スチームパンク
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スチームパンク風の写真

スチームパンク(英語: steampunk)は、レトロフューチャーサイエンス・フィクションのサブジャンルの1つである。関連ジャンルとしてファンタジー歴史改変ものスペキュレイティブ・フィクションがある。
概要"Maison tournante aerienne" (旋回住宅)。アルベール・ロビダが自著『20世紀』につけた挿絵。19世紀に20世紀の生活を想像した作品

1980年前後が勃興期であり、1980年代から1990年代初めごろまで特に人気を博したが[1]、その後もSFの1サブジャンルとして定着し現在に至る。

現実世界における内燃機関が存在しないか研究中という設定のもとで蒸気機関が広く使われている前提があり、イギリスのヴィクトリア朝エドワード朝の雰囲気がベースとなっている世界観である。イギリス以外の国も概ねそれと重なる時代、アメリカでいえば西部開拓時代、日本でいえば明治時代?大正時代頃の近代化を推し進める文明開化から大正ロマンの雰囲気が代表的世界観である[2][3]。そのような世界観の中にSFやファンタジーの要素を組み込む。ヴィクトリア朝の人々が思い描いていたであろうレトロフューチャー時代錯誤テクノロジーまたは未来的技術革新を登場させ、同時にヴィクトリア朝のファッション、文化、建築スタイル、芸術を描く。スチームパンク的テクノロジーとしては、H・G・ウェルズジュール・ヴェルヌの作品にでてくるような架空の機械、最近の作家ではフィリップ・プルマンスコット・ウエスターフェルドチャイナ・ミエヴィルの作品にでてくるような架空の機械がある。

他のスチームパンクの例としては、飛行船アナログコンピュータチャールズ・バベッジエイダ・ラブレス解析機関のような機械式計算機といったテクノロジーを歴史改変的に扱うものもある。

文学以外では、様々な現代の実用的オブジェクトが職人によって擬似ヴィクトリア朝風の「スチームパンク」スタイルに変換・装飾されており、スチームパンクと称される芸術家や音楽家もいる。

ただし、取り入れられているのはあくまでもヴィクトリア朝のファッションやスタイルのみであり、ヴィクトリア朝の原理主義に近いほどのキリスト教信仰や、人種差別・階級差別・男女差別や異民族・異文化全般に対する蔑視などを基調とする、当時のかなり偏狭な価値観や道徳律は取り入れられていない(スチームパンク世界の価値観や道徳律は、一般に20世紀アメリカのものに近い、リベラル色がかなり強いものである)。
起源

今ではスチームパンクとされる作品が1960年代から1970年代にも出版されていたが、「スチームパンク」という用語は1980年代後半に「サイバーパンク」をもじって派生した。SF作家K・W・ジーターが、ティム・パワーズ(『アヌビスの門』、1983年)、ジェイムズ・P・ブレイロック(『ホムンクルス』、1986年)、そして自身(Morlock Night, 1979年 と『悪魔の機械』、1987年)の作品群を集合的に表す用語を探していて「スチームパンク」を思いついたと言われている[4]。これらの作品はいずれも19世紀を舞台としていて、実際のヴィクトリア朝のスペキュレイティブ・フィクション(例えばH・G・ウェルズの『タイム・マシン』)の雰囲気を真似ている。SF雑誌『ローカス』1987年4月号に掲載された手紙で、ジーターは次のように書いている。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}ローカス様

同封したのは1979年の私の長編小説 Morlock Night のコピーです。それを Faren Miller に渡していただけると大変うれしいです。これは「パワーズ/ブレイロック/ジーターのファンタジー3人組」の中で誰が最初に「イカれた歴史」を書いたかという重要な議論の証拠となるものです。ローカス3月号で彼女のレビューを拝見し、とてもうれしく思いました。個人的にはヴィクトリア朝ファンタジーは、パワーズとブレイロックと私の作品群を表す用語を見つければ、すごいことになるのではないかと思っています。その時代にふさわしいテクノロジーに基づいた何か、例えば「スチームパンク」のような…[5]
歴史上の先例19世紀フランスのユートピア的飛行機械 (1890?1900)

スチームパンクは、ジュール・ヴェルヌH・G・ウェルズメアリー・シェリーといった19世紀の科学ロマンスに影響を受け、そのスタイルを踏襲していることが多い[6]

このジャンルの発展を語る上で重要な作品がいくつか、ジャンル名が生まれる前に存在している。マーヴィン・ピークの『タイタス・アローン』(1959年)は、スチームパンクの要素の多くを先取りしていた[7]レメディオス・バロの絵画作品は、ヴィクトリア朝の服装や空想的イメージやテクノファンタジー的イメージを融合している[8]。スチームパンク的精神を広く示した最初期の作品として、CBSのテレビドラマ The Wild Wild West (1965年 ? 1969年)があり、後に設定を借りた映画『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(1999年)も製作された[6][9]。映画『未来世紀ブラジル』(1985年)もこのジャンルに影響を与えている[10][11]

K・W・ジーターがジャンル名を考案したことから、その小説 Morlock Night (1979年)がスチームパンクの原点とされることがある。キース・ローマーの『多元宇宙の帝国』(1962年)もこのジャンル形成に寄与している。ロナルド・W・クラーク(英語版)の Queen Victoria's Bomb (1967年)[12]マイケル・ムアコックの Warlord of the Air (1971)[13] も影響を与えた初期の例として引用されている。ハリイ・ハリスンの『大西洋横断トンネル、万歳!』(1973年)は異なる歴史の1973年の大英帝国を描いており、原子力機関車、石炭を燃料とする飛行艇、派手な潜水艦、ヴィクトリア朝風の会話が散りばめられている。
大衆的フィクションとしてのスチームパンククモの立体芸術作品。Daniel Proulx 作スチームパンク的衣装と武器

1982年のアメリカのテレビドラマ Q.E.D. はエドワード朝のイングランドを舞台とし、サム・ウォーターストン演じる教授が主人公である。この教授は発明家で、科学を用いたシャーロック・ホームズのような探偵ものになっている。

1988年に初版が登場した歴史改変SFロールプレイングゲーム Space: 1889 ではヴィクトリア朝時代の後に否定された科学理論が真実となっている世界を舞台とし、現実世界とは異なる科学技術が発展したという設定である[14]

ウィリアム・ギブスンブルース・スターリングの1990年の小説『ディファレンス・エンジン』は、スチームパンクを広く知らしめた作品としてよく引き合いに出される[9][15]


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