シングル8(シングルエイト、英語: Single-8)は、1965年(昭和40年)4月に発表された個人映画向けのムービーフィルムの規格である[1]。富士写真フイルム(現在の富士フイルムホールディングス、事業継続会社は富士フイルム、以下富士フイルムと表記)が開発した、コダックのスーパー8のオルタナティヴ的存在である[2]。 フィルムそのものは薄型だが、スプロケット穴や音声トラックという側面で見れば、シングル8はスーパー8と同じである。シングル8のフィルムは、スーパー8用の映写機でも上映可能であり、逆にスーパー8フィルムをシングル8用の映写機にかけることも可能である。シングル8のフィルムは、B字型カートリッジに充填した形でパッケージになっており、スーパー8の同軸システムとは異なる2つに分かれたスプールをもつ。その結果、シングル8は巻き戻しに制限がない。一方、スーパー8は、数秒分に限定された巻き戻ししかできず、カートリッジの内側に巻き上げるに十分な空間に頼るしかない。シングル8カートリッジは、撮影機のフィルムゲイトを利用し、露光の間にフィルムを支持するように設計されており、一方、スーパー8では、プラスティック製の圧迫板がカートリッジの内部にあって支持している。 富士フイルムのシングル8用フィルムが、コダックのスーパー8用フィルムよりも薄いのは、ポリエステル製だからであり、そのおかげで、シングル8とスーパー8のフィルムをつなぎ合わせて完成した映画があるとすれば、映写の際には、焦点の調整を要することになる。(焦点の調整を要しない映写機種が一部に有る。エルモVPシリーズ、ボリュー等) スーパー8なみに国際的にポピュラーな規格とはいえないが、シングル8はスーパー8に平行して、存在し続けている。2010年(平成22年)5月まで、富士フイルムは2種類のシングル8用フィルムを製造していた[5]。デイライト用のフジクロームR25N、室内撮影向けタングステン用の同RT200Nである。いずれもサイレント・アフレコ用であり、サウンドフィルムは製造されておらず、現像後のフィルムに音声磁気テープを加えることは可能である。このオプションは、富士フイルムの現像サービスに送ったときには選択できるものである。2009年(平成21年)6月2日の同社のアナウンスによれば、すでに製造販売を終了した「フジクロームRT200N」に続いて、残る「フジクロームR25N」も2012年(平成24年)3月には製造販売を終了、2013年(平成25年)9月には現像サービスも終了する[6]。 富士フイルムの純正フィルムのほか、日本の企業、レトロエンタープライズが白黒フィルムを提供している[7]。シングル8用白黒フィルムレトロXは、ISO200のリバーサルフィルムであり、ドイツで製造されている[7]。同社はほかにも、カラーのデイライト用リバーサルフィルムRK100Dを製造・販売している[7]。
歴史
1932年(昭和7年)、コダックが、ダブル8(スタンダード8mmフィルム (Standard 8 mm film) 、16mmフィルムを使用)用の撮影機シネコダック(英語版)を発表[1]
1935年(昭和10年)、ベル&ハウエル、ダブル8を縦に切断したフィルム「ストレイトエイト」用の撮影機フィルモ127-Aを発表
1937年(昭和12年)、アグファ、ダブル8を縦に切断したフィルムをカセットに収めた「モヴェックス8」用の撮影機モヴェックス8(ドイツ語版)を発表
1953年(昭和28年)1月、富士フイルム,ダブル8用「ネオパン反転8mmフィルム」(感度ASA40)を発売[1]
1957年(昭和32年)3月、富士フイルム、ダブル8用「フジカラー8mmフィルム」(外型反転方式,感度ASA10)を発売[1]
同年8月、富士フイルム、ダブル8用映写機「フジスコープM-1」を発売[1]
1958年(昭和33年)10月、富士フイルム、磁気録音再生方式のダブル8用映写機「フジスコープサウンド」を発売[1]
