サルブタモール
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サルブタモール
IUPAC命名法による物質名
IUPAC名

(RS)-4-[2-(tert-butylamino)-1-hydroxyethyl]-2-(hydroxymethyl)phenol

臨床データ
胎児危険度分類

AU: A

US: C




法的規制

AU: 薬剤師取扱薬(S3)

CA: OTC

UK: 処方箋のみ (POM)

US: ?-only

投与経路吸入、経口、静脈注射
薬物動態データ
代謝肝臓
半減期1.6 時間
排泄腎臓
識別
CAS番号
18559-94-9
ATCコードR03AC02 (WHO) R03CC02 (WHO)
PubChemCID: 2083
DrugBankAPRD00553
KEGGD02147
化学的データ
化学式C13H21NO3
分子量239.311
SMILES

HOc1c(CHO)cc(C(HO)NC(C)(C)(C))cc1

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サルブタモール(: Salbutamol)は短時間作用性β2アドレナリン受容体刺激剤であり、喘息慢性閉塞性肺疾患における気管支痙攣のリリーフに使われる。米国ではアルブテロール(米国一般名: Albuterol)と呼ばれる。

サルブタモールは世界中でもっともよく処方されている気管支拡張剤であり、吸入(定量噴霧式吸入器・ネブライザー)、経口(錠剤・シロップ)の形で投薬される。吸入によって投与された場合、気管支平滑筋に直接効果をもたらし、速やかに気管支平滑筋を弛緩させる。吸入開始後ある程度のリリーフはすぐに見られるとはいえ、サルブタモールの最大効果は5 - 20分のあいだに起こる。

サルブタモールは気管支平滑筋のほかに、子宮平滑筋も弛緩させるため、早産防止のために静脈注射で投与されることもある(日本では用法外)。また、β刺激剤の副作用として脂肪燃焼、骨格筋増強の効果があり、海外ではダイエットやボディビルディングの目的でサルブタモールの錠剤が使用されることもある。

1960年代に英国ウェアのグラクソ社アレン・アンド・ハンベリーズ部門によって開発(コードAH3365)、研究された。1968年にはネイチャー誌に、当時喘息治療に用いられていたイソプレナリンと違って、心拍数や血圧への作用を持たない気管支拡張剤として発表された。サルブタモールは1969年に英国でベントリン(Ventolin)の名前で販売され[1]、1980年には米国でベントリンが承認された[2]。日本では1973年にベネトリンの名前で販売された。
適応

サルブタモールは特に以下の症状において使用される:

喘息発作

喘息および可逆性気道閉塞をともなう他の容態(慢性閉塞性肺疾患を含む)の維持療法のあいだの症候リリーフ

運動誘発喘息に対する予防

高カリウム血症(特に腎不全患者)

嚢胞性線維症患者には、臭化イプラトロピウムとパルモザイムとともにネブライザーで霧化する

β2刺激薬として、サルブタモールは産科においても使用を見い出されている。サルブタモールの静脈注射は早産を遅らせるために子宮平滑筋を弛緩させる目的で使われる。アトシバンやリトドリンといった薬よりは好まれるが、その役割の多くはより効果的で、より忍容性が良く、経口投与できるカルシウムチャネル阻害薬ニフェジピンによって取って代わられている[3]
作用機序

他のβ2アドレナリン受容体刺激剤と同様、サルブタモールはβ2アドレナリン受容体との相互作用を通して効果を持つ。β2アドレナリン受容体は7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体である。この受容体に結合したサルブタモールは、Gタンパク質のコンフォメーションを変化させ、アデニル酸シクラーゼの活性化を導き、アデニル酸シクラーゼはアデノシン三リン酸(ATP)の環状アデノシン一リン酸(cAMP)への変換を酵素作用する。cAMPはプロテインキナーゼA(PKA)を活性化させ、PKAは平滑筋の弛緩を導く。

