ジョーカー・ゲーム
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2012年公開の日本映画については「ジョーカーゲーム」をご覧ください。

ジョーカー・ゲーム
ジャンルミステリースパイ
小説
著者柳広司
イラスト森美夏
出版社角川書店
刊行期間2008年8月31日 -
巻数単行本:既刊4巻(2015年1月現在)
文庫版:既刊4巻(2016年3月現在)
漫画:Dの魔王?ジョーカー・ゲーム?
原作・原案など柳広司
作画霜月かよ子
出版社小学館
掲載誌週刊ビッグコミックスピリッツ
月刊!スピリッツ
レーベルビッグコミックス
発表号2009年6・7合併号 - 18号
(週刊ビッグコミックスピリッツ)
2009年10月号 - 2010年7月号
(月刊!スピリッツ)
巻数全3巻
話数全17話
漫画:ジョーカー・ゲーム
原作・原案など柳広司
作画霜月かよ子
出版社小学館
掲載誌週刊ビッグコミックスピリッツ
レーベルビッグコミックス
発表号2014年51号 - 2015年8号
巻数全1巻
話数全8話
漫画:ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION
原作・原案など柳広司(原作)
作画仁藤すばる
出版社マッグガーデン
掲載誌月刊コミックガーデン
レーベルブレイドコミックス 
発表号2016年3月号 - 2018年2月号
巻数全5巻
アニメ
原作柳広司
監督野村和也
シリーズ構成岸本卓
脚本岸本卓
キャラクターデザイン矢萩利幸
メカニックデザイン常木志伸
音楽川井憲次
アニメーション制作Production I.G
製作JOKER GAME
ANIMATION PROJECT
放送局AT-XTOKYO MXほか
放送期間2016年4月5日 - 6月21日
話数全12話
テンプレート - ノート
プロジェクト漫画アニメ
ポータル文学漫画アニメ

『ジョーカー・ゲーム』 (JOKER GAME) は、柳広司による日本の短編ミステリースパイ小説。または、下記する続編を含めたシリーズの総称である。『D機関シリーズ』とも呼ばれている。
概要

柳はデビューから一貫して歴史上の偉人を重要な役割として扱っていたが、本作においてオリジナルのキャラクターを主役として扱い作風の変化を見せた。

2008年度の「このミステリーがすごい!」で第2位に、週刊文春ミステリーベスト10で第3位にランクインした。2009年、第30回吉川英治文学新人賞および第62回日本推理作家協会賞を受賞した。2021年2月時点でシリーズ累計発行部数は130万部を突破している[1]

続編として2009年8月に『ダブル・ジョーカー』、2012年3月に『パラダイス・ロスト』、2015年1月に『ラスト・ワルツ』が発売されている。

2015年1月に実写映画化された。同年8月にはProduction I.Gによるテレビアニメ化が発表[2]。2016年4月より放送された。また、放送に連動してアニメ版に準じたコミカライズが月刊コミックガーデンにて連載された。
あらすじ
ジョーカー・ゲーム
ジョーカー・ゲーム
昭和12年秋、陸軍中枢部の多数の反対意見を押しのけて、結城中佐の提案でスパイ養成学校「D機関」が設立された。訓練生たちは互いの素性を知らないまま様々な訓練を受け、やがて優秀なスパイへと成長していく。参謀本部から連絡係兼監視役として派遣されていた佐久間中尉は、天皇崇拝について平気で議論を交わし、『名誉の戦死』についても簡単に嘲笑う訓練生たちを「怪物」と評した。昭和14年、佐久間は参謀本部の武藤大佐の命令で、D機関の訓練生たちと共にスパイ疑惑のあるアメリカ人ジョン・ゴードンの自宅を捜索することになった。佐久間たちは憲兵隊に偽装して捜索を始めるが、ゴードンが全く抵抗しないことに疑念を抱く。そしてゴードンが「二度目の捜索」と口走ったで佐久間は武藤の命令の意図を理解した。