スポーツカー_(モータースポーツ)
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スポーツカー (: voiture de sport、: sports car) は、自動車競技に用いる目的で特別に製造される自動車の一類型であり、特殊車ないし実験的競技車に属する。並列2座席でホイールの大半がボディに覆われており、前照灯尾灯方向指示器を備えるなど、公道走行に必要な最低限の形態と装備を有している。プロトタイプとも呼ばれる。

以下、断りなき場合「スポーツカー」とは競技用に製造された車両を指す。
概要「ル・マン」プロトタイプの一例
シグナチュールアルピーヌ・A470グループE2-SC
オゼッラ(英語版)・PA30
類型の総説

自動車競技の中でも、主に自動車の走行性能を競う製造者対抗ロードレース[1][2]と、ヒルクライム[注釈 1][3][4]でそれぞれ運用することを前提に企画、開発、製造される。2020年以降においては国際自動車連盟 (以下、FIA) 国際モータースポーツ競技規則 (国際スポーツ法典、以下、CSI) 付則J項部門IIのグループCN「プロダクションスポーツカー」と、同グループE (フリーフォーミュラレーシングカー群) のSC (スポーツカー) に属する類型が該当する。SCは国際ヒルクライム技術規定のグループE2-SC、FIA世界耐久選手権およびル・マン地域シリーズ[注釈 2]技術規定の「『ル・マン』プロトタイプ」("Le Mans" Prototype, LMP) 1から3およびハイパーカー (LMH)、IMSAスポーツカー選手権技術規定の「デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル」(Daytona Prototype Int., DPi) が代表的であるが、CSIの既存グループに適合しない2座席車両は全てが該当する。E2-SCはCNから、DPiはLMP2からそれぞれ派生した類型である。

FIAの管理下で技術規定がなされているが、規定の基本趣旨は製造者が公道運用に自由な発想で製造した乗用車を競技運用する場合の、階級分類と形式分類である。これはツーリングカーグランドツーリングカーと同じであるが、それらとは異なり1台だけの特別製造車から対象となる[5][6][7]ため、実質的にはほぼすべてが競技専用として製造されている。また、生産台数の要件がある場合でも、それはごく少数[8][9][10]であるため、競技専用のまま要件台数が生産され、不良在庫車は無理にでも公道用に仕立てて富裕層コレクター)などへ売却される[11]。本来から自由製造されるものであるため、諸元や投入技術に制約が少なく、これが製造者の技術先進性や知見、開発能力などを競う下地となってきた[注釈 3]。ただし、1982年以降は諸元に上限または下限が設けられるようになり、その制限内での競争となっている。

ロードレースにおけるスポーツカーの競技性高度順位は、一つ上位にフォーミュラレーシングカーがあるのみであり、下位にシルエットタイプカー、グランドツーリングカー、ツーリングカーと続いている。スポーツカーはフォーミュラレーシングカーレースに参加することはできないが[注釈 4]、過去にはフォーミュラレーシングカーとの間に存在した二座席レーシングカーのレースに参加することができた。またヒルクライムは個別スタートであるため、スポーツカーとフォーミュラレーシングカーは同部門として競合する。

スポーツカーの製造者 (マニュファクチャラー) とはシャシの製造者を指す。エンジンは大規模製造者では自身で開発、製造する場合が多く、小規模製造者では他者 (大規模製造者またはエンジン専門製造者など) から供給 (供与、貸与、売却など) を受ける場合が多い。なお、大規模製造者が他者 (多くは小規模製造者) へシャシの開発、製造を委託する場合もあるが、[注釈 5]スポーツカーの名称であるメイクは委託者のものを名乗り、開発、製造を請負った受託者のメイクが名乗られることはない。また、小規模製造者は自身のメイクに連ねてエンジンメイクが表示される場合がある。[1]
プロトタイプ (試作車)

「公道運用を前提とした生産台数義務を課されていない車両」とは、即ち乗用車の試作車とみなすことができ、自動車競技においてスポーツカーとプロトタイプは同義である[12]。過去、グランドツーリングカー (以下、GT) レースへスポーツカーを部門化させるにあたり「プロトタイプ(試作GT)」は方便として度々用いられた。以降、競技会の部門名称にスポーツカーとプロトタイプのいずれを採るかは主催者の思惑次第となっている。

CSIでは、スポーツカーを量産車と特別製造車に分割したとき、後者の名称にプロトタイプを用いてきた。[注釈 6]
車両形式スポーツカーのボディ
ポルシェ・919ハイブリッド

ボディフェンダーを固定して備えるか、ないしはそれと一体化している。フェンダーはホイール外周の1/3以上を覆う規定となっているが、前後にボディのオーバーハングが伸びているため、上から眺めたとき操舵輪が直進状態においては全てのホイールが完全にボディ輪郭内に収まっている。また全ての機械部位もボディに覆われ、通気口から覗き見える部位や排気管後端などを除き、外部から見えてはならない[13][14][15][注釈 7]助手席を備えていた1970年代のコックピット
ポルシェ・908/3機材が設置された助手席空間
トヨタ・TS050 HYBRID

座席は左右対称に並列配置されている。運転席は左右いずれでもよいが、2021年のWEC出場チームは全車が左を選択している。左が選ばれる理由は単純に「多くを占める欧州のドライバーが乗り慣れているため」である。ただし右のほうがピットイン時の交代が速い、乗車姿勢が若干楽になる、日欧のサーキットは右回りが多いので重心で有利などのメリットも多いとされる。パドルシフトの無かった時代は右運転席の恩恵を受けつつ欧州人ドライバーが乗りやすくするため、右運転席+右手側にシフトレバーという凝った設計が用いられたこともあった。

乗車定員数(座席数)は黎明期にはエンジン排気量の多寡に応じ最少数を4、2、1とされていた[16]が、それが撤廃され、エンジン排気量にかかわらず最少で2とされた[17]後においては、例外なく2座席(運転席、助手席)が選択されている。4座席はデザイン的にも運用的にも選択する利点はなく、国際自動車連盟(以下、FIA)の公認が取得されていないグランドツーリングカーを先行して競技運用した場合[注釈 8]特殊プロダクションカーのシャシを流用した場合[注釈 9]などに例があるのみである。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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