スタウト・スカラブ
イタリアのジェノヴァで展示されるスカラブ
オウルズ・ヘッド交通博物館に展示される1935年製スカラブ
概要
製造国 アメリカ合衆国 スタウト・モーターカー
設計統括ウィリアム・ブッシュネル・スタウト
スタウト・スカラブ(Stout Scarab)は、ウィリアム・ブッシュネル・スタウト (William Bushnell Stout) により設計され、スタウト技術研究所 (Stout Engineering Laboratories) と後にデトロイトのスタウト・モーターカー (Stout Motor Car) で少数が生産された1930年代から1940年代にかけてのアメリカ合衆国の乗用車である[1]。
多数の斬新さと革新性を持ち合わせたスカラブは世界で初めて製作されたミニバンと言われることもあり[2]、1946年に製作されたスカラブの試作車の1台は世界で初めてグラスファイバー製ボディとエアサスペンションを備えていた。 スカラブは同時期のほとんど車との類似点は無かった。実際当時の量産車は全て各々が独立したシャーシとボディを持っており、前車軸の後ろに縦置きされたエンジンを収めた長いエンジンルームがあり、その後ろに人が乗る空間が配置されていた。前に置かれたエンジンは通常車体の床下を通されたプロペラシャフトを通じて後輪を駆動していた。この機械配置は非常に信頼性の高いものであったが、空間利用という点では厳しい制限があった。 これに対してスカラブは一体構造ボディを使用し、車体の後部にフォード製V型8気筒エンジン (Ford Flathead engine
概要
非常に短い流線型の鼻先と後部上面が絞られた形状のボディは、現代のモノスペース(ワンボックス)のMPVやミニバンのデザインを先取りしたものであり、取り外し可能なテーブルや現在クライスラー社が「Swivel ’n Go.」として導入している180度回転して後ろ向きになる2列目シートを装備していた[4]。
スカラブの外観はクライスラー・エアフロー (Chrysler Airflow) 、流線形車両や空力効果を思わせるものであったが、当時は一般的には醜いという印象を持たれた。現在ではこの未来感あるデザインと曲線美の細部まで配慮された顔周りはアール・デコのアイコンという評価を受けている[5]。 長いホイールベースと通常のランニングボードを廃して車幅一杯までキャビンを広げたことが相まってスカラブはゆったりとした室内空間を実現していた。更にはエンジンを後車軸の上に配置し、ステアリング・ホイールが前輪のほぼ直上にくるほど運転席をはるか前方に追いやることで室内空間は最大限まで広げられていた。ドアは大型のものが一つだけで、車室内は固定された運転席以外は考え得る限りほぼ全ての座席配置が構成可能な可変座席機構があった。クライスラー・ボイジャーやルノー・エスパスといった現代のMPVにも負けず劣らず、望めば座席の間のどこにでも設置できる小型のカード・テーブルさえも備えていた。内装には皮革、クロームと木材が使用されていた。車のエンブレムを含めデザインの要素には様式化された古代エジプトの「スカラベ」 (scarab
革新的な特徴
革新性は車の構成やデザインだけに留まらなかった。路上を走るほぼ全ての車が板ばねで吊ったリジッドアクスルのリーフ式サスペンションを使用していた時代にスカラブは前後輪共にコイルばねの独立懸架を採用し、滑らかで静粛性に優れた乗り心地を提供していた。リアエンジン配置による荷重の偏重はコイルスプリングのサスペンションと相まってスカラブに非常に良好なハンドリングとトラクションを与えていた。長いコイルばねのストラットを使用した後輪のスイングアクスル式サスペンションは、航空機の降着装置から構想を得ていた[6]。スカラブのサスペンション自体は、後にロータス社が1957年のロータス・トゥエルブ (Lotus Twelve) から使用し始めたチャップマン・ストラット (Chapman strut) の発想の元になった[6]。
フォード社製フラットヘッドV8エンジンは、スタウト特製の3速マニュアルトランスミッションを介して後輪を駆動していた。エンジンは通常とは前後逆に後輪アクスル直上に搭載され、フライホイールとクラッチは前方を向いていた。