シナ・チベット語族
話される地域東アジア
言語系統世界でも主要な語族の一つ。
祖語シナ・チベット祖語
下位言語
シナ語派
チベット・ビルマ語派
ISO 639-2 / 5
シナ・チベット語族(シナ・チベットごぞく、シナ・チベット諸語[1][2]、中国語:漢藏語系、英語:Sino-Tibetan languages)は、主に中国、東南アジアなどアジアの民族によって話される、数百の言語から成る語族を指す。トランス・ヒマラヤ語族(Trans-Himalayan)と呼ばれる場合もある[3]。代表的な言語としては、中国語、ビルマ語、チベット語が挙げられる。
2019年以降の系統学的研究によって、シナ・チベット語族が農業伝播と共に拡張したという仮説の確度が高まった。Sagart et al. (2019) とZhang et al. (2019)はそれぞれ、この語族が7200年余り前の中国北部 (North China) に居住していた雑穀 (millet) 農耕民族に由来すると結論づけている[4][5][6][7]。 シナ・チベット語族は、通常、チベット・ビルマ語派とシナ語派に二分され、これらは姉妹群であると考えられている[8][9]。一方、シナ語派を除くチベット・ビルマ語派を単系統群と認めない説もある[10]。後者の場合、「チベット・ビルマ祖語」は「シナ・チベット祖語」と指示対象が同一となる。実際、ベイズ法を用いてシナ・チベット語族の系統樹を推定した研究のうち、Sagart et al. (2019) は後者を支持しているが、Zhang et al.(2019) は前者を支持している。 なお、ミャオ・ヤオ語族やタイ・カダイ語族は、類型論的に声調言語・孤立語である点、多くの語彙を共有している点などから、かつてはシナ・チベット語族に含まれると考えられていた。しかし、研究の進展によって語彙の共通性は主に借用によるものであることが明らかになり、借用語を除いた語彙の共通性が乏しいことから、現在では別の系統群と見做されている[11][12]。 そもそも、シナ・チベット語族の祖語に声調が存在したかは明確でない[13]。ただし、『詩経』の押韻、漢字の音符、そして漢字による借用語や固有名詞の表記 (例:「對馬
概要
また、形態的類型論上、シナ・チベット語族の多くは孤立語である (例: 現代中国語、カレン語、ロロ・ビルマ諸語、トゥチャ語)。ただし、ギャロン諸語(英語版)やキランティ諸語(英語版)のように複統合語の特徴を持つ言語も存在する[16]。なお、ギャロン諸語では、中国語やチベット語に痕跡として残る接辞が、依然として生産的に用いられている[17]。 中国語・チベット語・ビルマ語ほかの言語に親縁関係があるという説は19世紀はじめに提出され、現在では広く認められている。当初は古くからの文献をもった言語を対象にしていたが、後には書記体系がごく最近に発達したか、まったく存在しない言語にまで対象が広げられた。しかし、インド・ヨーロッパ語族やオーストロネシア語族に比べると、シナ・チベット祖語の再構は十分確立しているとは言えない。その原因は、各言語の違いがきわめて大きいこと、大部分の言語が屈折を行わないこと、言語接触の影響が強いことにある。それに加えて、山奥で話される小規模な言語の多くは調査が困難で、しかも国境の紛争地域にあることが多い[18]。 18世紀に何人かの学者が、2つの古い文献を持つ言語であるチベット語とビルマ語の間に平行関係があることに注目した。19世紀はじめに、ブライアン・ホートン・ホジソンらは北東インドの高地と東南アジアの文字を持たない言語も、チベット語やビルマ語と関係があることに注目した。「チベット・ビルマ語族」という語は、1856年にジェームズ・リチャードソン・ローガン
研究史
初期の研究
19世紀中頃から、「インドシナ」(Indo-Chinese)すなわち東南アジアの言語が4種類の語族からなることがローガンらによって明らかにされた。すなわち、チベット・ビルマ語族、タイ語族、モン・クメール語族、マライ・ポリネシア語族である。1823年にユリウス・ハインリヒ・クラプロートは、ビルマ語・チベット語・中国語の3つは基礎語彙が一致するが、タイ語・モン語・ベトナム語はこれらとは大きく異なることに注目している[22][23]。エルンスト・クーンはこれらの言語を「中国・シャム語」と「チベット・ビルマ語」の2つの語派に分けた[注釈 1]。アウグスト・コンラーディは1896年の有名な分類においてこのグループをインドシナ語族と呼んだが、コンラーディはカレン語を除外した。インドシナ語族の名称は広く使われたが、コンラーディがベトナム語を除いたことは議論を呼んだ。フランツ・ニコラウス・フィンク(英語版)は1909年にカレン語を中国・シャム語の第3の語派に含めた[24]。