スプロール現象
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欧州におけるスプロール現象の指標。左上は市街地の分散(DIS)、右上は加重都市拡散(英語版)(WUP)を表す。フェニックス大都市圏の郊外住宅地。

スプロール現象(スプロールげんしょう、: urban sprawl)とは、都市計画がほとんど実行されなかった結果として、住宅、商業開発、道路などが、都市周縁の広範な地帯に無秩序に拡大すること[1]、加えてそうした現象が社会環境にもたらす影響のことである[2]

産業革命以後の都市においてスプロール現象は、郊外の市街地が城壁による保護を失うというような、直接的な不利益をもたらしているわけではない。しかし、スプロールには移動時間や交通費の増加、汚染、田園地帯の破壊といった諸問題があることが知られている[3]。また、郊外インフラの新規整備コストが固定資産税で回収されることはほとんどなく、多くの場合は公金、すなわち既存市街地住民から徴収された税金から、開発者や新規居住者への巨額の補助金が捻出されている[4]。スプロールを定義する構成要素が何か、スプロールをいかに定量化すべきかについては様々な主張がある。スプロールの進行状況を測定する基準としては、面積あたりの住居数の平均、脱中心化(中心市街外部への人口分散)の度合い、不連続性(後述するような「蛙飛び型開発」)、土地利用の分離といった要素が注目される。

「スプロール現象」という言葉は強い政治的意味合いを孕んでおり、往々にして否定的なニュアンスを含む。スプロールは環境破壊セグリゲーションの激化、市街地の活力の損害などをもたらすとされ、景観上の問題からも批判される。この用語には否定的文脈が多分に含まれるため、公然と支持する人は少ない。「スプロール現象」という用語は、都市成長を管理の必要性を強調するスローガンとして用いられることも多い[5]
定義米国北東部・ボスウォッシュの夜間光写真。郊外準郊外が広範な地域に広がり、スプロールを示している。

ケンブリッジ英英辞典によると、sprawlとは「座ったり寝たりしているときに、手足を乱雑にだらしなく広げること」である[6]。ロングマン現代英英辞典によると、「手足を投げ出して大の字になること」である[7]。転じて、無秩序・無計画に広がることを指す[6][8]

スプロール現象(urban sprawl)という語句は、1955年タイムズ紙の記事上において、ロンドン郊外の現状を否定的に表現する用語として初出した。スプロールの定義は曖昧であり、この分野の研究者も学術用語としての「スプロール」が正確さを欠いていることを認めている[9]マイケル・バティらはスプロールを「無秩序な成長。成り行きを気にせずにコミュニティを拡大していくこと。しばしば持続不可能とみなされる無計画かつ漸増的な都市成長」と定義する[10]。また、バスデブ・バッタ(Basudeb Bhatta)らはスプロールの明確な定義には議論があるものの、「複数のプロセスにより推進され、非効率的な資源利用につながる、無計画かつ不均等な成長パターンによって特徴づけられることには一定の合意形成がある」としている[11]

レイド・ユーイング(Reid Ewing)はスプロール現象を、「低密度ないし単一用途の開発」「線形の商業地開発」「断片化した開発」「蛙飛び型開発」という4つの構成要素のいずれか1つ以上に特徴づけられる都市開発であると定義した。ユーイングはスプロールを識別するためには、形態的な特徴よりも指標を用いるほうが、柔軟かつ恣意的でないため、有用であると主張した[12]。ユーイングはスプロールを識別するための指標として「アクセシビリティ」と「機能しているオープンスペース」を提唱した[12]。このアプローチは、スプロールがネガティブな特徴により定義されることを前提としているとして批判されている[13]。どの要素がスプロールを形作るかは程度問題とも考えられるし、数多くある定義の下ではいくらかの主観性は排し得ない[12]。ユーイングは、郊外の開発それ自体がすなわちスプロール現象となるわけではないと主張しているが[12]、ピーター・ゴードン(Peter Gordon)とハリー・リチャードソン(Harry Richardson)は「スプロール」という言葉が時として郊外化現象の単なる軽蔑的な言い回しとして用いられることを指摘している[14]
特徴
単一用途の開発詳細は「単一用途ゾーニング(英語版)」を参照

