ジビエ
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捕獲されたジビエ(ジュゼッペ・レッコ作)

ジビエ(: gibier)とはフランス語であり、狩猟によって、食材として捕獲された狩猟対象の野生の鳥獣、またはその肉を指す[1][2]英語圏ではゲーム(game)または、クワォリー(quarry)と呼ばれ、獲物を意味する。日本語には野生鳥獣肉と訳される[3][4]畜産との対比として使われる狩猟肉のことである。

本来はハンターが捕獲した完全に野生のもの(: sauvage、ソヴァージュ)を指すが、供給が安定しない、また入手困難で高価になってしまうといった理由で、飼育してから一定期間野に放ったり、また生きたまま捕獲した後に餌付けしたりした動物もドゥミ・ソヴァージュ(: demi sauvage、半野生)と呼ぶ場合もある[5]

近年では農作物被害対策として狩猟された鳥獣を「ジビエ」として供給するビジネスが徐々に拡大しつつある[6]。生または加熱不十分な野生鳥獣の肉には、E型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌または寄生虫による食中毒や寄生虫のリスクがあるため中心部まで火が通るように加熱調理が必要である[7][8]
工程

ジビエのハンティングでは、銃弾の種類によっては可食部分が大きく損傷してしまったり、内臓が飛び散って味が悪くなってしまったりすることがある。ジビエ特有の獣臭は血抜きの技術に大きく左右され、が残っているほど臭いは強くなる。

逃げ回った獣は体温が上昇しており、なるべく早く肉を冷やさないと急速にうま味が損なわれると信じられている。そのため仕止めた後も、血抜きや解体といった処理を行う習慣がある。解体は内臓を摘出し、一旦きれいな水で肉を冷却し、皮を剥いで脱骨や精肉をする。

最近のジビエブームでは、獲ってすぐに食べるのではなく、数日から1か月程かけて熟成(: faisandage、フザンダージュ)させてから調理することを主張する者もいる[9]。熟成肉には後述の国産ジビエ認証制度まで長らく統一規格が存在せず[10]、稚拙な方法を用いれば食中毒や有害カビ増殖など、健康被害のリスクを高めることになる[11]

解体処理施設まで50-100s近い巨体の動物を山から移動させるのは大変である。移動式解体処理車(ジビエカー)という移動式の処理施設もあるが、導入コストも高く採算に合わないとして補助金が得られないケースもある[12]

野生の鳥獣は冬に備えて体に栄養を蓄えるため、秋がジビエのとなる。これはジビエのの内容物を調べることでよくわかる。冬季にはジビエの餌となる果実などが減少するため、年越し頃から一般に肉質は低下する。また、繁殖期前は脂が乗り味が良くなるが、繁殖期を過ぎると一気に味が落ちる[13]夏バテをしやすい動物もいる。旬を見極めるには知識が必要である。ヨーロッパではエボラ出血熱(EVD)の流行とともに政府や自治体により、ジビエの取り扱い(解体法・調理法)に注意喚起を促す広報活動が行われている。
主なジビエ
鳥類
マガモ(colvert、コルヴェール、真鴨)
血の色が濃く、野趣に満ちた味を持つ。雌の方が脂肪層が厚く、風味も強いとされている。ちなみにコルヴェールとは「緑の首」という意味であり、日本語でのの異称である「青頸」(あおくび)と同義である。
アヒル(canard、カナール)
鴨が家禽化されたものだが、ドゥミ・ソヴァージュによってジビエとなる。シャランデ鴨(Canard challandais)が特に有名で、雛を一週間飼育した後に2か月ほど自然の中で生育させる。屠殺する場合は針を打って仮死状態にした後、窒息死させる。
ヤマウズラ(perdreau、ペルドロー)
ヤマウズラ(ペルドリ)代表的な鳥のジビエ。1歳以下の若鳥をペルドローといい、それ以上をペルドリ(perdrix)と呼んで区別する。肉質は淡白な灰色のもの、野性味の強い赤色のものとがある。現在出回っているものはほとんどがドゥミ・ソヴァージュである。
キジ(faisan、フザン)
キジもポピュラーなジビエである。雄より雌の方が肉質が柔らかく、珍重される。なお、肉の熟成を意味する「フザンダージュ」は、キジのフランス名に由来している。
ライチョウ(grouse、グルーズ)
日本では天然記念物であるため狩猟できないが、フランスでは比較的よく見かけるジビエ。肉は赤身で、独特の香りがある。エゾライチョウは狩猟対象ではあるが、減少傾向にある[14]
ヤマシギ(becasse、ベカス/ベキャス)
肉質は柔らかく、ジビエにしては繊細。内臓が特に珍重され、付けたまま料理される。また、裏漉しした内臓をソースに加える料理も多い。非常に希少価値が高く、乱獲されたため、こちらは逆にフランスで禁猟となっている。
獣類

