サガルド
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サガルド

基本情報
種類果実酒
度数4-6度
発泡なし
主原料リンゴ
原産地バスク地方(特に スペインバスク州ギプスコア県
詳細情報
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サガルド(バスク語: Sagardo)またはサガルドア(バスク語: Sagardoa)[1]は、スペインフランスにまたがるバスク地方で生産され、サガルドテギ(Sagardotegi, [s?a?a?do?te?i])と呼ばれる醸造所/レストランなどで提供されるシードル(リンゴ酒)の一種である[2]バスク料理を構成する要素のひとつである。バスク州ギプスコア県が主要産地であり、サガルドテギはアスティガラガ(英語版)周辺に多く集まっている。サガルドテギで飲まれる以外には、ワインビールのようにボトル詰めされて売られている。サガルドの大部分は非炭酸であるものの、グラスに注ぐ際には高所から落とすエスカンシアールという注ぎ方で気泡を含ませる[3]。サガルドテギではタラのオムレツやステーキ、マルメロのゼリーやナッツとともに食される。
スペインのリンゴ酒

2003年のスペインの酒類販売量はビール(麦酒)が315万キロリットル、ワイン(ブドウ酒)が128万キロリットル、蒸留酒類が25万キロリットル(ウイスキー34%、ジン14%、ブランデー14%、ラム11%)、シードル(リンゴ酒)が8.5万キロリットルだった[4]。ヨーロッパにおけるリンゴ酒の販売量はイギリス(サイダー)の57万キロリットルが別格であり、スペインの8.5万キロリットルはフランス(シードル)の10万キロリットル、ドイツ(アップフェルヴァイン)の7万キロリットルなどと同等である[4]

スペインでリンゴが生産されているのは比較的冷涼なビスケー湾岸(エスパーニャ・ベルデ)のみである[4]。その中でもアストゥリアス地方バスク地方がリンゴ酒の産地として有名であり[4]、バスク地方ではスペイン全体の約20%を、それ以外のほぼすべてをアストゥリアス地方で生産している[4]。バスク地方のリンゴ酒はアストゥリアス地方のリンゴ酒よりも酸味が強いとされる[4]
歴史瓶入りのサガルドバスタン谷でのサガル=ダンツァ(リンゴ舞踊)
中世

バスク地方のリンゴ酒が初めて文献に登場するのは11世紀や12世紀に遡る。1014年にナバーラ王サンチョ3世レイレ修道院に特使を送った記録の中で、リンゴ栽培とリンゴ酒生産に言及した。1134年頃には巡礼者Aymeric Picaudが日記「Codex Calixtinus」でバスク人はリンゴ栽培とリンゴ酒を飲むことに卓越していると言及した。16世紀の宗教裁判官であるPierre de Lancreもまた、バスク地方を「リンゴの土地」であると言及した。北西大西洋のグリーンランドニューファンドランドに遠征するバスク人捕鯨者や漁業者は、リンゴ酒を真水より優先して使用していたことで知られる。特にワイン(ブドウ酒)の流通が困難だった山間部でリンゴ酒が広まり、「ワイン」(ブドウから生産するアルコール飲料)をリンゴから生産するアルコール飲料であると認識していた地域もあったとされる[1]
姓や地名との関連

歴史的にバスク地方の農場の大部分はリンゴ園を所有していたし、バスク語の姓やバスク地方の地名の多くはリンゴ栽培やリンゴ酒生産と関係している。その最初期の例として、1291年にはシャガロと呼ばれる場所がナバーラ地方の文献に記載されている。1348年以降に書かれた文献には、「広いリンゴ園」の意味を持つシャガスティサバル、「リンゴ園」の意味を持つシャガスティ、「2つのリンゴ園」の意味を持つビシャガスティ、「リンゴの道」の意味を持つシャガルビデ、「新しいリンゴ園」の意味を持つシャガスティベリ、「美しいリンゴ園」の意味を持つシャガスティエデル、「上部のリンゴ園」の意味を持つシャガスティゴイティア、「少数のリンゴ園」の意味を持つシャガスティグチなどの姓が記録されている。その後にもサガルドの生産に関連する姓として、「圧搾機」を意味するドラレ、「圧搾機の家」を意味するドラレチェ、「新しい圧搾機」を意味するトラレベリ、「大きな圧搾機」を意味するトラレサル、「小さな圧搾機」を意味するトラレチピ、「2つの樽」を意味するウパビ、「樽の建造」を意味するウペラテギなどが登場する。
伝統との関連演奏中のチャラパルタ奏者