1959年(昭和34年)、富士フイルム、8mmフィルムの新システムの研究チームを始動、甲南カメラ研究所(現在のコーナンメディカル)に参加を要請[1]
同年11月、甲南カメラ研究所、「シングル-8システム」のフィルムマガジンを開発[3]。
1960年(昭和35年)11月、富士フイルム、ダブル8用撮影機「フジカ8T3」を発売[1]
1961年(昭和36年)、富士フイルム、ダブル8用撮影機「フジカ8EE」「フジカ8Z4」を発売[1]
1962年(昭和37年)、富士フイルムが、キヤノン、ヤシカ(のちに京セラに買収されて統合、商標使用権をエグゼモードに売却)、小西六写真工業(現在のコニカミノルタホールディングス)に協力を要請[1]
1963年(昭和38年)5月、コダック、アグファ、ベル&ハウエルに協力要請、コダックは新システムの予定なし、アグファはよければ採用したいと回答[1]
同年7月、富士フイルム、開発中の新システムに二軸・直列のマガジン方式の採用を決定[1]
1964年(昭和39年)、富士フイルム、ダブル8用撮影機「フジカ8ズームデラックス」(4倍ズーム)を発売[1]
同年3月-10月、富士フイルム、日本のカメラメーカー13社およびアグファとともに共同開発に関する基本契約を締結[1]
同年5月、富士フイルム、新システムの名称を「ラピッド8」と内定[1]
同年7月、富士フイルム、開発中の新システムに黒白フィルム・カラーフィルム規格を決定[1]
同年8月、コダック、画面サイズ5.36mm×4.01mmによる新システムスーパー8を発表[1]、富士フイルムは画面サイズ4.37mm×3.28mm(ダブル8と同等)で開発していた「ラピッド8」を断念[1]
1965年(昭和40年)4月、富士フイルム、シングル8を発表、撮影機「フジカシングル8 P1」、映写機「フジカスコープM1」、「フジカスコープM2」、撮影用フィルムカラーリバーサルフィルム「フジカラーR25」(デイライト、ASA25)・黒白フィルム「ネオパンR50」(ASA50)と「ネオパンR200」(ASA200)を発売。
1999年(平成11年)3月1日、フィルムの需要量が全盛期から約25年が経過し、1%に大幅縮小したことからコストが大幅に増大し、6種類のフィルム生産を維持できないとして、サイレントフィルム「フジクロームRT200」「フジクロームR25」、同時録音が可能な「フジクロームRT200サウンド」「フジクロームR25サウンド」、アフレコ可能な「フジクロームRT200アフレコ」「フジクロームR25アフレコ」の製造販売をすべて終了し、新製品として「フジクロームRT200N」「フジクロームR25N」の2種のサイレントフィルムの製造販売を開始、サイレントのみに絞った。サイレントの新製品は従来品と比して、「RT200N」で213円(新価格1,600円)、「R25N」で187円(新価格1,300円)の幅で希望小売価格の値上げを行った。これに対応するため、現像部門であるフジカラーサービス(現在の富士フイルム)は、現像時にサイレントフィルムにマグネストライプ塗布を行う新サービス「アフレコ仕上げ」を導入した。
2009年(平成21年)6月2日、2010年5月の最終出荷を以ってタングステンタイプの「RT200N」を、2012年3月の最終出荷を以ってデーライトタイプの「R25N」を生産終了し、また同時に2013年9月を以って富士フイルムの自社現像サービスを終了することを発表した。[4]
2010年(平成22年)5月、タングステンタイプのRT200Nが生産終了。
2012年(平成24年)3月、デーライトタイプのR25Nが生産終了。これによりシングル8フィルムを生産しているのは東京都墨田区の「レトロエンタープライズ」のみとなった。
2013年(平成25年)9月30日、この日を以って富士フイルムのシングル8自社現像サービスを終了、これによりシングル8フィルムの現像を取り扱っているのは東京都墨田区の「レトロエンタープライズ」のみとなった。
概要
撮影機ヤシカTL-30, 1966年。