スラヴ神話(スラヴしんわ、Slavic mythology)とは、9世紀頃までにスラヴ民族の間で伝えられた神話のことである[1]。 スラヴ民族は文字を持たなかったため、伝えられた神話を民族独自に記録した資料は存在しない[2]。スラヴ神話が存在した事を記す資料として、9世紀から12世紀の間に行われたキリスト教改宗弾圧の際の「キリスト教」の立場から記された断片的な異教信仰を示す内容の記述が残るのみである[1]。 スラヴ神話は地方により様々なバリエーションがあった[1]ことが近年の研究により明らかになっている。 キエフ・ルーシでもっとも古い年代記である『原初年代記(過ぎし年月の物語)』には、東スラヴで信仰されていた神々に関する記述がある。それによれば、980年頃、ヴラジーミルが宮殿近くの丘に下記の6柱の神々の像を設置させたという[3]。 以下に、除村吉太郎訳の『原初年代記』の記述を引用する。 しかしてヴラヂミルは一人でキエフに君臨し始め、テレムの邸(やしき)の外の丘の上に偶像を建てた。銀の頭と金の髭を有(も)つ木造のペルーン、ホルス、ダージヂボグ、ストリボーグ、セマルグラ及びミコーシを《建てた》。しかして彼等を神と呼んで、彼等に礼拝し、おのが息子達と娘達を伴い来り、悪鬼共に礼拝し、おのれの生贄(いけにえ)によって大地を穢(けが)した。しかして《生贄》の血によってルーシの地とかの丘が穢された。 ? 《ヴラヂミルがキエフおよびノヴゴロドに偶像を立てる》[4] 他に、以下の神々も知られている。 おそらく、スラブ神話には、天体の擬人化された神々(ペルーン、ダジボーグ、モコシ)とクトニオスの神々の両方が存在していた。[14]。 西スラヴで信仰されていた主要な神々は、『スラヴ年代記』などの資料に十柱ほどが記録されている[15]。この地域では軍神が主に信仰されていた[16]。 南スラヴでは下記の神が知られている[17]。 歴史上の英雄を神格化したと考えられている下記の神々も知られている[17]。 10世紀にスラヴにおいてキリスト教への改宗が進められ、主要な神々(神格)への信仰が失われた。しかし下記のような「小神格(ディイ・ミノーレス)」については、キリスト教徒となったスラヴ人の生活の中に民間信仰として残ってきた[18]。これらは自然現象などに由来した精霊と考えられている[17]。
概要
スラヴ神話の神々
東スラヴの神々
雷神ペルーン (Perun)
豊穣神ヴォーロス/ヴェレス (Volos / Veles)
風神ストリボーグ (Stribog)
太陽神ダジボーグ (Dazhbog
太陽神?ホルス (Khors, Xors)
女性労働の守護神と母なるモコシ (Mokosh)
七頭神セマルグル (Semargl)
火神スヴァローグ (Svarog)[5]
出産と運命の神ロード (Rod) と ロジャニツァ (Rozhanitsa)[注 1]
西スラヴの神々
軍神スヴェントヴィト (Sventovit)
軍神トリグラフ (Triglav)
軍神、豊饒神ヤロヴィト( Jarovit。セルビアの豊穣神ヤリーロを参照)
軍神、太陽神ラデガスト
南スラヴの神々
幸福の神ベロボーグ (Belobog)
不幸の神チェルノボグ (Chernobog)
英雄の神格化
キイ (Kii)
シチェーク (Shchek)
ホリフ (Khoriv)
ツェフ (Tsekh)
リャフ (Lyakh)
クラク (Krak)
民間信仰
家の精ドモヴォーイ
水の精ヴォジャノーイ
森の精レーシー
水の精ルサールカ
ゾリャー