ジメチルトリプタミン
IUPAC命名法による物質名
IUPAC名
2-(1H-indol-3-yl)-N,N-dimethylethanamine
臨床データ
法的規制
AU: Prohibited (S9)
CA: Schedule III
ジメチルトリプタミン(DMT)あるいは、N,N-ジメチルトリプタミン(N,N-DMT、N,N-dimethyltryptamine)は、トリプタミン類の原型となるアルカロイド物質で、自然界に発生する幻覚剤である。熱帯地域や温帯地域の植物や一部のキノコ、ある種のヒキガエル、ほ乳類、ヒトの脳細胞、血球、尿などに存在する。抽出または化学合成される。形状は室温では透明か、白、黄色がかった結晶。近い物質に、5-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン (5-MeO-DMT) がある。DMTは向精神薬に関する条約のスケジュールI。
シグマ-1受容体(英語版)に作用する[3]。依存性や毒性があるとはみなされていない[4]。DMTは、植物では昆虫の忌避作用があるため合成されておりオレンジやレモンの果汁にも微量に含まれる[5]。基礎研究から生体における低酸素ストレス時に肺によって大量に生合成され脳を保護するとされており、そのため生死をさまよった際に報告される臨死体験との関連が考えられている[4][6]。紀元前1000年以前から南米で植物を粉末にして吸引されていたとされる。DMTは経口から摂取した場合、モノアミン酸化酵素によって分解されてしまうが、これを阻害する成分と組み合わせて南米で伝統的にアヤワスカとして用いられてきた。DMT単体の治験も進行している。 塩基(アルカリ化反応)の状態で用いられるが、フマル酸塩など塩の状態(酸性化反応)ではより安定した物質である[7]。塩基では水に溶けず、塩では水に溶ける[7]。溶液中では分解が早いため、空気、光から保護された冷凍庫での保存が適する[7]。 古くからアマゾン熱帯雨林の中部と東部ではDMTや5-MeO-DMTを含む嗅ぎタバコやアヤワスカと呼ばれる飲料を摂取する習慣がある[10]。紀元前1200年前のペルーでは筒状の骨が発掘されており、DMTを含む植物を吸引したと考えられている[9]。紀元前700年から1100年のティワナクから筒と吸入粉末が発見され、粉末の化学分析によってDMTと5-MEO-DMT、ブフォテニンが検出されている[9]。モノアミン酸化酵素阻害薬 (MAOI) であるハルマリンを含む植物を一緒に煮込む飲料であるアヤワスカは、アマゾンのシャーマンの儀式にとってかかせないものとなっている。 コロンブスの2度目の航海に同行したスペイン人により、南アメリカの先住民族による幻覚剤の使用について、はじめて文書に記録されている。1931年、カナダの化学者リチャード・マンスケ(Richard Manske)がDMTの合成に成功したが、この時点ではその向精神作用までは明らかにされていなかったようだ。1946年には、ブラジルの民族植物学者デ・リマが、ミモサ・ホスティリス(現在はミモザ・テヌイフローラ
性質
歴史ネコ科のすり鉢とネコ科と蛇の形をしたすり棒は、小さいため幻覚剤や顔料をすり潰したと考えられている。ペルー北部の神殿遺跡、紀元前900-500年のパコパンパ遺跡より。[8]DMTを含む植物をすり潰した[9]。
LSDなどの幻覚剤が1960年代にかけて乱用され、1971年の向精神薬に関する条約ではDMTも一覧に挙げられた。規制により研究は少なくなったが、それでもニューメキシコ大学のリック・ストラスマン(英語版)は、主観的作用や耐性を生じるかといった研究を実施してきた。2009年にはシグマ-1受容体(英語版)に作用していることが解明された[3]。
21世紀となり、南米での伝統的なアヤワスカの使用に対する科学的な研究、治療効果や肯定的な変化を与える影響について調査されてきた。また2020年ごろにはDMTを医薬品とする臨床試験が進行している。 DMT単体による臨床試験が実施されるようになり、イギリスの規制監督庁は、2020年にうつ病治療のためのDMTの使用に関する初の臨床試験を承認し、スモールファーマ社とインペリアル・カレッジ・ロンドンが共同で試験を行うが、心理療法の前にDMTによって抑うつ的な思考の繰り返しを抑えることが目的[13]。DMTは静脈投与(注射)され持続時間は20分であり[14]、治療セッションではすべてを含めて2時間もかからない[13]。同様の治験が進行しているシロシビンでは効果の持続時間だけで6時間となる[15]。2022年に開始されるこの治験の第IIa相試験では、12週間後の効果までを追跡する[16]。
臨床研究