スケープゴート木
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Scapegoat tree
種類

発明者アルネ・アンダーソン、アイガル・ガリペリン、ロナルド・リベスト
ビッグオー記法による計算量 (en) 

アルゴリズム平均最悪の場合
空間O(n)O(n)
探索O(log n)O(log n)
挿入O(log n)償却されたO(log n)
削除O(log n)償却されたO(log n)

スケープゴートツリーは計算機科学における平衡二分探索木の一種である。Arne Anderssonと、Igal Galperinとロナルド・リベストによって発明された[1]。探索、挿入、削除の償却時間計算量がO(log n)であり、探索においては最悪時間計算量もO(log n)である。

探索の最悪時間計算量がO(log n)である他の平衡二分探索木と異なる特徴として、スケープゴート木はノードごとに新たな要素を持たないため、メモリオーバーヘッドがない。つまり、ノードはキーと左右の子を指す2つのポインタのみを保存する。この性質によって、スケープゴート木の実装が容易になる上、データ構造アライメントによりノードのオーバーヘッドを最大3分の1に削減できる。

多くの平衡木は、平衡を維持するために何度も簡単な処理を呼ぶが、スケープゴート木は複雑な処理を低確率で呼ぶという違いがある。スケープゴート木では平衡を維持するために、「スケープゴート」と呼ばれる特定のノードを根とする部分木を完全二分木として再構築する。したがって、スケープゴート木の更新の時間計算量は、最悪の場合O (n)である。
理論

二分探索木は、ノードの半分が根の左側にあり、もう半分が右側にある場合に、平衡であるつまり重みのバランスが取れていると言う。この概念を拡張し、α-(重さ)平衡なノードとは、以下の緩和されたウェイトバランス基準を満たすノードとして定義される。 size(left) ? α*size(node)size(right) ? α*size(node)

上記のサイズは次のように再帰的に定義される。 function size(node) is if node = nil then return 0 else return size(node->left) + size(node->right) + 1 end ifend function

α=1の場合、平衡から最も遠い木(すべてのノードが片方にしかノードを持たず、実質リストである状態)でもこの条件を満たすのに対し、α= 0.5はほとんど完全な二分木のみ条件を満たす。

α-(重さ)平衡の二分探索木は、α-高さ平衡である。つまり、 height(tree) ? floor(log1/α size(tree))

対偶により、α-高さ平衡でない木は、α-(重さ)平衡ではない。

スケープゴート木は常にα-平衡を維持するわけではないが、以下の緩和されたα-高さ平衡を保つ。 height(scapegoat tree) ? floor(log1/α size(tree) + 1

この高さ平衡条件に反する状態は、ノードの挿入時に検出でき、重み平衡に反する部分の存在も意味する。

このスケープゴート木高さの制限は赤黒木に似ている。 ただし、平衡のための操作(スケープゴート木の再構築、赤黒木の回転)が行われるノードの決定する実装が大きく異なる。赤黒木は場所を決定するために各ノードに追加の「色」情報を格納しますが、スケープゴート木は、再構築を実行するためにα-重さ平衡が満たされていないスケープゴートを見つける。これは、実際の回転がノードの平衡に依存するという点でAVL木似ているが、平衡を決定する方法が大きく異なる。 AVL木は挿入/削除のたびに平衡を確認するため、通常はその確認のための値「平衡係数」を各ノードに格納する。一方でスケープゴート木では、スケープゴートを見つける必要がある場合にのみ平衡であるかを計算し、新たな値をノードが持たなくて良い。

他のほとんどの平衡二分探索木と異なり、スケープゴート木はその平衡度合いに関して柔軟に対応できる。つまり、0.5<α<1である任意のαに対して実装が可能である。 α値が高いほど平衡から遠い状態を許容するため、平衡化の処理が起きにくくなり、挿入操作は速くなるが、探索と削除が遅くなる。αが低い場合はその逆である。 したがって、実際には、これらの操作の生じる頻度に応じてαを調節できる。
操作
探索

