ストップ・トリック(英: stop trick)[1][2]は、映画の特殊撮影技術(トリック撮影)の1つである。ストップ・アクション(stop action)[3]、置換トリック(substitution trick)[4][5]とも呼ばれるが、英語ではサブスティテューション・スプライス(substitution splice)[6]、日本語では止め写し(とめうつし)[7]と呼称することもある。この手法はあるショットの撮影中にカメラを停止し、その間に特定の被写体を変更、追加、除去したりすることで、画面上で被写体が急に変身、出現、消失したりするという効果を生み出した。映画史初期に生まれた手法であり、フランスの映画監督ジョルジュ・メリエスが幻想的な効果を与える手法として確立し、当時普及したトリック映画などで広く使用された。 ストップ・トリックの手法は、まずカメラを固定して撮影を行い、その途中でカメラのクランク(初期のカメラにおける手回しのハンドルのこと)の回転を停止する。その間にカメラを同じ場所に固定したまま、対象(人や物など)をフレーム内の別の位置に移動させたり、フレーム外にどかしたり、別のものに置き換えたりしたあと、再びクランクを回して撮影を再開する。そうすることで対象が瞬間移動したり、忽然と消えたり、出現したり、または変身したりするといった、魔法のような効果を画面上に定着させることができた[8]。 1つのショットの中でストップ・トリックが用いられる場合、カメラを停止する前と後のテイクは、ショットよりも小さな映像単位としてのセグメントに分節化することができる[4]。この2つのセグメントは変更する対象以外のミザンセーヌの要素をそのままにした状態で注意深く繋ぎ合わされるため、カメラの中断で映像が分割されているにもかかわらず、得られる映像は目に見えない編集によるシームレスなワンショットとして認識することができる[9][10]。 この手法は、1コマずつの撮影によりショットを構成する手法であるストップモーションとは異なる[11]。 ストップ・トリック(ストップ・アクション)の手法自体は、1895年にアルフレッド・クラーク
手法
使用『メアリー女王の処刑』(1895年)ではメアリー・ステュアートが処刑される瞬間にストップ・トリックが用いられた。
その翌年、フランスの映画監督ジョルジュ・メリエスは、カメラの故障という偶然の出来事からストップ・トリックの手法と効果を発見した。メリエスは以下のように説明している。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}実のところ、全く単純なことなのです。撮影機(この頃の撮影機は初歩的なもので、フィルムがその中で引き裂かれたり、ひっかかったりすることがよくあり、また前に進まなくなることがありました)の故障が思ってもいなかった効果を生んだのです。ある日私は何となくオペラ座広場を撮影していました。故障して動かなくなっていたフィルムを直し、撮影機が再び作動するようになるのに、1分間が必要でした。この1分間に、通行人・乗合馬車・自動車がもちろん場所を変えていたわけです。切断の生じた点で再結合されたこのフィルムを映写すると、私は突然マドレーヌ=バスティーヌ間の乗合馬車が葬式馬車に変わり、男が女に変わるのを見たのです。置き換えのトリック、つまりストップ・トリックを発見したのです[15][16]。
メリエスはこの発見のあと、1896年10月に撮影した『ロベール=ウーダン劇場における婦人の雲隠れ』で、実用的な目的ではなく、魔法のような効果をもたらすトリック撮影の手法としてストップ・トリックを初めて使用した[17]。この作品は人体消失や変身の奇術を撮ったものであり、メリエス演じる奇術師が椅子に座った女性に布をかけ、そのあとに数秒間撮影を停止し、その間にメリエスは同じ姿勢を保ったまま、女性が素早くカメラの外にはけ、それから再びカメラを回してメリエスが大きな布を取ることで、女性を突然消失させた。この後、メリエスは同様の手順で骸骨を出現させ、さらにそれに布をかけて女性に変身させた[4][8][18]。