スクミリンゴガイ
分類
スクミリンゴガイ(学名 Pomacea canaliculata)は、リンゴガイ科(リンゴガイ、アップルスネイル)に属する淡水棲の大型巻貝である。俗にジャンボタニシと呼ばれる[1]が、タニシとは異なる。
南アメリカ原産[2]。日本では食用を目的とした養殖用に台湾から持ち込まれたのが野生化した外来種であり、イネを食害することから、防除対象になっている[1]。 淡水巻貝としては極めて大型である。オスは殻高25 mm、メスは30 mmが性成熟した個体で、成体は殻高50 - 80 mmに達する。卵召は多数が固まった卵塊を形成し、陸上の乾燥に耐えうる固い殻を有し、鮮やかなピンク色で目立ちやすい。 自然分布の野生個体は、南アメリカのラプラタ川流域に生息するが[3]、原産地外の世界各地に著しく移入させられて定着している。 巻貝としては歩行速度が非常に速い。雑食性で、植物質、動物質を問わず、水中の有機物を幅広く摂食するが[4]、タニシ類と異なり、濾過摂食は行わないと考えられている。 水面から離れた植物体表面や岸辺の壁面に産卵し、直後は1個1個の卵を結着している粘液が柔らかいが、やがて硬質化して付着箇所から容易には剥がれない状態となる。卵塊は鮮やかな鮮紅の警戒色を呈し、卵内部は神経毒のPcPV2
形態
生態
孵化は酸素を要すため、水中では孵化できず、水中へ没すると卵塊のまま駆除が可能である。日本の夏季の気候で2週間程度で孵化し、幼体は水温と栄養状態に恵まれれば、2か月で性成熟する。
鰓呼吸だけでなく、肺様器官で空気中の酸素を利用して乾燥に強く、乾期などに水中から離れても容易には死亡しない。耐寒性はそれほど高くなく[4]、日本で越冬に成功する個体の大半は、殻高1 - 3センチメートルの幼体である[4]。寿命は環境により変化するが、日本の野外で2年以内、飼育下では4年程度と見られ、天敵は魚類、鳥類、捕食性水生昆虫、大型甲殻類、カメである[4]。
日本では西日本で多く観察される。2020年6月末時点で31府県で生息が確認されている[1]。 「ジャンボタニシ」の呼称があり、かつてはタニシと同じタニシ上科
分類
日本にはリンゴガイ属 Pomacea のうちスクミリンゴガイとラプラタリンゴガイ Pomacea insularum が生息するが、これらは形態では区別が困難である。アジアに主に生息するのはスクミリンゴガイであるが、ラプラタリンゴガイ、Pomacea diffusa、Pomacea scalaris も発見されている[3]。
アジアに移入された種はかつてラプラタリンゴガイとされてきたが、1986年に日本産の種はスクミリンゴガイと同定された[3]。遺伝子解析ではいくつかの県でラプラタリンゴガイも発見されている[7]。
人間との関わり
要注意外来生物
日本へは食用として、1981年(昭和56年)に台湾から[8]長崎県と和歌山県に初めて持ち込まれた[9]。本種の養殖は減反政策に合った水田転作として脚光を浴び[10]、育成内職商法の商材としても使用[11]された。1983年(昭和58年)には養殖場が35都道府県の500か所にものぼった[9][12]が、日本の食卓には合わず需要が少なく採算が取れないため、スクミリンゴガイは廃棄された。植物防疫法より有害動物に指定された1984年(昭和59年)以降、廃棄されたり養殖場から逸出したりした個体が野生化し、分布を広げている。この経過は、アフリカマイマイの場合と共通している。本種は 外来種であり、要注意外来生物(外来生物法)、日本の侵略的外来種ワースト100、世界の侵略的外来種ワースト100リスト選定種の1種ともなっている。一方で、本種に対する規制は2020年(令和2年)時点で「要注意」に留まり実質的な罰則が無い状態である。これは特定外来生物への指定が植物防疫法による輸入規制と二重規制になるという理由で見送られ、のちに植物防疫法への指定が「国内への蔓延」を理由に撤廃されたことによる[13]。
農業害虫
水田に生息して田植え後の若いイネを食害するため、東アジア・東南アジア各地でイネの害虫となっている[9]。生息地では、用水路やイネなどに産みつけられる卵塊の鮮やかなピンク色が目立つので、すぐに分かる。水路の壁一面に卵塊が張り付くこともあり、美観上の問題となっている場所もある。日本の農林水産省が2020年に設置した水稲病害虫防除対策全国協議会で重点対策の対象に位置付けられており、マニュアルでは春夏は薬剤散布や水田への侵入防止などの対症療法、秋冬は重機を使った耕耘による破砕や泥ごと水路からすくい上げて越冬できなくすることを勧めている[14]。