気道において、β2受容体の活性化は気管支平滑筋の弛緩を引き起こし、気道を拡大させる(気管支拡張剤)。子宮においては、β2受容体の活性化が子宮平滑筋の弛緩を引き起こし、出産を遅らせる。

β2刺激剤は、β1受容体よりβ2受容体に高い親和性で結合するためにβ2選択性が実現されているという説明がなされることがあるが、サルブタモールの場合は間違いである[4]。サルブタモールのβ2受容体(気管支平滑筋などに分布)への結合性はβ1受容体(心筋などに分布)へのそれの0.63倍であり、かえってβ1への結合性が強い。しかし、サルブタモールの気管支拡張作用は心悸亢進作用にくらべて17倍高く、心臓への作用が出ないごく少量で十分に気管支への作用を持つ。すなわち、この薬のβ2選択性は作用選択性である。
副作用

サルブタモールは、とりわけテオフィリンといったそれ以前の治療法と比べた時に、忍容性が良い。しかし、全ての薬物治療と同様に、薬の副作用が起こる可能性が存在する―特に大量吸入、または経口や静脈注射で投与されたとき。ありふれた副作用として、震え動悸、低血圧、および頭痛がある[3]。まれな副作用として、頻脈、筋痙攣、興奮、低カリウム血症、耳鳴り、子供の過剰運動、および不眠がある[3]

2007年、カナダ保健省の健康製品食品局は、早産防止のためにVentolin(硫酸サルブタモール)を点滴で投与された妊婦が狭心症を発する危険性について警告した[5]

サルブタモールの(S)-エナンチオマーは喘息に処方されたステロイドの抗炎症作用を阻害する。ところが、(R)-エナンチオマーはステロイドの作用を刺激し、二つの異性体の全体作用は明らかではない[6]
遺伝子多型とサルブタモールの効力

近年、喘息患者の遺伝子多型と薬の効力の関係についての研究が行われており、サルブタモールについてもその効力とβ2アドレナリン受容体の遺伝子多型とのあいだに関連性があることが明らかになっている[7]

複数の薬理遺伝学的研究によると、受容体の遺伝子型がGly16ホモである喘息患者に比べてArg16ホモおよびヘテロである患者はサルブタモールに対する応答が良い。ただし、コーカシアンと日本人[8]ではその通りであったが、インド人とアフリカ系アメリカ人では異なった結果が出ている。Gly16/Arg16多型とサルブタモール効力のあいだに関連があることは確かだが、単純な関係でないことが示唆されている。また、Gly16ホモの患者においてのみサルブタモールの常用によるピークフロー値減少が見られたという研究もある[9]

さらなる薬理遺伝学的研究と、受容体遺伝子の多型がサルブタモール効力に影響する機構の解明が待たれるが、将来的に遺伝子診断にもとづいてサルブタモールが処方される日がくると考えられている。
骨格筋増強作用と禁止薬物指定

サルブタモールには骨格筋の強度と耐久性を増す作用がある[10]。そのため、他のβ刺激剤とともに蛋白同化剤として多くの競技会の禁止薬物リストに載せられている。世界アンチ・ドーピング機関のリスト[11]では、吸入使用に限って治療目的使用の申請をすれば認められる。ただし、尿中サルブタモール濃度(フリーとグルクロン酸抱合体)が1000ng/ml以上の場合は異常値として扱われる。2007年イタリアの自転車競技選手アレサンドロ・ペタッキは、ジロ・デ・イタリア大会中のドーピング検査で1320ng/mlのサルブタモールが検出されたため陽性とされ、出場停止を受けた末にチームから解雇された[12]

サルブタモールには脂肪燃焼効果[13]と骨格筋増強効果があり、海外ではダイエットやボディビルディングの目的でサルブタモール錠が使用されている。ボディビルディングの世界では同じβ2刺激剤のクレンブテロール錠が使われていたが、豚肉からの摂取による食中毒事件によってクレンブテロールの心臓への副作用がクローズアップされたため、代替薬としてサルブタモールも使われるようになった。


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