武藤は既に一度捜索に失敗しており、その失敗を有耶無耶にするためにD機関に二度目の捜索を命令し、失敗の責任を佐久間と結城に押し付けてD機関を解体しようとしていたのだった。さらに訓練生の1人である三好が、「もし今回も何も見つからなかった場合は、詫びとして彼がこの場で腹を切る」と進言したため、佐久間は窮地に陥ってしまう。しかし、彼等と結城の言葉をヒントに佐久間は寸前で隠していた暗号表を見つけたため武藤の企みは失敗。さらに、自身も馴染みにしている料亭「花菱」にて、武藤が捜索の一件を外部に漏らしていたことと、女将から手渡された彼が落としたシガレットケースから、結城の偽装を突き止める。そして、一連の裏で結城はこれを利用してD機関への介入を止めさせ、参謀本部から多額の予算を手に入れることに成功していたのだった。三好の関心とその手腕を見た結城は佐久間をD機関に勧誘するが、「所詮は他者の知恵を借りて解決しただけに過ぎず、咄嗟の判断力のない自分はスパイには向いていない」ことと、「いざとなれば、国のために自分の命を捨てられる覚悟は変わらない」と言って断り、立ち去る結城の背を静かに見送ったのだった。
幽霊(ゴースト)
横浜で、紀元二千六百年記念行事を狙った爆弾テロ計画が発覚し、憲兵隊が捜査に着手した。捜査の結果、テロ計画メンバーの連絡場所に英国総領事のアーネスト・グラハムが頻繁に出入りしていることが確認された。憲兵隊はグラハムを逮捕しようとするが、誤認逮捕だった場合の日英関係悪化を懸念した参謀本部から捜査の延期を命令され、代わりにD機関が捜査を担当することになった。機関員の蒲生次郎は、『テーラー寺島』の店員という肩書きを使って顧客の一人であるグラハムのチェスの相手をする。という形で彼に接触し捜査を始めるが、不審な点は一切見付からなかった。しかし、テロ計画メンバーの連絡場所からは英国総領事館の物品が押収されており、グラハムが関与している可能性は払拭出来なかった。さらに、参謀本部の命令を無視した憲兵隊がグラハムの近辺に出没するようになったため、蒲生は総領事公邸への潜入を試みる。深夜、総領事公邸の書斎に潜入した蒲生は隠し金庫からグラハムの日誌を見つけ出すが、グラハムが過去に行った犯罪行為の記録こそ書かれているが、爆弾テロに関する記述は一切なかった。これ以上の証拠は見付けられないと判断した蒲生は書斎を出ようとするが、結城の「完全な調査はない」という言葉を思い出し、それをきっかけにテロ計画の全容を明らかにした。爆弾テロの首謀者は総領事館に務める中国人たちであり、グラハムは情報の運び屋として知らずに利用されていただけだった。グラハムの容疑が晴れ、蒲生はグラハムと別れることになった。その際、グラハムは「"夜の書斎で幽霊を見た"という妻の懇願と、彼女が先回りして親戚中のつてを頼り、英国政府内に自分のための要職を用意してしまった話を受けて本国に戻ることになった」と告げた。蒲生は金庫にあった例の日誌を思い出し、グラハムが極秘情報を取り扱う時が来たらその日誌を元に、今度は "過去からの幽霊" として再び相見える日を楽しみにするのだった。
ロビンソン
D機関員の伊沢和男は情報収集のためロンドンに潜入していたが、新米外交官がセックス・スパイに籠絡され伊沢の正体を話してしまったため、英国諜報機関のハワード・マークス中佐に捕まってしまう。伊沢は訓練通りの尋問対処を実践し、二重スパイに志願した。マークスは伊沢を疑い自白剤を投与し本性を探ろうとするが、自白剤を投与された伊沢が「結城に売られた」と叫び出したのを聞き、伊沢が本心で二重スパイを志願したと判断し、日本への偽情報を発信するように指示した。しかし、そのことも訓練には含まれており、伊沢は偽情報の発信と共に自身が捕らわれていることをD機関に伝えることに成功する。伊沢は隙を突き脱出を試みるが、マークスの罠にかかり追い詰められてしまう。しかし、伊沢は英国諜報機関に潜入していたスリーパーに助けられ、脱出に成功した。手筈通りの場所に向かうとD機関の協力者が待っており、伊沢は次の任地であるヨーロッパに向かった。伊沢は移動中の車の中で、結城から受け取った『ロビンソン・クルーソー』に登場する「フライデー」という人物のことを思い出していた。それは、スリーパーの暗号名だった。事件の真相は、防諜対策を疎かにする外務省への警告と最新式の暗号機を導入するために伊沢が捕まり、脱出することを結城が企図したものだった。