商業地域、住宅地域、施設地域、工業地域がそれぞれ分離されている状態を指す。その結果、広大な土地区画が単一用途で利用され、それぞれが空地、インフラ、その他の障害物により分断されている。その結果、人々の居住、労働、買い物、憩いの場となる場所は互いに離れており、通常、徒歩、交通機関の利用、自転車での移動が不可能なほどであるため、これらの活動には通常、自動車が必要となる[15]。この主題についての研究では、異なる土地利用がどの程度混在しているかの程度が、スプロールの指標としてしばしば用いられる[11]

この基準のもとでは、中国の都市化は「高密度スプロール」と分類することが出来る。この一見自己矛盾的な言葉は、ニューアーバニズムの理論家であるピーター・カルソープの造語である。カルソープは、中国のスーパーブロック(巨大な住宅街)は、高層建築物にもかかわらず、大部分が単一用途であり、巨大な幹線道路に囲まれているため、都市のさまざまな機能が切り離され、歩行者には不親切な環境になっていると説明している[16][17]
職場のスプロールと空間的ミスマッチブラジルサンパウロは世界有数の交通渋滞を抱えることで知られる[18]

職場のスプロール(Job sprawl)は、スプロールと自動車依存(英語版)が発生しているコミュニティで見られる土地利用状態のひとつであり、低密度で地理的に拡散した雇用パターンと定義される。このような現象の起こる大都市圏では雇用の大部分が主要都市の中心業務地区(CBD)の外部に位置し、ますます郊外の周辺部に移動しつつある。これは都市における負の投資の結果であることが多い。アメリカ郊外部の多くでは、自動車依存の通勤パターンがほとんどであるため、地理的に自由な職場立地が可能になっている。また、多くの企業がより地価が安く、拡張の余地がある低密度地域に拠点を置きたいと考えている。空間的ミスマッチ(英語版)は職場のスプロールおよび環境正義と関連する概念であり、職場のスプロール化と、逆方向通勤(英語版)を助ける公共交通機関の不足の結果として、都市部の貧困層―多くはマイノリティである―の求職が困難になる状況を指す。

職場のスプロールは、様々な方法で文書化され、測定されている。アメリカの大都市圏では、職場のスプロールの増加傾向が見られる[19]ブルッキングス研究所はこの主題について複数の論説を上梓している。2005年にマイケル・ストール(英語版)はCBDから半径5-マイル (8.0 km)以上離れた立地を職場のスプロールと定義し、2000年のアメリカ合衆国国勢調査をもとに職場のスプロールの進行状況を研究した[20] 。他にも、CBDを中心とした同心円を用いた異なる研究として、エドワード・グレイザー(英語版)による2001年の論文とエリザベス・ニーボーン(英語版)による2009年の論文がある。これらの研究では郊外に広がる都市周辺部では雇用が増え、CBDに近い地域では雇用が減っていることが明らかになった[21][22]。両人はCBDから半径35-マイル (56 km)以内について、3マイル (4.8 km)以内、3?10マイル (16 km)、10?35マイル (56 km)の同心円を用いて職場の郊外化を調査した。ニーボーンによる2006年の全国調査ではそれぞれの範囲に21.3パーセント、33.6パーセント、45.1パーセントの職場が分布することが明らかになった。1998年の職場分布はそれぞれ23.3パーセント、34.2パーセント、42.5パーセントであった。この調査によると、CBDにおける職場立地の割合は縮小し、職場の増加は郊外や都市圏外の同心円中に集中する。
低密度開発テネシー州における都市計画が不十分な準郊外地域。大規模な農場に低密度な住宅地が立地する。

スプロールはしばしば低密度の土地開発としても特徴づけられる[13]。「低密度」の厳密な定義には議論の余地があるが、一般的な例として広い区画に建つ一軒家が挙げられる。こうした建築物は通常低階層で隣家との間隔が広く、芝生や庭、道路や駐車場により区切られている。何をもって低密度とするかの具体的な尺度は文化相対的なものであり、たとえばアメリカでは1エーカーあたり2?4軒の住家で低密度とされるが、イギリスでは8?12軒でも低密度とされるだろう[13]


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