スペクトル分類
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この項目では、恒星のスペクトル分類について説明しています。小惑星のスペクトル分類については「小惑星のスペクトル分類」をご覧ください。
HR図スペクトル型YSOT Tauri型星Herbig Ae/Be型星褐色矮星準褐色矮星白色
矮星



準矮星B主系列星OBAFGK準巨星巨星バリウム星赤色
巨星
青色
巨星
輝巨星超巨星赤色
超巨星
LBVWR型星極超巨星


スペクトル分類(スペクトルぶんるい、: spectral classification)は、恒星の分類法の一つである。スペクトル分類によって細分された星のタイプをスペクトル型(: spectral type)と呼ぶ[1]。恒星から放射された電磁波を捉え、スペクトルを観察することによって分類する。恒星のスペクトルはその表面温度や化学組成により変わる。表面温度を元にして分類する狭義のスペクトル型(ハーバード型[2])と、星の本来の明るさを示す光度階級 (luminosity class) があり、両者を合わせて2次元的に分類するMK分類[1]が広く用いられている。これは、この分類を提唱した天文学者のウィリアム・ウィルソン・モーガンとフィリップ・チャイルズ・キーナン(英語版)の名前に由来する。

恒星のスペクトルのそれぞれの線は、特定の元素分子の存在を示しており、その特徴の強度はそれらの存在量を示している。異なるスペクトル線の強度は主に恒星の光球の温度に左右されるが、いくつかの場合では元素の実際の存在量の違いを反映している場合がある。高温の天体では水素の吸収線が、低温の天体ではその他の重元素による吸収線が強く現れる傾向にある。また特に低温の星では、原子に加えて分子の吸収線も見られるようになる[3]

ほとんどの星は、MK分類を用いて分類されている。これは O、B、A、F、G、K および M を用いた分類を用いており、O型が最も高温で、M型が最も低温である。アルファベットの順番がバラバラであるのは、スペクトル型と天体の温度が対応していると判明したのがアルファベット順の分類が開発された後であり、後に温度の順番に並べ替えて現在の様式に整理されたという歴史的な経緯に由来する。それぞれの文字の分類はさらに0から9を用いて細分化され、この中では0が最も高温で、9が最も低温であることを示す。例えば、A8、A9、F0、F1 という分類は高温から低温になるように並んでいる。この分類法は、古典的な恒星の分類には当てはまらないその他の星や恒星に似た天体を分類できるように拡張されている。例えば白色矮星を表す D、炭素星を表す S や C などが加えられた。また、褐色矮星などの低温の天体のスペクトルとして、L、T、Y が導入されている。

MK分類ではローマ数字を用いた光度階級も合わせて用いられており、これは恒星のスペクトルにおける特定の吸収線の線幅に基づいて定められている。線幅は恒星大気の密度によって変化するため、恒星が矮星(主系列星)か巨星であるかを区別することができる。光度階級では、極超巨星に対しては 0 もしくは Ia+、超巨星に対しては I、明るい巨星に対しては II、通常の巨星に対しては III、準巨星に対しては IV、主系列星に対しては V、準矮星に対しては sd もしくは VI、そして白色矮星に対しては D もしくは VII が割り当てられている。この記法をすべて用いた場合の太陽のスペクトル型は G2V であり、これは表面温度が 5800 K 程度の主系列星であることを意味する。
伝統的な色による分類温度と色の三角グラフ

伝統的な色の記述は恒星のスペクトルの極大のみを考慮していた。しかし実際には、恒星はスペクトルのすべての範囲で放射をしている。すべてのスペクトルの色が合わさると白く見えるため、人間の目が実際に感じる見かけの色は、伝統的な色の記述が示すものよりもずっと明るく見える。この「明度」の特性を考慮すると、単純にスペクトル中で極大となる波長の色を割り当てる方法は、恒星の分類において混乱の元となりうる。薄明かりの中での色とコントラストの錯覚を除けば、緑色や藍色、紫色に見える星は存在しない。赤色矮星は濃いオレンジ色であるし、褐色矮星は文字通りの褐色には見えず、近傍にいる観測者には理論上は薄い灰色に見えると考えられる。
現在の分類ハーバード分類に基づきO型からM型まで並べられた恒星

現在の分類体型は、MK分類 (Morgan?Keenan classification) として知られている[1]。それぞれの恒星は、従来からあるハーバード分類によるスペクトル型と[2]、ローマ数字を用いた光度階級[4]が割り当てられ、これが恒星のスペクトル型を構成する。

そのほか、現在の測光システム[5]、例えばジョンソンのUBVシステムなどは、色指数に基づいた分類となっている。これは、3つやそれ以上の色での等級の差の測定を元にしている。これらの数値は、U-V や B-V といった表記が用いられ、2つの標準的なフィルターを通した色等級の差を表している。例えばUは紫外線 (Ultraviolet)、Bは青 (Blue)、Vは可視光 (Visual) という風にである[6][注 1]
ハーバード分類

ハーバード分類は、天文学者アニー・ジャンプ・キャノンによる1次元の分類である。キャノンは、それまでに存在したアルファベットを用いた分類を並べ直し、単純化した。恒星はそのスペクトルの特徴に応じてアルファベット1文字でグループ分けされ、オプションとして数字で細分化される。主系列星の表面温度は約 2000 K から 50000 K までの値を取りうるが、より進化した恒星は 100000 K を超える場合もある。物理的には、この分類は恒星大気の温度を示しており、通常は温度が高いものから低いものへの順番で並べられる。

