シャマシュ
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ハンムラビ法典碑頂部に彫られたシャマシュ(向かって右側)とハンムラビ(向かって左側)。シャマシュがハンムラビに王権の象徴である「輪と棒」を与える場面。

シャマシュ(Shamash, ?ama?)は、メソポタミア太陽神[1]シュメール語ではウトゥ(Ud)と呼ばれる。シャマシュはアッカド語で「太陽」、ウトゥはシュメール語で「太陽」または「日」の意[2]

シュメールにおける原初の5都市のうち、天から与えられた4番目の都市シッパル、ほかラルサにおいても都市神を担い、両都市に神殿「エバッバル」を持つ[3]。シュメール人は太陽を白色と見ており、エバッバルは「白く輝く神殿[4]」の意を含み別名「白い家」とも呼ばれていた[5][※ 1]

元来は女神とされていたが、アッカドのシャマシュにシュメールのウトゥが取り込まれていく信仰過程で、性別が反転し男神に変化していった[1]
概要

日の出と共にマシュ山(英語版)のそばにある東の門から現れ、全てを照らしながら天空を横切り、夕方になると西の門より天の奥へと帰り一夜を過ごすと、翌朝再び東の門から現れるという[5]。その姿は肩から太陽光線を放つ、長い髭を蓄えた長い腕の男性として描かれる[5](そもそも、長い髭や長い腕は、太陽円盤から放射状に伸びる太陽光線の、擬人化だと考えられる)。シャマシュのシンボルはバビロニアでは四芒星に4束の波状線が組み合わされたもの、アッシリアでは有翼日輪[2]、または太陽円盤が一般的[1]

シャマシュのシンボルである四芒星と波型

ニムルド遺跡で発見されたシャマシュを表す有翼日輪のレリーフ

神性

シャマシュはシュメール・アッカドにおける数多い神々の中でも特に[※ 2]、天空のアヌ(シュメール名:アン)・大地のエンリル(シュメール名:ヌナムニル)・深淵エア(シュメール名:エンキ)を3柱とする「大いなる神々[※ 3]」の序列に属する有力な神の一角であったとされる[6]。偉大でありながら人間にとっては身近な神であり、古代メソポタミアでは守護都市であるラルサとシッパルを越え広く崇拝された。それはシャマシュが、多様な神格を宿していたことに由来する[1]
善良なる太陽神

太陽神として日輪の恵みをもたらす一方、破壊的な力の化身でもあった[※ 4]。彼の手に握られた武器は太陽の持つ灼熱と暴力を象徴し[※ 5]、メソポタミア周辺の異民族を従え正義を執り行う、太陽神の中に戦士としての一面を備えていたという[1]。ただし古代メソポタミアでは、を暦の基準とした太陰暦を採用するなど月の方が太陽より優位にあったため、序列自体は高くともエジプトの太陽神ラーのように国家神として重要視されることはなかった[5]。そんなシャマシュは基本的には優しく、善良な神であったとされる[1]
正義の神

第一に、シャマシュは正義を司る法と裁判の守護神として崇められ、「真実と正義の主」「天と地の裁き主」「運命を決する方」などの添名で呼ばれていた[7]。バビロニアでは、シャマシュよりハンムラビ法典ハンムラビに与えられたとされる説話も残されている[1]
冥界の神

第二の神格は「生者を守る神」[7]。ここでいう生者の守護神とは冥界神と同義であるが、冥界神と言っても罪人を裁くためにあるいわゆる地獄に居るような恐ろしい神のことではない。諸説ある古代メソポタミアの宇宙観の中で有名なものに、世界を天・地・地下に三分し、地下を更に深淵と地下世界に二分した内の最下方、そこに死者が行きつく場所(すなわち冥界)を配していた、というものがある[8]。冥界は生前の行いの善し悪しに関わらず、死者となれば皆一律に行けなければならない暗く乾燥した世界であるが[8]、シャマシュはそうした冥界を「照らす」ことで、地上を脅かす地下世界の悪霊などを制御すると信じられていた[9]。冥界の諸霊に起因する疫病や災厄からの救いを願うアッカド語の祈祷が、シャマシュに最も多く捧げられていたのはこのためである[10]。概要で触れている通り、シャマシュは夜を西の果てで過ごすというが、一説によればその場所がまさに冥界であった[5][※ 6]。夜になると冥界を照らして生者を護る一方、昼には地上を照らし万物を見通すとされた[9]
占いの神

第三に、万物を見通すシャマシュは占いを司るとも言われる[7]。シュメールにおける主な占いの方法は、動物の内臓観察[11]。特別にと殺された子羊などの肝臓や腸、ときに肺や胆のうの色形や腫瘍の有無などを検分し、吉兆を占うというものである。肝臓占いはより高度になりつつ、バビロニアでは占星術気象学などがベターとなっていった[11]
伝承におけるシャマシュ

イシュタル(シュメール名:イナンナ)とは双子の兄妹[5]。イシュタルの姉に当たるエレシュキガルとも兄妹であるが、双子ではない。ほかに兄弟とされるアダド(シュメール名:イシュクル)、アムル(シュメール名:マルトゥ)など数名の神々においては諸説ある。

配偶神はアッカドにおける暁の女神アヤ[12][※ 7]、女祭事(神官)はギルガメシュの母ニンスン[13]。子どもはシュメール王名表によればメスキアグガシェルだが、ルガルバンダ叙事詩ではエンメルカルがシャマシュの御子という称号を得ている[14]。また、火の神ヘンドゥルサグを設けたとも言われる[1]
系譜

神々の序列は必ずしも一貫しているわけではなく、言わば形成過程にあり現存する系譜は未完成である。故に矛盾点も多く統一性に欠けるが、主にシュメール系統とアッカド系統に分けることができる。以下、代表的なもの。※実線は親兄弟、点線は婚姻関係、*は女神であることを示している。-アッカド系統-

・アヌを中心とした系譜[15]

     アンシャル キシャル  
  
                
      
      アヌ                   ナンム    
                    
                                       


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