バスク地方に伝わるチャラパルタという打楽器はリンゴ酒の製造と密接に関係している。リンゴ酒の破砕に用いる木板を円筒状の棒で叩いて打楽器としたものであり、リンゴ酒の発酵が終わると隣人を呼んで祝うために叩かれた[5]。あまり知られていないものの、チャラパルタに関連する楽器にキリコケタ(英語版)がある。

リンゴ酒は妊娠中の女性にとって好ましいものであるとする言い伝えがある。バスク地方には「サガルドは子どもをもたらす。サクランボは子どもを奪う」(sagardoak umea ekarri, kerexiak eraman)というバスク語のことわざがある。スペイン語にもよく似た「シードラは良い。サクランボは悪い」(la sidra es buena, las cerezas malas)ということわざがある[6]

バスク地方に伝統的に伝わるベルチョラリ(即興詩歌人)はリンゴ酒、サガルドテギ、リンゴ酒生産を題材にすることがある。以下に示しているのは1893年に歌われたベルチョ(即興詩歌)である[7]

バスク語英語訳日本語訳

Lenago jendia zeguen
oso tristura aundiyan
orain jaietan kanta ditzagun
lasai sagardoteriyan

Previously people were
highly dispirited
but now let us sing on the fairs
at ease in the sagardotegi

かつて人々は
ひどく落ち込んだ
しかし今では市(いち)で歌う
安らぎとともにサガルドテギで

低迷と復活エルナニのサガルド・エグナ

伝統的にリンゴの収穫は共同作業であり、圧搾機を所有していない住民も収穫時の貢献度に応じてリンゴ酒を受け取ることができた。しかし、19世紀にはリオハ・アラベサでワイン生産が拡大し、また穀物生産やそれに関連するビール生産が拡大すると、リンゴ酒の消費量は減少し、リンゴはリンゴ酒の原料としてではなく生食用の果物とみなされるようになった。20世紀初頭、バスク地方の各県はリンゴ酒生産を支援し、リンゴ園の植栽に補助金を出したが、1930年代後半のスペイン内戦とそれに続く苦難の結果、多くのリンゴ園が放棄されてリンゴ酒の生産量は急減した。この期間のリンゴ酒生産はギプスコア県を除いて実質的に停止した。

1980年代、ギプスコア県ウスルビル(英語版)の町はリンゴ酒の飲酒を促進するためのサガルド・エグナ(リンゴ酒の日)の先駆者となった。ウスルビルのサガルド・エグナが1981年に初開催されると、ウスルビルの成功に他の町も続き、自らの町でもサガルド・エグナを祝うようになった。
生産過程
リンゴ栽培伝統的手法によるリンゴの収穫

バスク語でリンゴは sagar(サガル)と呼ばれる。リンゴ酒生産には多くのリンゴ品種が使用されている。バスク語学者のレスレクシオン・マリア・デ・アスクエが1905年に出版した辞書だけでも、80品種以上のリンゴが記載されている[8]。生産者が求める個性に応じて異なる品種が使用される。大半のリンゴ酒用リンゴ品種は隔年結実性であり、収穫の翌年には花芽を付けるだけで実を結ばない性質を持っている[4]。バスク地方のリンゴ酒はアストゥリアス地方のリンゴ酒よりも酸味が強いとされる[4]
リンゴ品種バシェリに並べられたリンゴ

エレシラ種 (Errezila) : はっきりした味わいで甘い(緑色のまだら模様) : もっとも一般的な品種。

ゲサ・ミニャ種 (Geza mina) : はっきりした味わい(緑色)

ゴイコエチェア種 (Goikoetxea) : はっきりした味わい(赤色)

モコア種 (Mokoa) : はっきりした味わい(赤色)

モソロア種 (Mozoloa) : 甘くみずみずしい(緑色)

パトゥスロア種 (Patzuloa) : 甘くみずみずしい(薄い緑色)

チャラカ種 (Txalaka) : 酸味と甘みを兼ね備える(明るい緑色)

ウガルテ種 (Ugarte) : 酸味が強い(赤色)

ウルディン・サガラ種 (Urdin sagarra) : はっきりした味わい(上部は赤色、下部は緑色)

ウルテビ・チキア種(Urtebi txikia) : はっきりした味わい(黄緑色)

生産機械を用いない伝統的なリンゴの圧搾手法


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