魔都
上海憲兵隊に配属となった元特高刑事の本間英司軍曹は、上官の及川政幸大尉から「憲兵隊内部の内通者を探れ」と命令される。その通達の最中に及川の自宅が爆破されるという事件が発生し、租界警察のジェームズ警部は、住居近くにいた二人の物乞いが起こしていた焚き火がペンキ缶に引火したことによる事故だと決めつける。だが、本間は内通者による警告だと感じていた。捜査の最中、特高時代に逮捕した塩塚朔に再会し、友人の草薙行仁がD機関のメンバーになっていることを聞かされた。さらにD機関が青幇と手を組み、中国経済を混乱させようとしていることも聞かされた。卑怯なやり方で戦争を有利に運ぼうとするD機関に対し、本間は嫌悪感を覚えた。その夜、捜査のため上海の歓楽街に向かった本間は草薙と出くわし尾行を始める。草薙は一軒のダンスホールに入り、その奥にある部屋に入った。本間も後に続こうとするが、ガードマンに制止されてしまう。しかし、本間がポケットから取り出した身に覚えのないコインを見たガードマンは、本間を部屋に通した。部屋の中は違法賭博場となっており、本間は草薙を探すが見付けることが出来なかった。その代わり、本間は違法賭博に明け暮れる及川の姿を目にした。数日後、本間は及川が憲兵隊の押収したアヘンを横流ししていたことを突き止めた。さらに、そのことに気付いた宮田伸照伍長を賭博場の少年に殺害させ、その少年も口封じに殺害していたことを知る。本間は及川に事実の公表を求めるも、そこへ共犯者の吉野豊上等兵が現れ、及川が隠匿のため自身の抹殺を目論んでいる事に気付く。しかし、「もしも自分に何か起きた場合、全ての真相を記した手紙が塩塚とジェームズ警部に届けられることになっている」と切り出すと、逃げられないと判断した及川は仕方なくそれを承諾した。ところが、突然吉野が恋仲だった少年を殺された怒りから及川を射殺し、当人もその場で自殺してしまった。後に残された本間は事態の処理に苦慮し、その場に立ち尽くした。実は、本間が出会った塩塚はD機関員の変装で、草薙と同一人物だったのであった。
XX(ダブルクロス)
陸軍からD機関にスカウトされた飛崎弘行は、卒業試験としてナチス・ドイツソ連の二重スパイだった、カール・シュナイダーの調査を任された。しかし、調査の途中でシュナイダーは何者かに殺害されてしまった。結城は他の訓練生たちに事件の調査を指示し、飛崎にはシュナイダーの恋人だった野上百合子の調査を指示した。シュナイダーが殺害された日の百合子のアリバイは完璧だったため、飛崎は結城の指示を不審に思った。しかし、百合子の供述に矛盾があることに気付いた飛崎が詳しく調査を進めた結果、シュナイダーを殺害したのは百合子だったことを突き止めた。彼女はシュナイダーが親友の安原ミヨコと浮気していたことに怒り殺害したと自供した。飛崎は、百合子が親代わりに自分を育ててくれた女性、西山千鶴に似ていたため判断を誤ったことを結城に指摘され、感情を完全に捨て去った他の訓練生との差を思い知らされた。飛崎は任務の終了と同時にD機関を辞め陸軍への復帰願いを提出した。陸軍は口封じの意味を込め、飛崎を最前線の部隊に配属させた。結城からの敬礼で見送られた飛崎は、D機関を後にし陸軍へと戻った。
ダブル・ジョーカー
ダブル・ジョーカー
陸軍中佐・風戸哲正は日々変化する世界情勢の中で、陸軍における諜報組織の設立を訴え、陸軍ナンバー2である阿久津中将から正式に諜報組織「風機関」設立の許可を得る。その際、阿久津からすでに陸軍に「D機関」という諜報組織が存在することを伝えられる。風戸の風機関設立の裏には、D機関への忌避から帝国陸軍の精神を備えた諜報組織が必要とする軍上層部の思惑があった。D機関の「死ぬな、殺すな」をモットーとし、陸軍のエリートである
