スペイン黄金世紀演劇
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スペイン黄金世紀演劇の重要人物、ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ

スペイン黄金世紀演劇(スペインおうごんせいきえんげき)とは、1590年から1681年頃までのスペイン演劇を指す[1]。1469年にアラゴン王フェルナンド2世カスティーリャ王イサベル1世の結婚により統合され、1492年のグラナダ包囲でグラナダ王国キリスト教国の領域内へと奪還し、スペインはヨーロッパの強国として頭角を現すようになった[2]。この時代はスペイン黄金世紀と呼ばれることがある。16世紀から17世紀にかけてはスペイン社会において文芸が重要性を増すようになり、舞台芸術の上演が非常に増加した。ルネサンス期のスペインにおける舞台芸術は、貴族階級の手厚い支援がある一方で下層階級の人々もよく鑑賞しているものであり、あらゆる人々がアクセスできる芸術であった[3]
背景

スペイン黄金世紀に作られた芝居の多様さを反映し、初期のスペイン国民演劇は様々なものから影響を受けている。ストーリーテリングはイタリアのコンメディア・デッラルテに起源を有する[4]。また、西ヨーロッパで各地を旅してエンタテイメントを提供していたミンストレルからスペイン特有の表現方法が生まれ、初期スペイン演劇の語りと音楽それぞれに一般受けする要素を加えたと言える[5][6]。他方、新アリストテレス主義的批評と典礼劇が文学的、道徳的側面に影響を与えた。
芝居の種類

スペイン黄金世紀において登場した戯曲の数と多様性は世界の演劇史上でも先例のないものであり、イギリス・ルネサンス演劇にも劣らない[1][3][7]。1本の作品が1週間連続で上演されることすら珍しく、常に新作が劇場に供給されていた[8]。一方でこの数の多さについては、質よりも量を重視しているということでスペイン黄金世紀演劇に関して称賛のみならず批判のもとともなっている[9]。この時期には1万本から3万本の戯曲が書かれたと推定されており、中には今日でも傑作と考えられている作品が多数ある[3][9][10][11]。このように多数の芝居が上演されたことにより、スペインにおける演劇は非常にアクセスしやすい芸術となった[3]

ルネサンス期スペインの芝居は極めて多様であることで有名で、ヨーロッパでは唯一、世俗的な演劇と宗教的な演劇が同時に発展した[7]。さらに、国がスポンサーをつとめる演劇が大衆向けの商業演劇と共存しており、多くの演劇人は両者に有意な貢献をしていた[12]。スタイルの上では、ストレートプレイからオペラ、どたばた喜劇から叙事的悲劇まで幅広いジャンルにわたる[13]。スペインは新喜劇やサルスエラを発展させ、演劇の独自の形態やジャンルを築いていくようになった[14][15]
宗教的な演劇

聖体劇(autos sacramentales)は人間的、超自然的、寓意的なものを混合させた形で聖体拝領秘跡を祝う芝居である[2][16][17]聖体の祝日の行列がマドリードなど都市をパレードする際、二段になったカロス(carros)と呼ばれる山車二台か四台が配置されて、その上で上演された[2][16]。16世紀半ば頃まではギルドが上演の製作を行っていたが、それ以降は多額のお金をかけて地方自治体当局が上演をするようになった[2]。1550年代頃から、プロの劇団員と、市当局や教会両方がいりまじって上演を実施するようになっている[2]

聖体劇には時としてロア(Loa)と呼ばれる特別な導入用プロローグがついている。それぞれのロアは、上演された芝居及び上演が対象としていた観客にあわせて特別に作られたもので、これから見る芝居に対して観客の興味を惹きつけることを目指して作られていた[2]
公衆劇場アルマグロのコラール・デ・コメディアス

商業的な上演を行う公衆劇場は1570年代頃からスペインの主要都市に建設されるようになった。1579年、マドリード初の常設劇場としてコラール・デ・ラ・クルスが建てられた[2][18]。プリンシペ劇場は1583年にこけら落としした[19]。1584年中頃には、マドリードには他にも劇場があった[20]。しかしながら他の劇場が衰退したため、17世紀のマドリードではクルス劇場とプリンシペ劇場のふたつが主な常設劇場となった[21]

コラール・デ・コメディアス(複数形コラーレス・デ・コメディアス)は四方に壁がある中庭での上演を起源とする劇場で、三方を建物に囲まれた四角い中庭に設置された。舞台は常設の背景をつけて建てられ、上の階には立ち見客用の中庭向けテラスが置かれた[2][18]。アロヘリーアと呼ばれる売店があり、その上にもっと観客を入れられるギャラリー席があった[22]。カスエラと呼ばれる女性用の席と、アポセントと呼ばれるボックス席があった[22]。観客はしばしばうるさい音をたてて動いたり、手に負えなくなるようなふるまいをしたりした[2][18][23]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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