人の死体を自分の死体だと思い込んでしまう落語の演目。


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