天保銭組を使えないとする結城中佐に対抗するように風機関は諜報組織としての戦果を挙げていく。あるとき、再び阿久津中将から呼び出しを受けた風戸は、親英派でかつて英国外交官を務めたこともある白幡樹一郎が軍の最高機密とされている『統帥綱領』を盗読した疑いがあるとし、風戸に調査を命じる。そしてこの任務でD機関と風機関勝った方を正式に陸軍の諜報組織とすることを告げた。白幡の身辺を調査した風戸は、書生として住み込んでいる森島邦雄に目を付けた。森島は半朝鮮人という経歴があり、それを公にされると日本で不利な扱いを受ける。その情報を脅迫として森島を白幡邸での内通者として仕立て上げた。伊豆の旅館にて森島の報告を聞き終えた風戸は白幡の別荘への乗り込みを計画し、その際用済みとなった森島の酒に眠り薬を仕込み、事故に見せかけて海へ落とすよう部下へ命じた。その日の深夜、白幡邸に風機関を集合させ、乗り込んだ風戸は白幡邸に人の気配が一切ないことに愕然とする。さらにその屋敷の中にはD機関の結城中佐が待ち構えていた。風戸は結城が白幡に情報を漏らしたと憤慨したが、結城は旅館の女中が白幡に情報を伝えたことを告げる。この頃日本では、大陸の激戦続きで若い男がみな戦争に徴兵され、健康な若い男がこの頃まったく見られなくなっていた。そんな中、若く健康的な体つきの風戸たち風機関の面々は旅館の女中たちの目に留まり、彼女達は彼らが軍人であることに気付いていた。さらに、同じように健康的な若い男を書生として住み込ませている白幡の別荘もこの地域では有名であり、その中でも色白で美形だった森島は特に有名で、彼が普段酒を飲まないことまで知っていた。風戸が森島の始末のためのアリバイ作りのために飲ませた眠り薬入りの酒が裏目に出てしまったのだ。そして白幡が別荘から逃げ出した際に、彼が書いておいた『統帥綱領』のメモ書きを結城がすり替え手に入れていた。実は、風戸は用心のため見回りを兼ねて酔った振りをして隣の部屋を覗いていたのだが、その時中にいた老舗の番頭風の客こそが変装した結城で、風戸達の件もその時聞き出していたのである。先手を打たれていたことに愕然とした風戸だったが、結城が一人で来ていることを見て、風機関員たちに結城を捕らえさせ、統帥綱領のノートを手に入れれば挽回できると踏んだ。しかし、風戸の目の前に現れたのは自らが始末を命じたはずの森島だった。実はD機関は今回の任務のはるか以前から英国へのチャンネルとして白幡に目をつけており、森島邦雄はその渡り橋役としてD機関が派遣したスパイだったのだ。さらに風戸達が森島の “偽の経歴” に食いついたことで風機関の行動が全てD機関に筒抜け状態となり、序に逆スパイの役割を果たした森島は風機関員を全員拘束してしまったのである。自分では手を下すことなく自分たちD機関の影をちらつかせるだけで任務を成功させた結城への畏怖と、旅館の女中たちにあっさり素性を見抜かれ、森島を殺そうとしたことで情報の漏洩を招いてしまうという失態で風戸のプライドは崩れ去っていった。そんな中、結城は天保銭の意味を風戸に伝えながら、形ばかりの天保銭を過大に持ち上げる陸軍を批判し、森島と共に風機関から奪った車で立ち去った。その批判の裏には、旅館で風戸が上着を女中に預ける際に、その女中に上着の中に隠れて付けていた天保銭を見られたことが正体を見抜かれた原因でもあることを暗に示していた。屈辱の中で風戸は自らが誇りとしていた天保銭を引きちぎって床にたたきつけた。
蠅の王
北支前線にある粗末な野戦病院に務める脇坂衛陸軍軍医は、裏でモスクワのスパイとして暗躍していた。そこには治安維持法違反で逮捕され肺結核で亡くなった兄・脇坂格の存在があった。兄の遺した共産主義社会に関する書籍やノートを読み漁るうちに政治運動への関心を持った脇坂は、 医者の道を進む傍ら "K" と名乗る左翼運動家と接触し、彼の指示で軍医となって集めた情報を “ワキサカ式” と呼ばれる独自の通信手段でモスクワの同志に送っていた。これは、日本軍が盧溝橋付近での小競り合いを口実に、中央からの指示を無視して勝手に中国と本格的な戦闘を始めたことが切っ掛けであった。