スクリーニング_(医学)
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医学におけるスクリーニング(: screening)とは、無症状の集団を対象に検査を行い、目標とする疾病の罹患者や発症が予測される患者をふるい分けるものである[1][2]。診断のために追加の精密検査を受けた方が良いかが分かり、早期治療や、根拠に基づく意思決定を行うための判断材料を提供することができる[3]。導入の原則として、早期発見が早期治療につながるという根拠があり、検出された疾病の確定診断法・治療法が確立されている必要がある[4][5][6]。すべての検査が、有益であるわけではなく、「過剰診断や偽陽性による不必要な検査、治療による健康リスク、不要な心理的ストレス(過剰医療)」「偽陰性による誤った安心感を与え、必要な医療が行われない(過少医療)」などがスクリーニングの潜在的な悪影響である[3][7][8]

有益な検診においても過剰診断等の不利益は一定の割合で生じるが[9]乳がん子宮頸がん検診、便潜血検査を用いた大腸癌検査などは、不利益を利益が上回るため公的に推奨されている[10][11]。しかし、メタボ健診福島県で行われている甲状腺がん検診など、効果が検証されないまま続けられる例もある[12][13]。医療機関が自費診療で、有効性が証明されていないPSA以外の腫瘍マーカーリキッドバイオプシー線虫検査などの体液生検)を用いた高価ながん検査を行う事例もある[14][15][16]。2022年、「国民皆歯科検診」が検討されるが、行政主導でスクリーニング検査の体制がいったん作られると中止することは難しく、効果を検証し、利益が害を上回らない場合には中止できる仕組みをあらかじめ作ることが求められる[17][18]
導入の原則

スクリーニングは診断を目的にしたものではなく、検査でふるい分けられた対象者に、より精緻な二次検査・診断と治療を提供したり、根拠に基づいた意思決定を行うための情報を提供をするものである[3][19]

検査で診断されると治療を中断するのは難しいため、医療関係者は検査の前に、検査のメリットとデメリットを正しく伝える役割がある[20][21]。スクリーニングは、当事者やその家族の人生に大きな影響を与えうる介入のため、質の高い実施体制、モニタリング、および効果を検証し、利益が害を上回らない場合には撤退できる仕組みをあらかじめ作ることが必要である[22][23]

スクリーニングを実施するべきか、誰を対象とするか、疾病の種類や検診方法はどうするかについては、科学的根拠と社会的価値観を踏まえ、個別の事情に合わせて判断しなければならない[22][24]
Wilson and Jungner基準

1968年、世界保健機関 (WHO) はさまざまなスクリーニングが明瞭な根拠や原則なしに普及することを懸念し、スクリーニングの原則と実践に関するガイドライン「Wilson and Jungner基準」を発表した[25][26]。患者がスクリーニングを要求する時は、スクリーニングに価値があるという信念に基づいているからであり、もしスクリーニングに利益以上に害があると判断される場合は、これを知らしめるのは医療従事者の役割であるとする[26][20]。この原則は医学的スクリーニングの基本的な国際基準として、現在も広く適用されている[26][27][22]。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}
スクリーニングのWilson and Jungner基準[26][27][28]


1 その疾病は、重要な健康問題でなければならない

2 疾病に対して治療が必要である

3 診断と治療のための施設が利用可能でなければならない

4 疾病の潜伏期がある

5 その疾病に対して適切な検査や試験方法がある

6 その検査は住民に受け入れられるものでなければならない

7 疾病の潜伏期や発症してからの期間を含んだ自然経過が十分に理解されている

8 誰を治療するかについて、合意された方針がある

9 症例を発見するための総費用は、医療費全体との関係で経済的に均衡のとれたものでなければならない

10 症例発見は「一期一会」ではなく、継続的なプロセスであるべきである[29]

1968年のウィルソン基準の後、40年にわたって基準のブラッシュアップが行われてきた。そして、40年後の2008年、新しいゲノム技術の出現に伴い、WHOはこれらを新たな理解のもとに以下のように統合・修正した[30][31]
過去40年間に提案された新しいスクリーニング基準の統合


スクリーニングプログラムは、認識された必要性に応えるべきである

スクリーニングの目的は、当初から定義されなければならない

対象集団の定義が定められていることが必要である

スクリーニングプログラムの有効性を示す科学的証拠があるべきである

プログラムは、教育、検査、臨床サービス、プログラム管理を統合したものでなければならない

スクリーニングの潜在的なリスクを最小化するためのメカニズムがあり、品質保証があるべきである

プログラムは、情報に関する権利と守秘性、自律性の尊重を保証するものでなければならない

プログラムは、対象者全員に対する公平性とスクリーニングを受ける機会を促進するものでなければならない。

プログラムに対する評価は、事前に計画されていなければならない

スクリーニングで得られる利益は、害を上回るべきである[31]

スクリーニングの様々なタイプ
対策型検診と任意型検診

対策型検診」:集団全体の死亡率減少を目的として、一定の年齢範囲の住民など全員に公共政策として行う[32][33]


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