有効温度
[7][8]色度
(ベガ基準)
[9][10][注 2]質量
(M?)
[注 3][7][11]半径
(R?)
[注 3][7][11]光度
(L?)
[注 3][7][11]水素線存在割合[12]
O? 30,000 K青? 16 M☉? 6.6 R☉? 30,000 L☉弱い~0.00003%
B10,000?30,000 K青白2.1?16 M☉1.8?6.6 R☉25?30,000 L☉中間0.13%
A7,500?10,000 K白1.4?2.1 M☉1.4?1.8 R☉5?25 L☉強い0.6%
F6,000?7,500 K黄白1.04?1.4 M☉1.15?1.4 R☉1.5?5 L☉中間3%
G5,200?6,000 K黄0.8?1.04 M☉0.96?1.15 R☉0.6?1.5 L☉弱い7.6%
K3,700?5,200 K橙0.45?0.8 M☉0.7?0.96 R☉0.08?0.6 L☉非常に弱い12.1%
M2,400?3,700 K橙赤0.08?0.45 M☉? 0.7 R☉? 0.08 L☉非常に弱い76.45%
ヘルツシュプルング・ラッセル図は恒星の分類と絶対等級光度温度を関連付ける。

OからMまでのスペクトル型、および後述する他のより特殊な分類は、さらに 0-9 までの数字で細分化される。ここで、0が各分類の中で最も高温のものを表す。例えば、A型星の中ではA0の恒星が最も高温で、A9が最も低温である。小数が用いられる場合もあり、例えばじょうぎ座ミュー星(英語版)のスペクトル型はO9.7である[13]太陽はG2に分類される[14]

従来の色の記述は天文学では伝統的なものであり、白色とみなされるA型星の平均色に対する色を表す。みかけの色の記述は、暗い空にある恒星を肉眼や双眼鏡を用いて観察した際に観測者が見る色に対応している[15]。しかし非常に明るいものを除けば、大部分の恒星は肉眼では色覚が働くには暗すぎるため、白色や青白色に見える。赤色超巨星は同じスペクトル型に分類される矮星(主系列星)よりも低温で赤く、また炭素星のような特異なスペクトルの特徴を示す恒星はあらゆる黒体よりもずっと赤くなることがある。

ハーバード分類が恒星の表面、もしくは光球の温度(より正確にはその有効温度)を示しているという事実は、この分類が開発されるまでは完全には理解されていなかった。しかし、ヘルツシュプルング・ラッセル図が初めて定式化された1914年までには、そのことは一般に真実であると考えられていた[16]。1920年代に、インドの物理学者メグナード・サハが分子の解離に関する物理化学のよく知られたアイデアを原子の電離に拡張することにより、電離に関する理論を導出した。彼はその理論を太陽彩層に応用し、さらに恒星のスペクトルにも応用した[17]

その後、ハーバード大学の天文学者セシリア・ペイン=ガポーシュキンが、O-B-A-F-G-K-M のスペクトルの順序が実際に温度の順番であることを学位論文の研究の中で示した[18]。スペクトルの分類の順番はそれが温度の順番であることが理解される以前から存在しているものであるため、スペクトル型をB3やA7などのようにさらに細分化する際には、恒星スペクトルの吸収特徴の強度の(主に主観的な)推定に基づいている。その結果として、スペクトル型の細分は数学的に表現できるような均等な間隔で分割されてはいない。
ヤーキスのスペクトル分類主系列星の疑似カラースペクトルの合成画像[19]

ヤーキスのスペクトル分類は、1943年にヤーキス天文台ウィリアム・ウィルソン・モーガン、フィリップ・チャイルズ・キーナン(英語版)、エディス・ケルマン(英語版)によって導入された恒星のスペクトル分類のシステムである[20]。提案者らの頭文字を取って MKK システムと呼ばれる場合もある。この分類法は2次元的(温度光度)なものであり、恒星の光度に関係する恒星の温度と表面重力に敏感なスペクトル線に基づいているが、ハーバード分類は表面温度のみに基づいている。その後、1953年には標準星と分類基準のいくつかの改定を経てこの分類法はMK分類と命名され[21]、引き続き使用されている。

表面重力が強い高密度の恒星は、スペクトル線の圧力広がりが大きくなる。一方、巨星は同じ質量の主系列星よりも半径がずっと大きいため、表面での重力と圧力は小さく、スペクトル線の線幅も小さくなる。そのため、スペクトルの違いは「光度効果」として解釈でき、光度や絶対等級の情報が無くてもスペクトルの調査のみから光度階級を割り当てることが可能となる。

以下の表の通り、多数の光度階級が識別されている[22]

ヤーキスの光度階級光度階級説明例
0 or Ia+極超巨星 もしくは極めて明るい超巨星はくちょう座OB2-12 – B3-4Ia+[23]
Ia明るい超巨星おおいぬ座η星 – B5Ia[24]
Iab中間サイズの明るい超巨星はくちょう座γ星 – F8Iab[25]


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