一ヶ月ほど前、脇坂の元に "K" から指示書が届く。そこには「蠅の王」と呼ばれる男がD機関を率いてスパイ狩りを行っているため注意せよという忠告と、スパイ・ハンターが「笑わぬ男」という暗号名を持ち、前線部隊を慰問して回る「わらわし隊」と関係があることが記されていた。脇坂はスパイと軍の二重生活とハンターの影に怯える中、偽情報を使って逆にハンターを炙り出そうと考える。そこへ「わらわし隊」に属する漫才コンビ『藤木藤丸』の藤丸がやって来て “笑わない目を持った男” の話をする。全てを悟った脇坂が慌てて引き返すと、突然何者かに襲われる。目を覚ました脇坂が見たものは、かつて彼が治療に当たっていた西村久志陸軍二等兵だった。彼こそが “笑わぬ男” にしてD機関員であり「わらわし隊」の慰問は脇坂をおびき出すための罠で、一ヶ月ほど前の "K" の手紙はD機関の偽装だった。さらにD機関は "K" の正体……片岡大尉のことまでとっくに突き止めていた。実は脇坂が発案した “ワキサカ式” と呼ばれる通信手段とは、顔と手の綺麗な支那兵の遺体に通信文を忍ばせ、さらに遺体に野犬が嫌がる匂いと防腐剤を振りかけて目印とする方法であった。脇坂は十日前、情報を伝達するために必要な遺体が見つからず、焦った末に偶然見つけた中国人の老人を殺し、その遺体を支那兵に仕立てて情報伝達に使用したのだ。D機関はその情報を「漫才コンビのネタにする」という形で脇坂をおびき出し、そのような手間をかけたのは彼や仲間達にこれ以上不自然な遺体を作らせないためだった。脇坂はD機関による “偽装の自首” という報復を食らった。
仏印作戦
中央無線電信所に勤める高林正人は、上司から仏印──フランスインドシナ連邦に軍属の電信係として出張を命じられた。詳しい説明がないことに憤ったが、新聞に掲載された記事によると、仏印に足止めされた?介石政権を支援する物資(援?物資)の封鎖状況を監視するための視察団の一員としての出張らしかった。そして出張先である仏印の首都ハノイでの業務は、視察団が作成した通信文の暗号化と暗号電文を東京の参謀本部に送ることだった。この奇妙な命令は、視察団の団長たる土家昭信陸軍少将率いる軍事専門家三十名が陸軍・海軍に分かれている上に双方に『交流』は一切なく、おまけに陸軍は小型無線機を持参しておらず、現地の無線機を使用するとのことであった。海軍側の無線機を使わないのは暗号表が異なる上に深い確執があるためやむを得なかったが、これでは仏印当局に電文が筒抜けではないかと高林が異議を称えると、土屋少将は「我が陸軍の暗号は最新型を刷新したばかりであって、たとえ何者かが盗み読んだとしても、内容を解読されることはありえない」と言い放った。こうして高林は毎日のように届く膨大な電文の暗号化に日々を費やされる傍ら、私生活ではダンスホールで知り合った女性・イエンと同棲を始め、通信内容を気にかけさえしなければそれなりに充実した日々を送っていた。ところが出張から一ヶ月後、高林は歓楽街からの帰宅途中突然何者かに襲われ、永瀬則之という男に助け出される。陸軍少将を名乗る永瀬は、高林が襲われたのは日本の暗号電文を奪うためであること、襲った男は?介石政権が雇ったスパイであること、さらに、これまで仏印経由で重慶政府に支援してきた英米諸国にとっても視察団の存在は脅威であり、参謀本部とのやり取りを知るために様々な手段を画策していることも話した。そして巻き込まれた高林にも、視察団に内密で極秘任務を手伝って欲しいと頼む。そして、永瀬が万が一問題になっても、これを出せば解決すると言って提示した名は『D機関』だった……。それから高林は永瀬と定時刻に待ち合わせをし、極秘の打電内容を記したメモを受け取ると、それを暗号電文化して通常通信の文の後に打電するようになる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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