熊肉鹿肉猪肉カンガルー肉、象肉(英語版)、アリゲーターミート(英語版)
野ウサギ(lievre、リエーヴル)
ジビエの中ではクセが強く、また肉質も硬くパサつきやすい。火の入れ方、スパイスハーブの使い方など調理に気を遣う食材である。1匹を丸ごと煮込む「ロワイヤル」と呼ばれる調理法が代表的である。また、血をソース(シヴェ・ソース)のつなぎに使って野性味を強調することも多い。一方、家禽のウサギはラパン(lapin)と呼ばれ、リエーヴルよりも淡白な味わいで知られる。
シカ(chevreuil、シュヴルイユ)
クセの少ない淡白な赤身肉。ヨーロッパでは2歳くらいの個体を使う。頭や首の急所を狙って一発で即死させないと暴れて肉に血が回ってしまうため、ハンターの腕が問われるところである。血抜きも即座に行わなくてはならない[15]
イノシシ(sanglier、サングリエ)、仔イノシシ(marcassin、マルカッサン)
日本では成獣を狩るが、フランスでは肉が硬くなるのを嫌って、まだウリ坊の幼獣を対象とする。オス豚は若いころに去勢を行い肉に雄臭が出ないようにするが、野生では去勢など行っているはずもなく、特に発情期の雄は臭いがある[16]。味、料理法等は豚肉に準じる。
クマ(ours、ウルス)
肉の大半は脂身で、口どけが良い。赤身は筋張って臭みがある。発酵温度が非常に高く、冷蔵庫では腐敗するので、冷凍に近い温度で熟成させる。シカやイノシシと違い、脱骨済みの部位で流通している[17]
アライグマ(ratons laveurs、ラトン・ラヴール)
ドイツ、フランス、日本に野生化し、駆除対象とされた北米原産アライグマは、近年ジビエとして現地にて利用され始めている。脂の下処理後の赤身肉のみを、香味野菜と長時間煮込む調理法が一般的。
日本におけるジビエ詳細は「日本の獣肉食の歴史」を参照

古代には狩猟・肉食が行われていたが、不殺生戒を持つ仏教の普及により下火になった。しかしマタギを含めた猟師がシカやクマ、イノシシを獲っており、山岳地ではツグミやキジなどの野鳥も食べられていた。ウサギを一羽二羽と数えるのも、鳥と偽りながら食べられていた名残である。江戸時代江戸においては近郊の農村から仕入れたその手の肉を取り扱うももんじ屋と呼ばれる店が存在していた。そのため、実際には日本人もジビエを食べてきたといえる。

明治時代以降、国民的に肉食が広まった。1990年代の中頃から、フレンチ食材としてのジビエが日本に輸入されるようになった。ピジョン()、コルヴェール、ペルドロー、フザン、リエーヴル、シュヴルイエなどがフランスから入ってきている。ただし全てがフランス産という訳ではなく、ベルギーイタリアスペイン、ドイツ、さらにはオーストリアなどで獲れたジビエがいったんフランスに集められる。これは日本における検疫の都合による。テレビ番組『料理の鉄人』で「ジビエ対決」[18]が組まれるなど、知名度が上がるにつれて、ジビエ料理を出すレストランも増えてきている。

現在日本ではジビエを入手するには専門の業者・肉屋に依頼する方法が一般的であるが、国内の猟師とつながりのある肉屋、または食肉処理施設を持つ猟師から直接買い付ける方法もある。飲食店や販売店が狩猟者から直接仕入れることはできず、食品衛生法に基づく食肉処理業の営業許可を得た施設で解体する必要がある。2014年、厚生労働省は野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)を策定し、狩猟から解体処理、加工、調理の際に守る衛生管理の方法を定めた。ただし違反しても罰則は無い。


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