探索手法は標準の二分探索木と変わらない。平衡二分探索木なため、最悪時間計算量はO(log n )。スプレー木は探索に最悪時間計算量がO( n )であるため、スプレー木より効率的である。他の平衡二分探索木と比較すると、ノードのメモリオーバーヘッドが少ないため、参照の局所性による速度改善が可能である。
挿入

挿入操作は、一般的な二分探索木とほとんど同じだが、スケープゴートによる平衡化の処理が追加される。

挿入する場所の探索では、挿入するノードの"深さ"も記録する。これは、根から探索で子に移動する回数を数えるだけの単純なカウンターで実装すれば、根と挿入されるノード間の辺の数を効率的に(O(log n)で)計算できる。挿入するノードが(上記で定義された)α-高さ平衡条件に反している場合、以下の再構築を行う。

再構築は、スケープゴートを根とする部分木全体を平衡化する操作である。スケープゴートは、挿入されたノードの先祖であり、α-重み平衡が満たされないノードである。再構築を必要とするとき、つまりα-高さ平衡条件に反している場合には、そのような先祖は1つ以上存在する。 それらのいずれかをスケープゴートとして部分木を再構築することでα-高さ平衡の条件が満たされた木が得られる。

スケープゴートを見つけるためには、例えば挿入するノードから根まで遡り、α-重み平衡が満たされない最初のノードを選択すれば良い。

根に戻るには、根からの探索経路を保存したO(log n )のメモリか、各ノードが持つ親ポインタを用いれば良い。

上記のスケープゴートノードが実行可能なスケープゴートであるかどうかを判断するには、そのα-重み平衡が満たされているかを確認れば良い。これの確認には、定義通り以下を確認すれば良い。 size(left) ? α*size(node)size(right) ? α*size(node)

ただし、3つのサイズのうち2つを計算しておき、3つ目のサイズのみを計算することで、大規模に最適化できる。例えば挿入されたノードから順に根まで順次行うことで、スケープゴート木全体に処理を行う。親のノードを根とする部分木のサイズは、自分自身を根とする部分木のサイズと、兄弟(親が同じであるノードであり、自分自身ではないノード)の部分木のサイズと親のノードの数である1を足せば求まる。 size(parent) = size(node) + size(sibling) + 1

また、ノードを挿入する際にはノードを1つずつ挿入することから以下も成り立つ。 size(inserted node) = 1.

つまり、以下の計算を繰り返せば良い。 size[x+1] = size[x] + size(sibling) + 1

ここで、x は現在見ているノード、x+1 はその親である。size[x]は前回のsize[x+1] を再利用すれば良いため、size(sibling)が実際に必要な唯一の関数呼び出しとなる。スケープゴートを見つけると、スケープゴートを根とする部分木を再構築し、この部分木は完全二分木となる[1]。この再構築は、部分木のノードを、中央値を部分木のノードとするように再帰的に選択すれば、O( n )時間で実行できる。

再構築操作にはO( n )時間(部分木のサイズ)がかかるため、挿入の時間計算量は最悪の場合O( n )になる。 ただし、これらの最悪のケースは頻発しないため、挿入にかかる償却時間はO(log n )で済む。
挿入コストの証明の概略

ノード v の不平衡度を、左ノードと右ノードの間のサイズの差の絶対値から1を引いた物と0のいずれか大きい方として定義する。

I ( v ) = max ⁡ ( 。 left ⁡ ( v ) − right ⁡ ( v ) 。 − 1 , 0 ) {\displaystyle I(v)=\operatorname {max} (|\operatorname {left} (v)-\operatorname {right} (v)|-1,0)}

v を根とする部分木を再構築した直後ではI( v )=0 である。

補題: vを根とする部分木を再構築する直前では I ( v ) ∈ Ω ( 。 v 。 ) {\displaystyle I(v)\in \Omega (|v|)} ( Ω {\displaystyle \Omega } は漸近記法。)

補題の証明:


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